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遭遇と日常の終焉(上)

お待たせしました。

「ビリー、どこ行ってたんだよ」


「あなた、本当に人に迷惑を掛けるのが得意ね」


 ビリーと合流した瞬間二人が口にした言葉は痛烈だった。

対するビリーは額の血管を浮かび上がらせてワナワナと震えている。

しばらく二人に言いたい放題言われていたビリーではあったがその我慢も限界に達したの遂に爆発した。


「テメーらが俺を置いて行ったからだろ! こん畜生!」


 売り言葉に買い言葉でしばらく三人は言い争っていたがお互いに言いたい事は出尽くしその場は治まった。そしてあらためて三人はお互いが揃った事を確認すると今回の目的である沙耶の歓迎を兼ねたイントレビット訪問を昼食を食べた後、仕切り直す事に決めた。

 

 

「で・・・、これからどうする?」


 まだ機嫌が治らないビリーは少しトゲのある口調でジャックに尋ねる。

ジャックは昼食に持ってきたサンドイッチを頬張りながら午後からどうするか思案する。

特に予定も決めずに始めた事だったので二人は午前中までの行動しか決めていなかった。既に艦内は午前中にほぼ全て回った為もう見るところが無くなってしまっていた。


「ねえ、次はどこへ案内してくれるの?」


 次はどこに行こうかと二人が首を捻っていると今回の主賓である沙耶が横から入ってきた。

彼女は眼をキラキラさせながらこちらを見てくる。これには二人も弱ってしまう。

折角、ニューヨークが初めての沙耶にアメリカの良さを知ってもらう為にもここは頑張らなければならない。

とりあえず午後はここから離れて当初の予定通り自由の女神やブロードウェイを案内しようかと二人は考えていると再び沙耶が入ってきた。


「ちょっと聞きたいんだけど、ジャックあなたここにはよく来るのよね?」


「そっ、そうだけど。どうしたの突然?」


 ジャックは嫌な予感がした。


「あの潜水艦調べているのに空母っておかしな話よね?」


 沙耶の顔が段々ジャックに近寄ってくる。


「この空母に何があるの?」


 ジャックは正直に艦魂の存在を沙耶に教えたかったが、ここで喋れば変人扱いは間違いなしである。せっかく知り合ったのにここでチャンスを棒に振るわけにもいかない。


「何がって、ただの空母だよ・・・」


 その為には必死に隠す必要があった。


「本当にィ~?」


 さらに沙耶は疑惑の瞳で迫ってくる。

もう既にジャックと沙耶の感覚は数センチしかない。これが普通ならば胸が高鳴るイベントだが今は別の意味で心臓がバクバクいっている。


「ちょっとトイレに行って来る!!」


 ジャックは堪らず言い訳を残しダッシュでその場を去ろうとした。

しかし、数歩進んだところで片手が引っ張られた。まるで手に楔を打ち込まれた様に動かない。恐る恐る後ろを振り返ると沙耶が右手をガッチリと掴んでおり全くその場から動かない。

ジャックは戦慄した。


「ねえ~?オ・シ・エ・テ・ヨォ~?」


 沙耶は掴んだジャックの手をゆっくりと獲物を捕まえて捕食する蜘蛛のごとく自分の方へと引き寄せる。

ジャックは背中から大量の脂汗が滝の様に吹き出てくるのを感じながら、なす術も無く捕まった。


「ビリー! ヘルプ! 助けて!」


 とっさにジャックは近くにいるビリーに助けを求めた。

しかし・・・。


「いや~、いつ見ても『SR-71 ブラックバード』は美しいなぁ~」


 頼みのビリーは「我、関せず」と向こうに展示してある航空機の所へ移動していた。

望みは絶たれた。


「残念だったわね、ジャック~?」


 沙耶はジャックの腰に手を回し顔を耳元に近づけ囁く。

その表情は扇情的で男性の本能を大いに刺激するものがあるが、今のジャックには大蛇に丸呑みにされようとする獲物の心境だった。


「さあ、教えて貰いましょうか?」


「ヒイィィイイイィィィィーーー!!」


 

