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遺された希望、新たなる絶望

お待たせしました。

しかし最近艦魂小説を謳っておきながら出て来るのがオッサンやジジイばっかりって・・・。

ムサい小説でスイマセン。

机の上に置かれた時計が毎秒毎に秒針を刻んでいく、しばらくすると秒針は文字盤の上を一周し再び0から時を刻む作業を始める。

秒針が五十週を超えた所までジャックは覚えていたがそれ以降は面倒臭くなってただ眺める作業に没頭している。

そんな終わりの無い光景を延々と自分が借りているアパートの一室で眺めていた。

もう何十週か何百週か分からなくなってきた所でジャックは大きく伸びをした。

実に二時間ぶりの運動である。


「ウーーン、やっぱりどこもおかしい所なんてないか」


 落胆の表情を浮かべながらジャックは呟く。

このオロモからの贈り物である置時計を秘密を探ろうとしてジャックは帰宅してからというものずっと試行錯誤してきた。

外観を調べたり、内部を見てみたりしたが全て空振りに終わる。

最後は昔に出た某有名ゲームの攻略法みたいに数時間放置してみるという途方も無い手段に出たが、たった今失敗だったという結果が出た。


「全く、ナグーさんも意地悪なことするよなあ」


 頭を掻きながらジャックはこの置時計を渡した張本人に不満を吐くがその本人はここには居ない。言った所で虚しさだけがジャックの心に残るだけだった。

今のこの状況を打開出来る代物だとオロモは言っていたが、ジャックはその最初の一歩さえ踏み出せてはいない。

一瞬、「担がれたか?」という考えが浮かんだがジャックはオロモが嘘を吐いている様には見えなかった。

ハッキリした理由があるのかと言われれば断言は出来なかったが、ただジャックにはオロモが何かに迫られて自分にこの時計を渡した気がした。

時間的なものではなくてもっと重要な何かだった。

ジャックは他人のそのような心理的な行動を見分ける才能があった。

しかしそれはあまり本人は自覚しておらず本能的にそれを感じ取る事が多かった。

気を取り直して再びジャックは時計に向き直り決断した。


「分解してみるか?」


 ここまで色々な方法を試してはみたが詳細は分からず、ついにジャックは最後の手段に出る事にした。

それは一種の賭けだった。

構造がどうなっているのかも分からない物を分解するのはかなりのリスクが伴う。

最悪、オロモがくれた手掛かりが一生手に入れれなくなってしまうかも知れないからだ。

 

ドライバーを片手にいざ分解しようとしたその時、玄関のブザーが鳴った。


「ジャックー、居るー、沙耶だけどー?」


 突然の沙耶の訪問にジャックは驚いたが特に断る理由も無いので沙耶を部屋に招き入れた。

沙耶は何か大きな鞄を持って部屋に入って来た。


「やっほー、元気にしてた?」


「まあ一応・・・」


 沙耶はそんなジャックの態度に憮然とした表情になる。

せっかく来てやったのにその態度は何だという顔だ。


「何が『一応』よ。ぜんぜん元気そうじゃ無いじゃない!」


 そんな沙耶の叱責にジャックは答える代わりに机の上の置時計を指差す。

沙耶はその置時計を手に取って首を傾げる。


「これは?」


 沙耶が首を傾げるのにも無理は無い、ジャックが指差すのはどこにでも売っている様な時計だったからだ。

その理由をジャックは沙耶にオロモの事を含めて説明する。

最初はその話に半信半疑だった沙耶であったが話が進むにつれ表情は真剣なものになっていた。


「信じられないわね。これが鍵なんて・・・」


 沙耶は時計を眺めながら複雑な顔になっている。

信じたさ半分、胡散臭さ半分といった所だろうか。


「ところで沙耶? 今日はどうしたの?」


 思い出した様にジャックは沙耶に来た理由を訪ねる。



「あっ、そうそう今日はジャックに見せたい物があって来たんだった」


 沙耶は持ってきたバックの中からノートパソコンを取り出す。

起動させて立ち上がるまで数分、デスクトップの画面にあるファイルをクリックして開くとそれをジャックに見せた。

それは何かの書類を写した画像の様で撮った状態が良いのか細かい文字までハッキリと写っていた。


「これは・・・読めない・・・」


 ジャックの言動に沙耶は思わずコケる。

それもその筈、全体の文字が日本語しかも旧字体で書かれているのだからアメリカ人のジャックに読めと言っても無駄な話だった。


「ごめんごめん、説明してなかったわね。これは旧日本海軍の兵籍記録簿の写し」


「兵籍記録簿?」


「そう、第二次大戦中日本海軍に所属していた人達全員の名前が載っている書類よ。今日はこれであの潜水艦に乗っていた人を探そうと思って。ジャック、あなたが前見つけた乗組員の集合写真あったわよね?」


