03話 聞きたくない知らせ
一章
03話
重要な取り決めが行われた会議の翌日、ギウスは自分の執務室で次々と書類を片付けていた。ちらりと時計を見るも時刻は12時を回っている。
「もうこんな時間か。そろそろ今日も見回りに行くとするか」
ギウスはそう言いながら上着と剣を手に取り、城を出ていく。騎士団と言っても魔族が生み出し、残していった魔物の大量発生や戦争が起こらない限りは基本的に街の見回りか書類とにらめっこするのが仕事だ。
「おはよう御座いますギウス様」
「おはよう」
城の門番と挨拶を交わしながら、いつもと同じ道を歩く。
「お、ギウスじゃねぇか!」
声がかけられた方を見ると見知った顔がいた。
「アリアか!久し振りだな」
アリアと呼ばれた女性はギウスに声をかけられると嬉しそうに近寄ってきた。
「元気そうじゃねぇか!てっきり【邪神】関連のゴタゴタで消されたかと思ってたぜ!」
冒険者協会や商団等は一つの大きな組織であるため、【邪神】に関することを少なからず知っているものもいる。
「おいおい、冗談で済まされるとはいえあまり大声で言うことでもないだろ」
「それもそうだな。帝国騎士団副団長様」
ニヤニヤとしながらアリアはギウスをからかうが、ギウスも慣れたように返す。
「そちらこそ。まさかのかの伝説級冒険者に出会えるとは光栄だ」
「ハハハハハ!もっと喜んでもいいんだぞ?」
「本来なら酒を交わして喜び合いたいところだが仕事中だからな。暫く帝都にいるんだろ?またの機会に取っておこう」
「おっと。まさか俺が昔ながらの友人と語らいに来ただけだと思ってるのか?」
ギウスは貴族出身ではなく平民出身であり、冒険者として大成している所を帝国騎士団にスカウトされ今の地位にいる。
「あるきながら話そう。『水渦のメフィト』って【邪神】は聞いたことあるか?」
「……それがどうした?」
『水渦のメフィト』と呼ばれる【邪神】は伝承によると帝国領の南の海に潜んでいると言われる存在だ。
「帝国領南沖で新種の亜人が確認されてる」
「成る程。新たな使いっ走りか」
「そうだろうな。でだ。聖職者に確認させたが【神性】が確認されたそうだ」
【神性】と呼ばれる物は、【邪神】や【眷属】が持っているとされる特殊な魔力だ。この星には本来であれば存在しないはずの魔力、と言われている。
「他の【邪神】に呼応し始めたとみて間違いないなあれは」
「冒険者協会の動きはどうなってる」
「会長は人類の敵と見なそうとしてる。新たな魔王が誕生したとでも言うかも知れないな」
「それは困るな…混乱の時代に戻らせる必要はないだろう」
「それは俺も同じ意見だ。だが反応の大きさに違いはあれどそこらかしこで【神性】が観測され始めてる」
「聖王国に聞きにでもいくか?過去の文書で【神】と記された存在はどれ程いますか?とでも」
「アハハハ。面白い冗談だな。そんなの数えてたらきりが無い」
アリアは背後にちらりと視線をやる。
「協会の監視者が集まってきてる。そろそろ俺は適当な村でも救ってくる」
「情報提供感謝する」
「ならボスに給料上げてくれって言っていてくれよ!」
そう言うとアリアは建物の屋根へと登り、目にも止まらぬ速さで走り去っていった。