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悪夢

今回は早めに出来ました。

毎回これくらいで出来たらいいな。

いつの間にかジャックは暗闇の中に居た。

周囲は明かりひとつ無く、延々と遥か彼方まで続いているかのような暗闇。

体に若干の浮遊感を感じるまるで深海に居るようだ。

だが息は出来るし、寒くはない、不思議な感覚だった。

そして自分はそんな中でただ一人何をする訳でもなく佇んでいる。

眼は見えているし体は動く、しかし意識はハッキリしなかった。

「夢を見ている感じ」と言った方がいいだろうか、とにかく今のジャックはそんな感じだった。



それからどれ位時間が経っただろうか、少しづつではあるがジャックに意識が戻って来た。

まだ多少意識が混乱していたが、少なくともここだ何処であるか位は考えれる様にはなっていた。

その時不意に背後から人の気配がした。

何気なく振り返るとそこにビリーが居た。

何か思い詰めたような沈痛な表情、あの普段いつも楽しげに話しかけてくるジャックがよく知るビリーとは違っていた。

そしてビリーは何処からとも無く取り出した拳銃をジャックに向ける。

ジャックは今自分の目の前で起こっている事が理解できなかった。

何故自分に銃を向けるのかとビリーに問い詰めようとしたが肝心の声が出ない。

どれだけ腹の底から叫ぼうとしても声が出なかった。

そんなジャックに気付かないかのようにそれまで沈黙していたビリーは拳銃の安全装置を外すとたった一言だけ口を開いた。


「じゃあな・・・」


続いて放たれた視界を覆う眩い発砲炎にジャックはとっさに両腕で身体を庇う。

外れるとは期待していない、あの距離では素人でも外さないだろう。

ジャックは迫り来る激痛に耐えようと歯を食い縛るがその痛みは何時まで経っても来ない。

恐る恐る閉じた眼をゆっくりと開けるともうそこにはビリーの姿は無かった。


「・・・?」


いきなり起こったそんな不可思議な現象にジャックが首を傾げていると、背後から今度は呻き声が耳に入って来た。

今度は何事かと振り向くとそこにはイントレビットとグロウラーが折り重なるように倒れていた。

二人の周りには血溜まりが出来ており、その中心で二人はもがき苦しんでいた。

イントレビットは割れた額からグロウラーは撃たれたのか腹部の数箇所から夥しい量の血を出しその身体を紅く染め上げていた。

ジャックは慌てて駆け寄り何とか傷口を押さえつけて止血を試みようとはするがジャックの行為を嘲笑うかのように、その出血は治まるどころかどんどん酷くなっていた。

自分の身体が血に塗れ様ともそれでもジャックは必死に傷口を押さえ続ける。

だが止まらない。

ジャックは少しでも持たせようと二人を呼び続ける。

だが声は出ない。

二人はジャックのそんな様子には気が付かないようでただ「タスケテ」とうわ言のように繰り返すだけ。

頑張れ! 大丈夫だ! 助かる!

