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第二十五話  病床にて(前編)

 しばらくして、バナージュは火急の呼び出しがあり、久方ぶりに王宮へと足を運ぶこととなった。


 使者の話では、国王レイモンが病で倒れてしまったのだと言う。体調が優れないのはいつものことであったが、今回はかなりの高熱を出し、三日三晩うなされたとの報告がなされた。


 体調は取り戻したものの、やはり不安を覚えたのか、そろそろ死期が近付いてきていると考え、三人の息子に会おうと呼び出したのだ。


 バナージュが父の寝室を訪れた際には、第一王子のグランテ、第二王子のシークはすでに来訪しており、寝台に横たわる父に寄り添うように控えていた。



「遅くなりました、父上、それに兄上方」



 バナージュは丁寧に挨拶をして、父のすぐ側に歩み寄った。



「おお、バナージュか。よく来てくれた。死に間際に三人の顔を見れて良かったぞ」



 レイモンは満足そうに頷き、三人の息子の顔を眺めた。


 力強く剛健な長男グランテ、頭脳明晰にして精悍たる次男シーク、飄々としていながら優しさを携える三男バナージュ。母親こそ全員違うが、どれもよく育ってくれたものだと、レイモンは安堵した。



「死に際などと仰らないでください。父上はまだまだ元気でございますよ」



「左様。人生まだまだこれから。楽しい事は山ほどございます」



 上二人の兄が励ます様に父に寄り添うが、その姿をバナージュは吐き捨てる思いで眺めた。


 自分の父親が病に伏しているが、興味があるのは父の病状ではなく、家督の行方の方だ。そういう雰囲気がありありとバナージュには見て取れた。


 少なくとも、後継者をはっきりと定めてもらうまでは何かあっては困る。もちろん、自分を指名しろ。と言うのが兄達の考えだろうとバナージュは感じていた。



(まあ、実際のところ、今、父上が後継者を定めずにお亡くなりになる事があれば、血を見ずにはいられないだろうしな)



 王子二人による派閥形成は、激化を辿る一方であった。


 自分が王位に就いた際の“利”を語り、有力者にあの手この手で働きかけ、その一方で相手陣営の粗を探し、醜い足の引っ張り合いを繰り返していた。


 むしろ、この情勢下で血生臭い案件が発生していないことが、奇跡なのではと思うほどだ。


 そして、そのギリギリの節度を守らせているのが国王の存在であり、それを失う事があれば、間違いなく荒れる事だろうとも、バナージュは考えていた。



(早いところ、どちらかに定めて欲しいのだがな。父上は優秀ではあるが、いささか優柔不断なところがある。どちらかに定めたとしても、もう片方への財産分与はどうするのか、なにかと悩む点もあるのだろうが)



 家督相続はお家の一大事になりかねず、下手を打てば内乱一直線なのが、王族の家督相続と言うものであった。


 しかも、肝心の二人はどちらも優秀であり、それゆえに迷っているのも理解できた。


 始めから後継者レースには参加するつもりのないバナージュにしてみれば、さっさと終わって平穏な日常よ戻って来い、としか考えなかった。


 財産の分与にしても、現在受け取っている領土や年金を維持してくれるのであれば、どちらが王位を取ろうが関係ない。それがバナージュの本音だ。



「さて、三人とも、ワシは齢を六十も重ね、その半生を王として過ごしてきた。息子の視点から見て、私の生涯はいかに見ているのか?」



 レイモンとしては人生の終わりが近付いてきている身の上で、今までの自分の足跡がどうであったのか、気になるところであった。


 家臣に聞いても、どうせおべっかで終わるであろうし、人払いをして息子達に聞けば、あるいは面白い評や意外な見方をしてくれるやもと考えた。


 まず、その質問に関して口火を切ったのは長男のグランテであった。



「やはり、特質すべきは度重なる外敵の侵入を退けたことにありましょう。父上が王位を継がれた頃は、天災が頻発し、これ幸いとばかりに周辺国が領地を掠め取ろうとして参りました。特に北の隣国は何度も何度もしつこく攻めかかって参りましたが、王自ら陣頭指揮を執り、槍を奮いて敵本陣を蹂躙したるは今なお語り草になっております! あれ以降、我が国に攻め入る者もなく、民が安心して暮らせる国を作られました。これこそ、父上のなしたる偉業にありましょう」



「おお、そうであったな。あの頃はお前がまだ生まれたばかりで、色々と苦労を掛けた。食べ物にも難渋したこともあった」



「ハッハッハッ! 何を仰られますか、父上! 常に民の事を考え、身を挺して国を守り抜いたことは小さな童でも知っていることでございますぞ! 私も父上に負けじと己を鍛え上げ、軍を調練し、国防の要にならんとして参りましたが、すでに父の威光に周辺諸国が平伏した後。まともに戦場を駆けることもありませなんだ」


「そうかそうか。ワシはしかと国を、民を守れたか」



 長男より受けたの言葉は、今までの労苦が報われたと感じ入るのに十分過ぎた。レイモンは満足し、何度も何度も頷いた。



「いえいえ、父上の最大の功績は、国を大いに富ませた事でございます」



 今度は次男のシークが話し始めた。気分よく話しているところに横槍を入れられ、グランテはムッとなったが、レイモンは次男の方を向き、続きを話すように促した。



「父上は民の生活を案じられ、数々の事業に取り組まれました。荒れ地を開墾しては畑を増やして食料の増産に努め、産業を起こして富をもたらしました。特に銀山の開発は目覚ましい成果を上げられ、国内の経済がより安定したのは間違いございません。他国よりの商人の往来も活発になり、その威勢は遥か彼方まで響き渡っております」



「おお、そうであったな。あの銀山の発見と開発は大きかった。鉱山事業が軌道に乗ってからは、商業活動が活発化し、大いに国を富ませることができたな」



「はい。あれで金銀が市井の間にも良く回り、今や数多の民が仕事にありつけ、貧困とは無縁の生活を送れるようになりました。これはすべて父上の労あってのものです」



 息子達から聞かされる話は、労苦を重ねた自分の人生を思い起こされ、同時に民の笑顔とともに報われた気分であった。


 苦労を重ねたが、決して無駄な人生ではなかったことを、存分に噛み締めることができた。



         ~ 第二十六話に続く ~

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