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第二十三話  先行き不安

「ねえ、アルジャン、あの二人、結婚できると思う?」



 ソリドゥスの目に映る光景は、温かみを感じるものだ。


 小さな家庭教師たるデナリが読み書きを教え、それを必死でエリザが学び、バナージュが見守る。時折、談笑を挟みつつ、和やかな学びのひとときであり、三人とも実に楽しそうだ。


 こうした積み重ねを経て現在、エリザとバナージュには互いへの信頼と愛情が育まれつつある。優しくも温かみのある、恋仲としてはまず良好と言えるだろう。


 だが、悲しい事に“そこまで”でしかないのだ。



「残念ですが、不可能でしょう。二人が結婚することはありません」



 きっぱりとアルジャンが言い切った。


 だが、ソリドゥスはそれに対して、失望も憤りも感じていない。なぜなら、自分自身もそのように考えていたからだ。



「まあ、そうよね。ちなみにそう考える理由は?」



「身分、社会的地位、両者の間にある見えざる壁の力によるものです」



「そうね。全くその通りだわ」



 やはりアルジャンは情に流されず、正確に状況判断ができているとソリドゥスは感じ入った。



「エリザはそこらにいる村娘。“婚姻無効”なんて裏技を使ったけど、実質はバツイチ。対するバナージュ殿下は三男とは言え、れっきとした一国の王子様。とてもじゃないけど釣り合いが取れない」



「ですよね。“寵姫”に任じるのが精いっぱいといったところでしょうか。仮に結婚しようと話が進んだとしても、それをよしとしない人々が多そうですからね」



「王子が庶民と結婚するなどとんでもない! 由緒ある家柄の女性からにしなさい! なんて横槍が入るでしょうね。あと、父親である国王陛下の承認も必須でしょうし、壁の高さ、厚さも相当なもの。二人が添い遂げられる可能性はない」



「では、のっけから“二人を結婚させる”という計画自体、破綻していることになりますよ。お嬢様、やはり無駄な資金投下だったのでは?」



 アルジャンの危惧ももっともであった。


 なにしろ、ソリドゥスは二人を結婚させるためにあれこれ工作しており、その資金として金貨千枚を兄から借り受けていた。


 しかも、一年以内に借金を返さねばならず、返せない時の担保として自分自身を抵当に入れてしまっている。


 ソリドゥスの持つ“天賦ギフト”【なんでも鑑定眼】を欲してのことであり、今回の勝負に負ければソリドゥスは兄にいい様に使われることが確定してしまう。


 商人として独立し、祖父を超える大商人になる、という夢が完全に断たれることを意味していた。



「大丈夫よ。そのための種を仕込んでいる最中だから。問題はその種が、早く芽吹いてくれるかどうかってところ。なにしろ、お兄様には一年って期限を切っちゃったからね」



「ああ、旦那様や若旦那様の所に顔を出されたのは、そういうことですか」



「あれは別件も兼ねてね。まあ、この前の宴についての折檻での呼び出しだけど」



 要するに、こっぴどく怒られたというわけであった。


 なにしろ、エリザはつい最近までパシー家にいたのである。厩舎頭のザックと夫婦であり、婚姻無効によって解消されたとは言え、関係者と言えば関係者なのだ。


 それが第一王子と第二王子の襟首を掴んで投げ飛ばし、怒号にも等しい説教まで浴びせる始末。妙なとばっちりが飛んでこないかと、ダリオンもレウスもさすがに冷や汗ものであった。


 そんな焦る二人をソリドゥスは宥めに動かねばならず、色々と説明するのに苦労した。



「まあ、お二人の心配も当然でしょう。いよいよ、首に縄がかかったといったところですか?」



「失礼ね! こんな可愛い娘を縛り首ってか!?」



「事実そうなのでは? 今回の一件は賭けが成立するのか怪しいほどの、とんでもない大穴馬券を購入したようなもの。当たろうものなら、信心に乏しい俺も神を全力で讃えるほどのね」



「そんなことは百も承知よ! でもね、まだ勝ち筋が消え去ったわけじゃない。細い道のりではあるけれど、二人を添い遂げさせることはできるわ」



 焦りはあるものの、投了するのはまだ早い。むしろ勝負はここからだと言わんばかりの態度であった。



「それと、アルジャン、私はしばらくここに来るのが難しくなると思うの。だから、エリザと殿下の幇間ほうかんはあなたに任せるわ」



「安んじてお任せあれ、とでも言えばよろしいでしょうか?」



「そう言ってもらえると助かる、かな。こっちも別件で忙しくなるから」



「まあ、ただ待っているだけと言うのも退屈でありますからね。今は“見”の状態。二人の仲が順調に進展している以上、こちらから仕掛ける要素はなし。むしろ、婚儀までの道のりを妨害する輩の排除こそ、肝要ではないかと思います」



 アルジャンはソリドゥスのいう別件が、それに該当するものだと考えた。


 身分差の大きい者同士の結婚など、成立させることは不可能に近い。目の前にいる二人がまさにそれに該当する。


 二人の関係が順当であるならば、露払いとして道をきれいに掃除しておくのが常道と言えよう。


 ゆえに、ソリドゥスの行動もまた、順当と言えば順当などだ。払うべき対象が“国王”という、強大すぎる相手であることを除けば。



「そっちもあるんだけど、お兄様から仕事を貰っているの」



「仕事ですか?」



「ええ。“鑑定”の仕事がいくつかあるみたいで、それを片っ端から回してもらっているの」



「そこまで資金繰りが厳しいですか」



 アルジャンは呆れつつも、それもまた当然かと納得した。


 なにしろ、ソリドゥスは金貨千枚の工作資金を以て、身分差結婚を成立させることを企図しているのだ。肝心の二人の間は順調そのものであるが、その間にかなりの資金を消費してしまっていた。


 そして、ここからは二人の結婚を反対する人々の考えを変えさせる、というより高度な工作が必要になって来るのだ。


 なんにせよ、行動には出費が伴うものであり、使える資金が多いにこしたことはない。


 わざわざ仕事の依頼を受けたということは、先頃の宴のでの騒乱に対しての出資者へのご機嫌伺いであると同時に、資金の足しにということなのだろう。


 アルジャンはそう判断した。



「まあ、そちらも励んできてください。お嬢様の信頼に応えられるよう、こちらも誠心誠意、励まさせていただきます」



「うん、よろしくね」



「ただ、デナリの機嫌が悪くなるかもしれませんので、そちらの方が後々よろしくお願いしますね。女の子のご機嫌取りは、お嬢様一人でも手に余りますので」



「あんたがいつ、あたしのご機嫌取りやってんのよ!?」



「いつも気を遣っておりますが、なにか?」



 口八丁とはまさにこのことか。今少しこの性格や態度はどうにかならないものかと、ソリドゥスは従者の矯正方法を考えつつ、自らの仕事に向かうのであった。



         ~ 第二十四話に続く ~

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