ジャックは心の中で二人に言い続けた。

だが突然視界が暗転するともうそこには二人の姿は無く、二人の血に塗れていた自分の身体もいつの間にか元の通りに戻っていた。


ジャックはますます何が起こったのか分からなくなる。

何とか平静を保とうとはするがあのような衝撃的な出来事が立て続けに起きれば無理も無い事だった。

恐ろしくなったジャックはとりあえず一刻も早くこの場から去ろうと駆け出すがいくら走れど出口は見えてこず終わりのない暗闇が続くだけだった。

それでもジャックは走り続けた。

どれだけ走っただろう、延々と続く暗闇をジャックは走り続けた。

すると暗闇で足元が見えなかった所為か足が何かに躓いた。

何とか体勢を立て直そうとしたジャックではあったがまだ意識が混濁していたのか足元が揺らぎ立て直す事は叶わぬままそのまま地面に転がった。

だがこれまた不思議な事に痛みは無く直ぐに立ち上がる事が出来た。

自分が何に躓いたのか気になったジャックが振り返ると眼を見開いた。


沙耶がそこに倒れていた。

だがジャックにいつも向ける笑顔は無く、開かれたままの瞳は生気を失っていて、肌は雪のように白い。

まるで死人のよう、いや死人となった沙耶がそこに居た。

ジャックは沙耶だった物を抱き起こし必死に揺さぶるが氷のように冷え切った彼女の身体は何の反応も示さない。

それでもジャックは彼女の名を呼び続ける。無駄だと分かっていても、そうしなければ耐えられなかった目の前の現実に。

そうしている内にジャックは自分の手が濡れているのに気が付いた。

最初は自分の汗かと思った。

だがその液体のぬめりがそれを否定している。

見るのが怖かった。

だが見てしまった。

沙耶の額に小さな穴が開き、そこから一筋の赤い河が流れているのを。

その反対側の後頭部にそれとは比較にならないほどの大穴が開いているのを。

そして自分の手が沙耶の血とそこから漏れ出た肉片と脳漿に塗れているのを。


「ウワアァァァァァーーーーーー!!」


何も無い暗闇にジャックの慟哭だけが木霊した。


その時突然目の前に光が溢れるのをジャックは見た。

余りの眩しさに一瞬眼を瞑るが直ぐにその光は消えた。

何事かと目を開けると沙耶の遺体は消え、目の前にはいつしかの少女が立っていた。


「君は確かイントレビットの甲板で・・・」


「何をしている『選ばれし者』ジャック・ニコルソン。破滅はそこまで迫っている」


「エッ!?」


ジャックはいきなり放たれた詰問口調で少し狼狽する。


「何を呆けている。早く行動を起さなければ貴方の周囲の者達は先程貴方が見たような事になる」


「と言う事はさっきのは全部幻?」


「そう」


「よかった・・・」


どうやらさっきからの不可思議な現象は彼女が見せた幻のようだった。

ほっと胸を撫で下ろすジャック。

だが少女は憮然とした表情のままで話を続ける。


「しかし近い将来現実に起こる事」


その言葉にジャックは顔を顰める。


「じゃあビリーが僕を撃ったり、イントレビットやグロウラーが大怪我をしたり、沙耶が死ぬって言うこと?」


「そう」


「何で君がそんな事知ってるの?」


「視えるから」


「視える? 予知能力みたいなもの?」


「そう」


ここでジャックは何か得心したように腕を組み「なるほど」と頷いた。

その仕草に何か自分が言った事が間違っているような態度を相手にされて少女は怪訝な表情をする。


「どうしたの? 何か気に掛かる事でもあったかしら?」


「いや・・・。何でもない」


そう言うジャックではあったが傍から見ればその言動は何か裏がありそうに感じる。

しかし、少女も疑問に思ったであろうが問い詰めようと言う素振りは見せなかった。


「まあいい、私の用は済んだ。帰る」


この前と同様、突然現れ一方的に用を済ませた少女はその場から去ろうとする。


「え、ちょっと・・・君はいったい誰なの?」


せめて名前だけでも聞こうとしたジャックではあったが少女は答える事無く再び光に包まれると消えていった。

そして何も無い空間にジャックだけが取り残される形となった。


「彼女は一体・・・って喋れる様になってる」


ジャックは気付けば喋れるようになっていた。

