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第四十三話  見えざる効能

 エリザの【内助の功】をバナージュの【愛妻家】で増幅する。“天賦ギフト”を掛け合わせた夫婦合作の幸運。


 だが、それは果たして幸運なのだろうか、ソリドゥスとアルジャンには疑問であった。



「まあ、お二人の“天賦ギフト”の相乗効果が凄まじいのは、こちらも肌で感じ取りましたよ。都落ちしてから半月ほどで、王位が転がり込んできたのですから」



「私としては、財宝発掘とかで大金持ちコースの方が良かったんだけどね。運気がそっち方面に流れたのは残念だったわ」



「おかげで、王都は後継問題で絶賛混乱中で、刃傷沙汰にまで発展してますからね」



「そこが私の気になっていることでもあるのよね」




 ソリドゥスはため息を吐き、頭を抱えた。



「ここからは推察に過ぎないんだけど、私はエリザの能力を読み違えたのかもしれない」



「というと?」



「伴侶の運気を上昇させる、これは間違いないと思うのよ。現に、前のザックのときも、結婚した直後に厩舎頭に抜擢されたんだしさ」



「ですよね。ザックさんもお嬢様に拾われて、厩舎番として真面目に働き、結婚して、次いで厩舎頭ですもんね。順調な人生という感じで」



「そう、その結婚直後が問題なわけ! 覚えている? ザックが出世する切っ掛けを」



 アルジャンは腕を組んで考え込み、およそ二年近く前の状況を思い出した。



「たしか、旦那様が馬で出かける際に、乗馬が突如として暴れ出し、危うく落馬しかけたのを、ザックさんが助けたんですよね。それから旦那様のお気に入りになり、厩舎頭に抜擢され、さらに馬に関することも全部任され、近侍、馬廻りに近い待遇になった」



「そう、それ! 今回も似たような状況じゃない?」



「ああ、それもそうですね。結婚した直後に、第一王子が落馬して死亡。次いでその後のゴタゴタで、第二王子も死亡ですからね。……あ、エリザさんの“天賦ギフト”の本質って、運気を上昇させる、ではなくて、運気を周りから吸い上げる、ということですか」



 状況からアルジャンはそう判断し、それに同意だとソリドゥスは首を縦に振った。



「お父様が落馬して死ななかったのは、そこまでの運気を吸われなかったから。兄王子が二人とも死亡したのは、“天賦ギフト”の相乗効果で吸われつくしたから、とも考えられるのよね。まあ、お父様の場合は死なずにいた方がザックに有利、兄王子の場合は死んだ方がバナージュに有利、ということかもしれないけど」



「で、今回はそうした個人レベルの運気を吸っただけでは飽き足らず、王都が丸々運気を失ってしまっているのかもしれない、と」



「二人の愛は本物で、しかも超が頭に付くほどのアツアツ! どこまで運気が吸われるか、分かったもんじゃないわよ」



「まあ、少なくとも、お二人に影響が出ない範囲では、どこまでも運気の流れとやらは、めちゃくちゃになるかもしれませんね」



「まいったなぁ、本当に」



 二人の幸せのために狙ってやったとは言え、とんでもないことになったものだとソリドゥスは反省した。想定以上に効果が強すぎたのだ。



「しかし、運気がバナージュさんに流れ込んでいるというのなら、この馬車列は大仰過ぎませんか? 運の強さで、襲われても助かったりすると思うのですが」



「ああ、これは小道具よ。こそこそ帰ってくるんじゃなくて、国王陛下の招請を受けて堂々と帰還した、っていうのを印象付けるためにね。近衛の騎馬兵が護衛しているんだもの。勅命でないと動かないわよ、これ。バナージュの健在ぶりを見せ付け、王位継承問題に終止符を打つ、ちょっとした余興というかパレードと言うか」



「なるほど。……あ、実家に送られた手紙はその件でしたか」



「正解! 見事な読みね」



 ソリドゥスは抜け目がない。王都に帰還した後の状況作りは、すでに手を打っていたのだ。



「と言っても、大したことは伝えてないわよ。実家に伝えたのは、第三王子バナージュが王位継承者として帰還することと、その別邸の掃除が始まって衛兵が常駐するようになったら帰還間近、ってことだけ伝えといたわ。あと、帰還が近付いたらその情報をさりげなく流しておいて、ともね」



