04話 望まない初邂逅
一章
04話
「というのがアリアからの情報です。アイベル様」
帝国騎士団の諜報員の一人であるアリアから聞いた情報を、翌日ギウスはアイベルへと報告していた。
「それは流石に予想外だったね。まさか冒険者協会もそこまで掴んでるとは…」
「『水渦のメフィト』の存在も問題かと」
「そうだね。もしかしたら『魅惑する者ベルリリス』を討伐した後すぐに南沖に行くことになるかもしれない」
「しかし『魅惑する者ベルリリス』との戦闘での被害規模が想定できない現状では難しいと思われます…」
「ギウス君。君はもう少しこの僕を信じてくれてもいいんじゃないかな!!」
「と言いますと?」
ギウスは空間に穴を開け、その穴に手を突っ込みそこから一つの書物を手に取る。
「帝国図書館で調べてきたらなんとビンゴ」
アイベルが手に取った書物に書いてある文字は今までに見たことのない文字であり、どのような意味なのか全く理解する事が出来ない。
「この本は禁書に分類される物で『魅惑する者ベルリリス』に関しての記述があったのさ」
「禁書ですか。よく解読できましたね」
「相当苦労したらしいね。それで内容なんだけど…」
アイベルがペラペラと禁書のページをめくっていくと辺りの空気が一変し、光が差し込んでいるはずの部屋の中が少し暗く感じる。
「あったあった。ギウス。戦闘準備」
「な!?」
まさかの命令にギウスは急いで剣に手をかける。アイベルはめくっていたページを止め、ゆっくりと語りだす。
「Efdmbsf jo uif obnf pg uif Dqfbupq. Tbdsjgjdg nz qpxfs up tvnnpo b qbsu pg Beruririsu't Ejwjof Cpez joup uijt xpsje」
ベルリリスという単語だけ聞き取れはしたが、部屋は呼吸が少ししにくくなるほど魔力濃度が濃くなり空間に硝子が割れたかのようにヒビが入る。
「アイベル様!!どこを信じればいいんですか!!」
「大丈夫大丈夫!これも情報収集のいっかんだよ!!」
割れた空間の中から1メートル程の腕が一本現れる。手の甲には青色の眼球が付いており、真っ白な肌に漆黒の綺麗な布を纏っている。
「『妾を呼び出しし者よ。望みを唱えよ』」
腕の至る所に口が生え、女性の声で腕はそういう。
「僕は君の死を望む」
眼の前が歪に見えるほど一層空気が重くなり、腕から魔力が漏れ出す。
「『…不敬也。己の死を望むものよ、汝に死を与えよう』」
「そうはならない」
その瞬間、腕の真上からギウスが剣を振り下ろす。しかし、ギウスの腕が急に止まる。
「『強制契約。汝、妾に対する危険行為を禁ずる』」
「それは出来ない相談だな。絶対成抵抗」
止まっていた剣が時間が動き出したかのように勢いよく腕に振り下ろされる。ぎりぎりで腕は躱すが微かに腕に傷がつく。傷口からは鮮血ではなく黒い粒子のような物が出てくる。
「『何故…?何故何故?』」
「教えるわけ無いだろ」
ギウスは振り下ろした剣を再び腕へと向ける。
「『停止せよ』」
腕がそう言うのとほぼ同時にギウスの頭がバチッ!!と黒く弾ける。そしてギウスは後ろに弾け飛ぶが空中で大勢を立て直す。
「『強制契約。汝、彼の者を殺害せよ』」
「おっと!」
人差し指を向けられた瞬間アイベルは何かを避ける。
「成る程ね。高速で精神魔法を飛ばしてるって原理か」
アイベルは瞳を輝かせ、魔力眼を発動させる。
「敵は一人じゃないぞ。聖光弾!」
ギウスの周囲に白く光る球体が次々と生み出され、腕に向かって放たれる。それと同時にギウスも腕に向かって走り出す。
「マズいッ吸収結界!」
腕は空間を爪で切り裂き、そこから大剣を引きずり出す。引きずり出した大剣を重さを感じさせない速さで振り回し聖光弾を切り裂く。切り裂かれた聖光弾は部屋のそこら中に当たるが、派手な音と煙を出しながら結界に飲み込まれる。
「部屋を壊す気かい!!」
「今はッ!部屋どころじゃ無いでしょう!!」
目にも止まらぬ速さで腕とギウスは打ち合う。腕は幾らか聖光弾をくらうも痛みを感じないかのように全く動きが鈍くならない。
「『強制契約。彼の者を殺害せよ』」
腕は再び同じ言葉を繰り返すが、アイベルとギウスには何の異変もない。しかしギウスは眉を顰める。
「不味いね…城内の者が洗脳された」
「部屋が壊れても言い訳はアイベル様がしてくださいよ!!」
「う……分かったよ!!」
アイベルは禁書を取り出したときと同じように空間から短剣を五本とりだす。それらを激しい剣戟を行っているギウスへと投げ、それを全て完璧なタイミングでキャッチする。
「フンッ!」
その短剣を四方の壁に四本投げ、残り一本を左手に握りしめる。
「操り人形の行進ッ」
「『フ…妾の領域に踏み入るか!!』」
アイベルの精神魔法を弾き、腕は先程とは違いアイベルへと幾十もの精神魔法を放つ。
「流石にこれはマズ…」
ギウスは腕がアイベルに向いた一瞬を見逃さず、右手に持った短剣を腕へと突き刺す。
「よく味わえ、聖雷業!!」
四方の壁に突き刺さった短剣から伸びた雷が凄まじい速さで腕を縛り付ける。ギウスはそれを確認するとぎりぎりで精神魔法を避けたアイベルを抱えて部屋の扉を吸収結界事切り裂き外へと飛び出る。
その瞬間先程まで居た部屋が轟音とともに光に飲み込まれる。
「フゥーーー………」
「イタタタタ」
ギウスは大きな溜息を零し、アイベルを下ろす。
「アイベル様。魔力反応はどうなってますか」
「人使いが荒いなぁ…」
ギウスがこれ程までにお前が言うか…?と言いたくなったのはこれが初めてだった。
「…これは驚きだ。まだ生きてるよ」
それを聞いたギウスは部屋に戻り、バチバチと光っている魔力と煙を振り払い腕がいた場所へと近寄る。
「聖雷業を直接浴びて消滅じゃなくて瀕死で済むのか」
地面には少し黒く焦げた腕が全く動かずに転がっていた。
「流石に、一部とはいえ【邪神】の生命力は桁が違うね」
少し煙に咳き込みながら後を追ってアイベルが中へと入ってくる。
「止めを刺しますか?」
「そうしよう。研究サンプルとして持ち帰ったら研究員達が大喜びするだろうけど精神魔法で洗脳されるのがオチさ」
確認を取ったギウスは腕に剣を突き刺す。すると腕は黒い粒子となって崩壊していく。
「……今度は開けた場所でしようか」
アイベルは天井を見上げると、そこにあったはずの天井は無く部屋の中のはずが何故か晴れやかな空が見えた。
アイベル書いてると楽しい…!!