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遭遇と日常の終焉(下)

お待たせしました。


その後、とりあえず落ち着くために艦魂が見えないビリーと分かれた一行ははイントレビットの私室に向かう事となった。

沙耶とイントレビットの二人を部屋に待機させた後、ジャックとグロウラーは飲み物を用意するため部屋を離れた。

二人が部屋を出て行った後、残された沙耶とイントレビットは応接用のソファに腰掛けながらお互いを見詰め合う。

先程グロウラーやジャックに戒められたとはいえ、その視線は部屋の空気を凍らすほどの殺気に満ちたものだった。


「何ジロジロ見てんのよ・・・」


 先に火蓋を切ったのはイントレビットだった。

組んだ足をテーブルに乗せながらギロと沙耶を睨む。


「そっちこそ・・・」


 沙耶は普通に座ってこそいるがその眼光は鋭くそれだけで人を殺せそうだった。


「さてと・・・」


 しばらく睨み合った後、沙耶は席を立つ。

それに素早くイントレビットが食いついた。


「どこ行くのよ、ジャックが来るまで待ってなさいよ。それとも人が出すものはいただけないって言うの?」


「何言ってるの? 私はジャックを手伝いに行くだけよ。今日はあれだけ世話になったんだもの、少しは恩返ししないと手取り足取りね♪」


 何とも挑発的な口調だったが沙耶はそれに乗る事も無く淡々と答える。最後に含みを持たせながらながら、こちらは明らかに挑発だった。


「何ですってーー!」


 それを聞いたイントレビットは体を震わせ激昂する。沙耶のほうが一枚上手だったようだ。

それを横目に「じゃあね♪」と沙耶派出て行こうとするが、突然目の前を遮られた。

いつも間に移動したのかイントレビットが沙耶の前に立ち塞がる。


「ちょっと退いてくれるかしら? 邪魔なんだけれど」


 その突然の事のも動じず沙耶はイントレビットを退けようとするが彼女は一向に退こうとはせず血走った眼で沙耶を睨む。


「ジャックは誰にも渡さない・・・」


「結構な心掛けだけれども、私を止められるかしら?」


 二人はお互いに譲らず、体から先程とは比べ物にならない殺気を発散し始めた。

種族を超えた女の戦いが今ここで始まろうとしていた。


「来い、人間ン!」


 イントレビットは両手の拳を前に構えると戦闘体制に入る。


「上等ォ!」


 対する沙耶も両手両足首を適度にほぐすと間髪入れずイントレビットに飛び掛った。


 二つの影が交差する。



一方、人数分のコーヒーを用意し終えたジャックとグロウラーは足早に二人が待っている部屋へと向かっていた。


「ちょっと時間掛かっちゃったね」


「まさかコーヒーが切れてるなんて思ってもみなかったよー」


 切れたコーヒーを補充しやっとの思いで準備すると二人は部屋にたどり着いた。

しかし部屋の中からは妙な打撃音が響いていた。

不審に思った二人は恐る恐るドアを開けると・・・。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」


 光速の拳と蹴りが辺りを飛び交い暴力という名の暴風が部屋を支配していた。

しかしこれを見ても二人の反応は冷静なもので。


「・・・バカは放って置いてあっちで飲もうか?」


「そうだね、おっちゃん・・・」

 