「やれやれ。エリザさんがわざわざ秘密にするようにと、陛下に条件出したと言うのに、身内から漏らしてしまわれるとは」



「あれは“陛下”に出した条件であって、“あたし”とは何の約束もしてないもんね~。情報をどう扱おうが、こっちの自由でしょ?」



「いやはや、シンデレラを売り飛ばし、王子まで売り飛ばそうとしている、度し難い悪徳商人ですね。いずれ信用を失いますよ」



「開店前だから、セーフよ、セーフ」



 実際、店は構えていないし、“ソリドゥス商会”なるものは影も形もないのだ。存在しないものの信用など、初めから存在しない、と言うわけだ。



「何よりさ、ちょっと見てみたいのよ」



「何をですか?」



「人間がどれくらい醜悪なのかってことをね」



「……ああ、出発時の逆をやるわけですか。都落ちする時、こちらの馬車を嘲るように眺めていた連中、かなりいましたもんね。で、それが三月もしない内に帰還し、次期国王に内定。とくれば、バナージュさんの歓心を買おうと、有象無象が寄って来ますね、これは」



 状況が見えているだけに、アルジャンとしてはとても笑えないことであった。どう言う格好や口上で擦り寄って来るのか、興味はあるが見れたものではないレベルの悲喜劇が、生み出される事だろうことが予想できた。



「正直言って、見たくもないですね」



「気持ちは分かる。でも、ああいう連中が渦巻くのが、王宮や社交界なのよ。今のうちに慣れておかないと、渡っていけないわよ」



「俺は察しがいい分、真っ先に心が壊されてしまいそうです」



「あんたは絶対潰れないから大丈夫だわ」



 アルジャンの図太さを誰よりも知るソリドゥスである。目の前の幼馴染が潰れる様など想像ができず、鼻で笑ってしまった。



「まあ、お嬢様は今後、能力を過信しすぎないようにしてくださいね。穴があることが発覚したんですし、おかげで国中がメチャクチャになっちゃいましたし」



「分かってるわよ。王都は混乱。田舎は平和。新婚二人の幸せと、王国の行く末が、必ずも同一方向とは限らない。運気の乱れでこんなグチャグチャになるなんて、こっちも想定外だもの。というか、私の“天賦ギフト”、鑑定した他人の“天賦ギフト”の隠された仕様が多過ぎよ!」



 このことに気付かされた時、ソリドゥスは“天賦ギフト”を手にしたときの自分の浮かれっぷりが恥ずかしくなってきた。


 最強の眼などと持て囃されたりもしたが、どう考えても節穴である。見えない数字や効能が多すぎて、情報を処理しきれていなかったということである。


 “物”と“人”ではかくも違うのかと、大いに反省しなくてはならなかった。



「まあ、気付いてよかったのでは? 店を構えた後に大ポカやらかすよりかは、遥かにマシでしょう」



「そうね。これから“人”を鑑定するときは注意するわ。こうやってあなたに相談することもあるかもしれないから、そのときはよろしくね」



「了解しましたよ、ソル」



 不意に愛称で呼ばれて、ソリドゥスは顔を真っ赤にした。



「ま、また! て言うか、絶対からかっているでしょう!?」



「その通りですが、何か問題でも?」



「大アリよ! 従者が主人をからかうなんて言語道断!」



「今は周りに誰もいませんから、主従ではなく、気の知れた友人として話していますが、なにか?」



「気の知れた? 気の触れた、の間違いでしょ!」



「ああ、そちらの方が適切ですね。狂ってますからね、“お互いに”ね」



「今すぐデナリと席変わってきなさい!」



「走行中なんで無理です。と言うか、“儀式”の伝授を姉の責務としてやると仰るなら、次の休憩中にでも席を変わりますが、いかがしますか?」



「ぬぉぉぉおぉお!」



 かくして前も後ろも騒々しくも微妙な空気を満載しながら、王都を目指す一行であった。前の馬車も後ろの馬車も、ある種の阿鼻叫喚を作りながら街道を進んで行った。



         ~ 第四十四話に続く ~

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