「ああこれ?」


 ジャックは本棚のファイルの中から一枚の写真のコピーを取り出す。

ジャックとこの潜水艦を巡り合わせたあの写真のコピーだった。

流石にオリジナルは持ち出せなかったのでこれからも何かの参考になると思いコピーしたのだ。


「その写真の乗組員達とこの記録簿にある写真を照らし合わせるのよ」


 ジャックはその説明に最初は感心していたがある重大な事に気が付いた。

調べると言っても一国の海軍に所属していた全員を調べるのだ、その労力は並大抵のものではない。

ちなみに大戦中日本海軍に所属していた人間は戦死者、行方不明者含めて290万人近い、ハッキリ言って針山から一本の針を探し当てるより難しかった。


「ちょっと沙耶、いくらなんでも二人で調べるなんて無茶だよ」

 

 ジャックの返答は最もである。

それにジャックの心の中ではそれ以外に何かが引っ掛かっていた。

しかし沙耶はその豊かな胸を張って自信満々に答える。


「当ったり前でしょ! さすがに全員は無理だからここに来るまでに五千人までにピックアップしておいたから大丈夫よ!」


 それでも膨大な数字である。

それを言い終わると沙耶は兵籍記録簿の照らし合わせを始める準備を進める。


「嘘・・・、それでも五千人分もあるの・・・」


これから訪れるであろう途方もない単純作業地獄に再び叩き込まれるジャックは思いっ切り絶望するのだった。




「ダハーー、もう・・・無理」


 太陽は西の水平線に沈み、その後に出てきた月と星もそろそろ西に隠れ始めた時ジャックはソファに突っ伏した。

潜水艦の乗組員を名簿の中から捜し始めて既にもう10時間を過ぎようとしていた。

眼の下には大きな隈が出来、その疲労具合が遠目にも見て取れる。

隣の沙耶はジャックと同じ様な状態ながらもまだ若干元気が残っているのか机に噛り付いて作業を続けている。


「そっち何人終わったー?」


「何とか2400人ぐらい」


「僕と同じ位か、残りやっと百人切ったね」


「そうね・・・」


 一応沙耶はジャックと会話をする元気はある様だがその姿は見ていて痛々しい。

ジャックと同じ様に隈が出来、艶のある黒髪はボサボサに乱れており、若干一部にその名残が確認できるぐらいだった。

 二人で作業を分担して何とかここまで漕ぎつけたが、もう二人の体力は限界に近かった。

それでも何とか残り僅かまで捌けた事は僥倖だろう。


「ちょっと息抜きにテレビでも見ようか」


 ジャックは部屋に置かれた唯一の娯楽用品であるテレビの電源を入れた。

余り自由に使える金が無いジャックにとって、大学を辞める時に寮から持ってきた家財道具の一つであるこのテレビが唯一の娯楽だった。

時刻は既に深夜なのでテレビはバラエティやドラマでは無く、深夜帯のニュースをやっている。

殆どは昨日の夕方に流れた内容の繰り返しだがずっと文字や写真ばかりに噛り付いていた二人にはいい気分転換だった。

画面の向こう側では壮年のキャスターが淡々と記事を読み上げていく。


<<近年の核実験やミサイル実験で騒がれている朝鮮半島情勢ですが昨日六カ国協議・・・>>


 朝鮮半島といえば沙耶の母国である日本の隣である事をジャックは思い出す。

アメリカもかつて冷戦時代に本土の目と鼻の先のキューバにソ連の核ミサイルが持ち込まれそうになった。

まだその時には生まれていないジャックであったが、当時を知る祖父などの代の人達の話を聴けば皆同様に「生きた心地がしなかった」と答える。それほど当時は事態が逼迫していたのであろう。


「日本は大変だね、こんな国が近くにあって」


「別に・・・」


それと同じ様な事態が母国の隣で起こっているのだ。さぞかし心穏かでは居られないであろうと思い、ジャックは沙耶を心配して沙耶に声を掛けるがその沙耶の返答は冷淡だった。