 少しも動じる事無く、二人は回れ右をすると部屋から去って行った。





「ハアハアハア、やっ、やるじゃない・・・」


「ゼェー、ゼェー、そっ、そっちこそ・・・」


 しばらくやり合った二人はエネルギーが切れたのか同時に床に倒れ伏していた。

しかしその顔は先程までの憎悪に歪んだものとは違い、まるで憑き物が落ちたようにサッパリしてとても清々しい顔だった。

その横でジャックとグロウラーが呆れ果てた眼差しで眺めていたのは余談だが。



ジャックとグロウラーが居ない間にいつの間にか拳で語り合いすっかり二人は仲良くなり、その後も二人で談笑し合う中となっていた。

そんなこんなで午後も艦内をみんなで回る事となり午前中とは違い平和的に終わる事となった。


そして閉館時間が近づきジャック、ビリー、沙耶の三人は後ろ髪を引かれながらも『イントレビット

』を後にする事になった。

お互いに別れの言葉と「また今度会おう」という約束を交わし、出口までイントレビットとグロウラーが見送った。



「なんだか賑やかになってきましたね、姐さん」


 「イントレビット」の艦橋の上でグロウラーが埠頭の道を帰って行く三人を見つめながら呟く。

仲間が新たに増えた事に彼女はとても嬉しそうだった。それが艦魂が見える人間なら尚更だろう。


「まあ、厄介事が増えた事にも変わりないけどね」


 同じくイントレビットもその言葉に笑みをこぼすが、嬉しい反面「協会」への対策をこれからどうするか頭が痛いところだった。

今でこそ報告書類の改ざんで何とか「協会」からの追及を誤魔化してはいるが、このままではいずれ事が悪化するのは目に見えていた。


「まっ、気にしても仕方ないですよ。明日は明日の風が吹く。パーっと行きましょう!」


 しかしその屈託の無い笑顔から漏れる言葉はどこかイントレビットを安心させる。

イントレビットは「そうね」と穏やかな顔で頷くのだった。


「じゃあ、あたいは自分の所へ帰って寝ます。じゃあ!」


「ちゃんと歯磨きして着替えて寝るのよーって・・・」


 イントレビットが言い終わる前にグロウラーは転移の光に包まれて自分の本体に帰って行った。

そんな同居人のせわしない行動に呆れつつ艦橋に設置されている手摺に腰を落としてイントレビットはまだ向こうに小さく見える三人に視線を移す。

しかしそこで彼女はある違和感に気付いた。

普通の人であればまず気付く事は無かっただろうが、人より身体能力が高い艦魂のイントレビットにはそれが分かった。

見られているのだ、空母『イントレビット』では無くその艦魂である自分が・・・。


それはジャックでもなく沙耶でもない。二人は先頭を歩きながら談笑していてこちらの方は全く見ていない。

視線はその後ろを歩く人物から向けられていた。

それはありえない、見える筈の無い人物。

ビリーだった。


彼が艦魂が見えるという話はジャックからは聞いていない。

しかしビリーはその視線の先にイントレビットの姿をハッキリと捕らえていた。それは紛れも無い事実だった。

ここでイントレビットは記憶の中からある事を思い出した。

そういえば初めてジャックと出会った時も彼は自分を見ていなかったか?

あの時はジャックを逃がす事で頭が一杯だったが、あの時も確かに自分を見ていた

それを思い出した瞬間イントレビットは言い知れぬ不安感に襲われる。

確かにこの前「協会」に行った時も何故自分や仲間の船体の中や周辺と「協会」の施設内でしか行動出来ない艦魂であるマサチューセッツなどががジャックの事を知っていたのかが心の底で引っ掛かってはいた。何もこちら側の人間のスパイが居るという考えは無かった訳ではない。

それがまさかこんなにも身近に居るとは少々予想外ではあったが。


「直ぐって訳にも行かないけれど、警戒はした方が良さそうね・・・」


 イントレビットはそう呟くとビリーに気付かない振りをしながら艦内へ入って行った。




 

「どうしたビリー? じっと「イントレビット」の方なんて見て、何か忘れ物か?」


 沙耶との話も一区切りが付いたジャックはふと後ろを見ると向こうでぼんやりと黒い影を浮かべる空母「イントレビット」を見つめるビリーに気が付いた。


「いや、何でも無い。早く帰ろう」


 そう言うとビリーはジャックと沙耶を抜かし先頭になって歩き始めた。

少しその様子に違和感を感じたジャックではあったが特に気にする事も無いだろうと忘れる事にした。





そして更にそんな彼、彼女らの行動を見つめる者が居た。

ニューヨーク摩天楼に中にある超高層ビルであるクライスラービルの頂上先端部。

地上から高さ283メートルにあるそこは、人ならばほぼ誰も立入らないであろう場所だ。居るとすれば自殺志願者か狂人ぐらいなものだ。

その人物はありえない事にビルの頂点である避雷針の先に爪先立ちで立っているのだ。

午前中ジャックが会ったあの少女だった。

その体はまるでビルと繋がっているように微動だにしない。身体的な能力ではなく何か別の力が働いているようだった。

体からは淡い燐光が漏れ出しどこか神々しい雰囲気を放つ。

その周りを幾つかの光球が取り囲みその一つ一つがそれぞれ違う映像が映し出されていた。

そこに映っていたのはジャック、イントレビット、沙耶、ビリー、ハワードや他数名の人物であった。

その光球に映し出される映像を見回しながら少女は一人呟く。


「選ばれし者、心に闇を抱く者、力を求めし者、内に炎を秘めし者、変革を望む者・・・・・・。役者は全て揃った。今、開演の幕が揚がる・・・」


 少女はそう言い終わると右手を振り上げる。

全ての光球がそれに答える様に夜の冬空にどこまでも高く舞い上がっていった。

それが見えなくなる頃には少女の姿は無く、そこには少しばかりの光の残滓だけが残されていた。



様々な人物、組織の思惑がここニューヨークの地でぶつかり合い錯綜しようとしていた。

その結末を知り得る者は今はまだ誰もいない。

無計画、ノリと勢いだけで進めてきたこの小説もここでやっと佳境に入ってきました。

ここまで進めてこれたのも読者の皆さんのおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。

さて、この物語はこの話を境に終わりに向けて一気に加速します。

潜水艦の謎は解けるのか? 各勢力の思惑とは? ジャック、イントレビット、沙耶を囲んだ三角関係の行方は?

まだ解決してない事は山の様にありますが、完結に向けて頑張って行く所存であります。

まだまだ未熟な文章ではありますが今後とも応援よろしくお願いします。

ご意見、ご感想待ってます。

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