しかしそれと同時に何か強烈な眩暈が襲い何も分からぬままジャックは意識を失ってしまった。




「眩しい・・・」


次にジャックが眼を開けた場所はイントレビットの部屋に間借りした自分のベットの上だった。

舷窓から差し込む朝日に眼を眩まされながらも覚醒したばかりの身体を起き上がらせる。

何故か身体が物凄く重く感じ頭痛もする。

嫌な夢を見た。

思い出すと背筋が震える。

自分にあんな将来が待ち受けているなんて想像したら震えが止まらなかった。

心の片隅であんな未来があるのではないかと考えた事もある。しかし、考えるのと実際に見てみるのでは大違いだった。

現に自分はこうして震えている。


「まだ覚悟が足りないか・・・。これじゃあハワードに何時まで経っても敵わないな」


少し自嘲気味に笑うジャック。

ハワードは敵対する人物ではあったがその人格はジャックも認めるところがあった。

あのどんな状況になっても不敵な笑みを崩さない豪胆さだ。

それだけでも周囲に与える影響は段違いだった。


自嘲もここまでにしてジャックは服を着ると朝食を摂るためパーテーションで区切られた部屋のドアを開ける。

しかし、ジャックは何かを忘れているように感じた。

昨日、外出から帰ってきて一度眠った。

そこから夜にもう一度起きた記憶がある。

だが先程からの頭痛が思い出そうとするのを妨げる。

何か思い出してはならないような気もするジャックだった。

そしてふと開けたドアの向こうに視線を移すとそこに答えが広がっていた。


部屋の中に充満する酒の臭い。

無数に転がる酒瓶。

あちこち破壊の痕が目立つ室内。

そしてその中心に転がる半裸のイントレビットと沙耶。


ジャックは再びドアを閉めた。

今思い出した。

昨日、ジャックが帰って来て直ぐ寝た後、しばらくしてクリスマスパーティの準備が出来たと起こされたのだった。

その後三人だけでは寂しかろうと思い沙耶も呼んだのだった。

イントレビットはその時物凄い渋面を浮かべていたが。


そしてパーティーは時が経つにつれいつも通り沙耶の挑発から始まりイントレビットがそれに食い付く形となりなし崩し的に飲み比べに突入した。

ジャックもそれに巻き込まれ浴びるように酒を飲まされた。

大体用意された酒を飲み尽くした二人はまだ足りないようで誰かが持ってきた『スピリタス』なる怪物に手を出した。

アルコール度数96パーセントを誇るその酒は普通はそのまま飲むのには適さない。

しかし二人はあろうことかそのままラッパ飲みを始めたのだ。

その時ジャックは酔いが回り意識が朦朧としている状態だったので止める事は叶わなかった。

まず壊れたのはイントレビットだった。

彼女は羞恥心が崩壊したのか着ていた服をその場で脱ぐとそのままジャックに迫ってきた。

慌てたジャックが何とか押し止めようとするが艦魂の力に人間が敵うはずも無く、なすがままにされようとしたところで沙耶が割って入った。

一瞬沙耶が救いの天使に見えたジャックではあったがそうではなく彼女はとんでもない堕天使だった。

彼女も壊れていたのだ。


二人がかりで襲われ貞操の危機が迫ったジャックではあったが急遽駆けつけたグロウラーが部屋に閃光手榴弾と筋弛緩ガス弾を投げ込み二人の無力化に成功した。

まあジャックもその煽りを受けてその場で気絶したのだが。

そしてあの惨状である。

閉めた扉の向こうで二人も目を覚ましたらしく何やら騒ぎ声が聞こえる。

やれ、ここは何処だだの。

やれ、頭が痛いだの。

やれ、穿いてたショーツが何処か行っただの。

聞くに堪えない内容だった。


大きく溜息をついたジャックは朝食がまだまだ掛かるだろうと予想して。

再びベットに潜り込むのだった。


クリスマスパーティーの場面は物語の進行上端折らせてもらいました。

さっさと本編を進ませたかったのもありますが最大の理由は・・・もうお分かりでしょう。

耐えられませんでした。

自分で書いていてなんですがとりあえず悶え苦しんでしまいました(苦笑)。

後、近況報告で今日から戦争アリアケに行って来ます。

そのため更新が来年になるかもしれないのでご了承下さい。

それではご意見、ご感想待ってまーす。


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