「沙耶は日本が心配じゃないの?」


 そんな沙耶の表情に疑問を抱きジャックは沙耶にその表情の真意を尋ねる。


「何かね、どうでも良いのよ。 自分の利益のみを追求する政治家や官僚、目の前に危機が迫っても全く自覚のない国民、そんな輩が居るあの国は救いようの無いほど腐敗しきってるわ。それこそあの核の様な強力な一撃が外部から加わらない限りたぶん変わらないでしょうね・・・」


 淡々と語る沙耶の言葉はジャックに向けられたものでは無い様に感じられた。

例えば、この世界の人間全てに向けられたような・・・。


「さあ、暗い話はここまでにして作業に戻りましょう」


 さっきまでの表情とは打って変わって笑顔に戻った沙耶は手を叩きジャックに作業に戻るように促す。

ジャックはそんな沙耶に違和感を感じつつも余りプライベートに関する事には突っ込まない様にしようと思い、その場は作業に戻る事にした。


自分のパソコンに移した沙耶のデータと写真をジャックは一人ひとりのデータを丹念に眺めていく。

その人物の名前、顔、個人情報等の膨大なデータを一つ一つジャックは消化していった。

その時、画面に走らせていた視線にある項目が目に付いた。他の項目からは外れていて一際目を引いたのだ。

日本語が読めないジャックはただちに辞書を捲りその言葉の意味を調べる。


『特別外国人義勇兵』


その欄にはそう書かれていた。

広義的に義勇兵とは金を貰って戦う傭兵とは違い、報酬などを求めず自分の意志で戦争に参加する兵隊を指す。

アメリカでは第二次世界大戦前の日中戦争に参加した義勇航空隊「フライングタイガース」などが知られる。まあこれは報酬を貰っているので義勇兵ではないのだが。


ジャックにはその文字がどうしても引っ掛かった。

義勇兵自体別に目新しい物でもない。

世界で起こる戦争、内戦、紛争には多かれ少なかれどこかの義勇兵は参加している。

まあ先程の例でも触れたように裏で報酬を貰ったり、戦うのを強制したりなど言葉にもある「義勇」とは違うものが殆どだが。

しかし昨日のオロモの件もあってか外国人という言葉にジャックは引かれた。

直感の赴くままにページを見て行くとそれはあった。

会った時には頭は禿げ上がり、顔も深い皺で覆われていたがその他者を威圧する眼光だけは変わっていなかった。

若き日のナグー・オロモがそこに居た。

階級は上等水兵、所属は特務輸送戦隊となっていた。

この時、オロモの渡した置時計が本物であるという裏付けが出来たのだ。

ジャックは興奮してパソコンのディスプレイとまだ睨み合っている沙耶の方を向く。


「沙耶! ビンゴだ! 遂にあの潜水艦の乗組員を見つけた!」


 それを聞いた沙耶は椅子から飛び上がるとすぐさまジャックの方に駆け寄る。


「ウソ・・・。本当! 見せて見せて!」


 ジャックは沙耶に簡単な経緯を説明する。 

それを聞いた沙耶は興奮からか顔を真っ赤にしている。

無理も無いだろう今まで暗中模索状態であったのがここで一筋の光明が現れたのだから。


「早くその人と連絡を取ろう! 善は急げよ!」


「了解!」


 ジャックと沙耶のテンションは今までに無いほど最高潮に達していた。

すぐさま連絡を取るための準備を進める。直接本人には聞いてはいないが、フルネームと国籍は分かっている。大使館かそれらに関係する所に連絡を取れば少々時間は掛かるが連絡ぐらいは出来るだろう。


しかしここで二人を絶望の淵に叩き落とす出来事が点けっ放しにしておいたテレビから伝えられた。


<<次のニュースです。昨日午後、ケネディ国際空港の施設内のトイレで男性が血を流して倒れているのが定期清掃に来た清掃員によって発見されました。通報を受けすぐに現場に警察官が駆けつけましたが男性は既に死亡しており、ほぼ即死の状態でした。男性の身元は持っていたパスポートなどからミクロネシア国籍のの『ナグー・オロモ』さん(87)と判明しました。なお遺体には首を刃物で刺された痕があり、その傷口からの失血性ショック死と見られています。また鞄の中が荒らされている事から物盗りの犯行ではないかと地元警察は見ています。>>


