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証言

現在、小説と悪戦苦闘中

イントレビット航空宇宙博物館それは第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争で活躍したエセックス級航空母艦イントレビットを改装して造られた博物館である。

その中でジャックは途方に暮れていた。


「畜生、ビリーの奴勝手にどっか行きやがって・・・」


とジャックは博物館内で一人悪態をつく、彼はビリーの言われるがままにイントレビットの中を回っていたが特に発見は無い展示されている航空機、戦闘機には興味を引かれたが今日の目的はそれらを見学するためではなく艦魂に会うためなのだ。今日は週末ということもあり艦内は見学客で一杯だった。


「たく、こんなに人が多くちゃ見つけられる物も見つけられないよ」


確かにこの人の多さでは人と艦魂の見分けはつかないだろう。片っ端から声を掛けていくのも手だが変人扱いされる上に非効率的だ、それなのにビリーは手はあると言ってくる。ジャックはそう考えながら再び艦内を回りだした。

一方ビリーはというと、マンハッタンの外れにあるとある古いマンションに来ていた。掃除はあまりされてはいないだろう埃っぽい階段を上がると、とある部屋の前に来ていた。ドアには(アルバート)とだけ書かれていた。ビリーは迷い無くドアを叩く、しかし返事は無いそれでもビリーは何度も何度もドアを叩く、するとしばらくしてドアが開くと同時に一人の老人が出て来た。


「なんじゃいお前は昼間から五月蝿いのう」


老人はさも迷惑そうにビリーを咎める。ボサボサの髪に伸び放題の髭、頬は赤く酒を飲んで酔っ払っていると分かる。一見浮浪者の様にも見える。しかしビリーはそんな事も気にせずに老人に、


「ヘンリー・アルバートさんですね」


と告げる。老人は面倒くさそうにそうだと小さく頷く、本人確認が取れたところでビリーは尋ねる。


「あなたが1940年に遭遇した海獣についてお聞きしたいのですが?」


するとヘンリーの表情が怒りに変わりビリーに向かって、


「貴様もこのワシを馬鹿にしに来たのか帰れ!」


とヘンリーは物凄い形相をして怒鳴り散す。


(他にもこの話を聞きに人が来たのか)


とビリーは次々飛ばされてくる罵声を聞き流しながら思い出したその中の一人に心当たりが合った。ビリーがたまたま見た三流タブロイド紙がこの事件を知るきっかけとなった記事には本人の体験談と取材した記者の見解が書かれていて、その見解というのが悪意の塊としか見られないような記事だったので記憶に残っていたのである。

ヘンリーの罵声はここで途切れる。あまりにも一気にまくし立てたので息が切れたみたいだった。そこでビリーは一気に畳み掛ける。


「ヘンリーさん、私は何もあなたをバカにしに来た訳ではありません、少し話しを聞きたいだけです」


と優しげな笑みを浮かべお土産と言って一本のウイスキーを差し出す。ヘンリーもそれならといって土産を受け取り部屋に招き入れる。

部屋の一角にある椅子にビリーを座らせ自分は向かいのベットに座るとヘンリーは当時の事を語りだす。


1940年春、当時彼は16歳で西海岸で漁師をしていた。父親は早くに病死し今は一家の長男のヘンリーが父親の遺した船を使って家族を養っていた。彼は今日も沖合いの漁場へ漁に出ていたその日は雲ひとつ無い青空で海も穏やかだった。


「今日は大漁の予感がするなあ」


と独り言を言いながら網を引いていた。しかし魚は一匹も掛かってはいなかった。不審に思いながら何度も網を引くが結果は同じだった。するとしばらくして突然海が荒れだした。初めは天候か海流が変わったかと思ったが空や海を見る限りさっきと全然変わっていない、咄嗟に下を見るとそれはイタ。

海面に下に蠢く巨大な影、ゆうに130メートル以上は在るだろうか、ヘンリーは腰を抜かしその場にへたり込んだ。


(此処に居てはいけない!)


と思ったヘンリーは勇気を振り絞って立ち上がり舵を握りながらエンジンを始動させて命からがら港に帰ってきてすぐに仲間の漁師に伝える。すぐさま漁師たちは船を出しヘンリーが言った海域を中心に探したが何も見つからなかった。そして漁師の仲間内ではヘンリーが見たものは幻もしくは嘘という意見が大半となった。

ヘンリーは必死に否定したが誰も信じてはくれなかった。


「これが1940年にワシが見たことのすべてじゃ」


体験談を語り終えたヘンリーは少し疲れた様子で立ち上がる。

一方のビリーも立ち上がり、


「今日は貴重な体験談をありがとうございました」


と礼を述べる。ビリーはヘンリーと握手を交わした後、


「また来ても宜しいですかね?」


と尋ねるとヘンリーは、


「また来い、その時はもっとマシなもてなしをしよう」


と笑顔で答える。ビリーもではまた今度と伝えると部屋を出た。すでに外は夕闇が訪れておりビリーは車に乗ると、


「さあ、ジャックも待ちくたびれているだろうし、準備をさっさと済まして行きましょうかね」


そう言うとビリーは自慢の迷彩4WDを走らせて行った。




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