 絶体絶命、ジャックが思ったその時だった。助けは意外なところから現れた。 



「何してんだゴラアァァーーー!!」


 その場の空気を引き裂く様な低い咆哮がジャックの耳に響く。

殺気を感じとった沙耶はとっさにジャックから離れる。その瞬間二人の間を風切り音を響かせ何かが飛んで来た。

その物体は金属音を響かせ装甲化された飛行甲板を少しばかり削ると近くに転がった。

その正体は長さ40センチはあろうかというモンキーレンチだった。これが人の頭を直撃すれば間違い無く唯ではすまない。

ジャックはもしも当たった時の事を想像して身を震わせた。


「何してんのよ、あんた達は・・・」


 ジャックが飛んで来た物への恐怖で震えていると、先程の声の主がさっきより幾分か落ち着いた声で近づいて来る。

黒のニット帽にグレーのセーター、黒のミニスカートという格好の少女だった。

最初は誰だか分からなかったが少女が被っているニット帽を取ると疑問は氷解した。

ニット帽の中で纏めていた金髪が鮮やかに流れる。私服を着たイントレビットだった。


「イントレビット、助かッ・・・「ジャック、誰よこの女・・・」・・・エ?」


 どうやらジャックが安心するのはまだ早かった様だった。

イントレビットは落ちていた先程のモンキーレンチを掴み、それを肩に担ぎながらジャックの方へと近寄ってくる。


「イ、イントレビット?」


 そのイントレビットのあまりの怖さにジャックは腰が抜けた。

何とか助かろうとジャックは必死に這って逃げようとするが腰が抜けているため思う様に進まない。

そうこうする内に首根っこを掴まれ引き上げられる。


「あなたとちょっと話をする必要があるわね?」

 

「ヒイィイイィィィーー!!」


 そのままイントレビットは嫌がるジャックの首を掴みながら連れて行こうとしたが、それは思わぬ邪魔者によって阻まれた。


「そっちこそ誰よ、ジャックをどこに連れて行く気?」


 沙耶はそう告げるとジャックの空いている両足を持ち反対側へ引っ張って行こうとする。


「泥棒が何を偉そうに!」


 イントレビットも負けじと掴んだジャックの首を力いっぱい引っ張る。


「イダダダダアァァーー!! 千切れる千切れる千切れるウゥゥーー!!」


 ジャックは首と足をそれぞれ違う方向に引っ張られ、二人にやめるように言うがその声は二人には届かなかった。


「諦めなさいよ、私の方がジャックとの付き合いが長いんだから!」


「何を言ってるの? アタシといる方がジャックは嬉しそうよ!」


 真ん中で絶叫するジャックを尻目に更に舌戦をヒートアップさせる二人に最早誰も止めれる者はいなかった。

その争いは様子を見に来たグロウラーに止められるまで続いたのだった。

その時にはジャックは既に物言わぬ者へとなっていた。




「全く、危うく体がガン○ムみたいにAパーツとBパーツに分離するところだった」


 首と足さすりながらようやく意識を取り戻したジャックがグロウラーに正座させられたイントレビットと沙耶を見ながら呟く。


「どっちかって言うと足無しで首が分離するジ○ングの方があってるんじゃないか?」


「黙れ、裏切り者!」


 横でさっきまでその場から逃げていたビリーにジャックは突っ込む。


そしてイントレビットと沙耶はというと先程からグロウラーに説教されている。

その理由は話すべくも無く二人でジャックを天に召しかけた事に対してだった。

ジャックをさっきまでジャックを両断しようとしていた二人の姿はもうそこには無く、十歳ぐらいの少女に延々と説教される二十歳そこそこの女性がそこに居るというかなりシュールな光景がそこにあった。


「グロウラー、もうその辺で勘弁してやってくれないかな?」


 グロウラーの目の前ですっかり憔悴しきっている二人を見ながらジャックは言う。

グロウラーも長い説教をしたせいで少々疲れたのかそれに同意する。


「ほら二人ともおっちゃんの許しが出たから今回は勘弁してあげるけど、次は無いですからね!」


「「ハァーーイ・・・」」


 ようやく開放されフラフラと立ち上がる二人を見てジャックはただただ苦笑するのだった。

しかしそこでジャックはとあることに気が付いた。


「ねえ、沙耶?」


「なあに、ジャック?」

 

 呼ばれた沙耶はふっと笑顔で振り向く。


「もしかして沙耶って艦魂見える?」

 

 しかし尋ねるジャックの顔は固く強張っており、嫌な予感をひしひしと感じていた。

その予想通り沙耶はその口から驚愕の事実を打ち明けた。


「うん」


 

 その答えにジャックは驚愕する。近くにいたイントレビットとグロウラーもポカンと口を開け呆然としていた。

その一番聞きたくなかった回答を答えた沙耶にジャックは泣きそうな顔になりながら詰め寄る。


「何で教えてくれなかったの!?」


「だって聞かなかったから・・・」


 沙耶はばつの悪い顔をしながら涙目になってすがりつくジャックにに答える。

その三人もあまりにも堂々とした態度で沙耶が艦魂に接していたため気付かなかった。


「そんな・・・、僕の苦労は一体・・・」


 ジャックはその場で力無く崩れ落ちるしかなかった。

艦魂二人も真っ白になって石像の様に固まっている。

ビリーは見えないながらも言葉の端々から大体の流れを掴んだのかただただ苦笑しているのだった。


 

 

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