「ウソ・・・」


 それはオロモが何者かによって殺された事を伝える一報だった。

沙耶は突然訪れた凶報の前に力無く床に崩れ落ちる。ジャックも呆然としながら画面を眺めている事しかできなかった。

希望の光は何者かによって奪われてしまった。

そんな絶望感が部屋をを支配した。


「もう無理よ・・・」


 沙耶は力無く呟く。

万策尽きたといった感じだ。


「まだだ・・・」


 その言葉を遮るようにジャックは力強く否定した。


このままではいられない。


立ち止まってなんかいられない。


オロモの死に報いる為にも。


 そんな想いがジャックを突き動かす。


「まだ僕らにはナグーさんが遺したコレがある」


 ジャックは手に取ったオロモの置時計を差し出す。


そう、ジャック達の戦いは終わってはいなかった。


むしろ真の戦いが今ここで始まったのだ。










ジャックが新たなる決意を固めた時、ここではもう一つの戦いが繰り広げられていた。

脇目も振らず深夜のニューヨークの路地裏を逃げ回る一人の男がいた。

否、これは戦いというよりも一方的な逃走劇だった。


「ハアハアハア、クソッ! 一体どこまで追って来やがるんだ!」


 その男ことヘンリー・アルバートは迫る追跡者に悪態を吐く。

かなり長時間走り回ったせいで全身から滝のような汗をかき羽織った上着にもそれを滲ませていた。

後方からは着かず離れず二つの人影が追って来る。

黒っぽい服装に身を包み。顔はサングラスで表情が分からないように隠している。

見れば見るほど不気味な連中だった。


最初、それに気付いたのは行きつけの酒場だった。

入ったのはもう午前0時過ぎであまり客は居ない。

無愛想な店主と数人の客が居るだけだった。

いつものように浴びるほどのアルコールを口に流し込んだヘンリーはそのままテーブルで眠ってしまった。

余り褒められた行為ではないのだが、酒場の店主も見慣れた光景なのかヘンリーには目もくれず他の客と談笑していた。

一、二時間眠っただろうか、ある程度酔いが醒めたヘンリーは目を覚ました。

店主は相変わらず他の客と話し込んでいる。

自分の方がその客より常連のはずだが店主はヘンリーには無感心だった。

そんな店主にヘンリーは心の中で嫌悪感を感じながらも代金を置いて店を出ようとした。

その時、自分と一緒に別の席から二人の男が立ち上がるのが見えた。

二人は自分が店に入るよりも早く席に座っていたのをヘンリーは覚えていた。しかし二人ともテーブルの上に置いたビールなどには一切手を出しておらず、「妙な奴らだな?」と疑問に思っていたのをヘンリーは思い出した。

店を出た後、自宅までの帰り道を二人はヘンリーの後をずっと着け続けた。

ヘンリーは最初はただの偶然だと思っていたがわざと違う道を進むと二人は捕捉を早めて着いて来る。

自分が追われている事は確実になった。

それに気付いたヘンリーは追跡を振り切るために走り出した。


そんな事があった十数分前。

何とか振り切ったヘンリーは壁にもたれ掛かる。

既に足の感覚は無いし、肺は今にも破裂しそうなほどに痛い。もうヘンリーに走る体力は残っていなかった。

それでも一息付けれたのは良かった。新鮮な空気が酸素不足の肺に満ちていく。

しかし安心も束の間、少し気を緩めたせいか急に猛烈な吐き気がヘンリーを襲う。

恐怖心からかまたは急に無理な運動をしたからなのか、そんな考えを思いつく前にヘンリーは吐瀉物を地面に撒き散らす。

喉の奥から胃酸の臭いが鼻腔を刺激してくるがヘンリーにそんな事を気にする余裕は無かった。

ようやく吐き気も治まったヘンリーはこの後どうするかを考える。


(このまま家に戻っても奴らが張っているかも知れねえ。どうする? このまま路地のどこかに隠れて夜を明かすか? いいや、夏ならともかく今の時期に野宿なんかしたら凍死しちまう・・・)


 様々な打開策を考えるがどれも今一つで成功する可能性は低い。

考えが纏まらずにヘンリーには苛立ちだけが積もっていく。

その時だった。眩い光が路地に隠れていたヘンリーを照らし出した。

奴らが戻ってきたのかと思い、ヘンリーは反射的に身構える。

しかしそれは杞憂だったようだ。


「オーイ、爺さんここで何してんだ?」


 それは制服を着た警官だった。

普段は吐き気がするほど嫌っている存在だが今回はこれほど心強い応援は居なかった。

ヘンリーがここまでの経緯を簡単に説明すると警官は快く保護を引き受けてくれた。

これでやっとヘンリーは安心出来た。


「なあ、そう言えば17分署のマーシー警部は元気か? あんた17分署だろ?」


 すっかり安心しきったヘンリーは警官のバッチからニューヨーク市警の17分署所属と知り17分署に居る知り合いの警官の近況を聞こうとする。


「ああ、マーシー警部は元気だよ」


 警官もそれに笑顔で答えた。少しでも緊張を和らげようとしてくれているのだろうそれが伝わってくる。


「そうか、いやああの人には世話になったよ。いつも行きつけの店で酔い潰れて動けない時にパトカーで家まで送ってもらってさ。何度ももうするなって釘を刺されたもんさ。ハハハ」


 笑顔でマーシー警部との思い出を語るヘンリーだったがその内容に警官は苦笑するしかなかった。


「マーシー警部も男なのにアンタみたいな酔っ払い老人に好かれていい迷惑だな」


 何とかヘンリーの話に合わせる警官だったが、その言葉を聞いたヘンリーは立ち止まる。


「どうしたんだ? ヘンリーさん?」


「何言ってんだあんた・・・、マーシー警部は男じゃなくて女だぞ」


 それを聞いた警官は「しまった」という顔をして気まずそうに頭を掻く。


「あちゃー、何でいつも土壇場で失敗すんのかなオレって・・・」


 再び恐怖に駆られたヘンリーは警官から逃れようと走り出そうとしたがそれは叶わなかった。

警官は腰のホルスターから警察用ではない大型の軍用拳銃を引き抜くと無造作に引き金を引いた。

ヘンリーは衝撃で少し後ろに飛ばされるとその場に崩れ落ちる。そして再び動く事はなかった。


「あと一歩で隠密に処理できたものを、全くお前は何やってんだ?」


 後ろから響いてくる声に警官の変装をしている者はまだ銃口から硝煙が立ち昇っている拳銃を片手に振り向く。


「オレの所為じゃないっすよー。追跡班が撒かれたのが原因でしょう? 急に仕事振られて完璧に成功させろって土台無理な話じゃないっすかー?」


 そんな言い訳に偽警官の上司らしき野球帽を目深に被った人物は出来の悪い部下の行いにため息を吐く。


「じゃあその右手に持ったままのUSPをとっととしまえ。のんびりしてないで対象を早く回収して撤収するぞ」


 そう偽警官に命令すると背を向け歩き出す。


「了解」


 偽警官は動かなくなったヘンリーの体を肩に担ぐと先を行く上司に遅れまいと着いて行く。


「しかしオレって結構この制服似合ってると思いません?」


 偽警官は着た制服の端を摘みながら上司に尋ねる。

しかし上司は答えずにもう一度大きなため息を吐いて馬鹿馬鹿しいとばかりに足を早めた。

この上司にとってこの部下の存在は頭痛の種なのだろう、その仕草からもそれが見て取れる。


「何ですかその態度はとても仕事終えた部下に向ける態度じゃないっすよー。そういうアンタだって変装してるじゃないっすかー、『ビリー・マグワイア』さん?」


 偽警官の口から出たのはなんとビリーの名前だった。

上司は立ち止まり、被った帽子を取る。

そこに現れたのはジャックの親友であるビリーだった。


「うるさい! 少しは黙ってろ!」


 偽警官の上司ことビリーはその名前を嫌悪する様に吐き捨てる。


「けど班長も大変ですね仕事はいえ学生の真似事なんてしなきゃいけないんですから」


 ビリーはそれには答えず目だけで部下を促すと再び歩き出した。

そしてその警官と共にそのままヘンリーの体を抱えニューヨークの夜の闇へと二人は消えて行った。


他の先生方の小説などを見てそれなりに勉強しているのですが中々文章力が上達しません。

やっぱり努力あるのみだなあと痛感しました。

物語自体は予定の八割を消化しました。

けれども無駄に話が増えるかもしれないな・・・。

こんな作者ですけれどもこれからも頑張って行きますので応援よろしくお願いします。

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