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彼、彼女と過ごす日常(上)

お待たせしました。


街の商店からクリスマスソングが流れ出すクリスマス直前のニューヨークの街を場違いな迷彩色の4WDが疾走する。


「ママー、何あれー?」


「シッ、見ちゃいけません」


「オイオイ、マジかよ・・・」


 それを見た行き交う人々が目を丸くし指を差して驚く中、そのドライバーは全く気にする事も無く鼻歌高らかにハンドルを握る。しかしそれとは正反対に同乗者は助手席と後部座席で小さくなっていた。


(うう、通行人の視線が痛い・・・)


(なによ、この車! 趣味悪いんじゃない!)


「おいおい、二人とももうすぐクリスマスなんだからよお。もっと明るく行こうぜ! 」


 二人のそんな心境にも気付かずこのドライバーやけにテンションが高かった。|(まあ、久しぶりの出番だから当然かもしれない)


「なあ、ビリー。もっと違う車は無かったのかな?シボレーのRVとかさあ?」


「うんうん・・・」


 意気揚々と運転しているビリーの横でジャックは額に青筋をたてながら提案する。それに後ろの沙耶も頷く。しかし当事者のビリーは全く意に介さない。


「ええー、カッコいいじゃん俺はこれが良いんだよ。だって迷彩だぜ、メ・イ・サ・イ♪」


((ダメだコイツ早く何とかしないと・・・))


 二人の心配をよそに車は順調に目的地に向かって行った。



そうこうする内に目的地に付くとジャックと沙耶は車から降りる。ビリーは駐車場に車を置きに向かっていった。

今回、新しく仲間になった沙耶にニューヨークを案内しようという事でここ空母イントレビットに三人は訪れていた。

これはビリーが企画したのもので最初は自由の女神とかセントラルパークを案内しようと計画していたが、彼女の「ジャックがいつも行ってる所が良い」との強い要望で急遽イントレビットに変更になったのだ。


「へえー、これがイントレビット大きいねー」


 目の前に係留されているイントレビットの船体を見上げながら沙耶は感想を漏らす。

ここに来る途中の車中で「軍艦を見るのは初めて」と語っていた彼女にとってイントレビットはどう映ったのであろうか。ジャックにはそれをうかがい知る事は出来なかったが見た限りでは結構ノリノリの様だった。彼女はいろいろな角度からイントレビットや隣のグロウラーを眺めたりしている。


(良かった楽しんでくれてるみたいで)


 ジャックがそんな事を思っているといきなり彼女はジャックの手を握る。突然の出来事にジャックは心臓が縮み上がった。


「ねえ、ジャック早く行こ♪」

 

 そんなジャックにお構い無しに沙耶は握ったジャックの手を引く。最初にイントレビットに行きたいと上目遣いでお願いされた時にもジャックはドキッとしたが、こっちはこっちで破壊力抜群だった。こんな美人にお願いされたり手を握られているのだ、男なら当然であろう。にこやかに手を引かれイントレビットの中へ連れて行かれるジャックは「今日は人生で最良の日だ!」と確信するのだった。



「おーい、ジャック、沙耶お待たせって・・・あれ?」


 ビリーの存在は忘れて。



飛行甲板に上がってからも沙耶は終始ご機嫌だった。展示されている飛行機やそびえ立つ艦橋などを見て持ってきたデジカメで写真を撮りながらはしゃいでいる。隣で手を繋ぐジャックは時折沙耶から出る質問に的確に答える。ほとんどイントレビットやビリーからの受け売りだが、沙耶はそんなジャックに尊敬の眼差しを向ける。ジャックは鼻高々だった。

途中売店でジュースを二人で買ってのどを潤す。ベンチに隣同士で座って談笑する二人の姿は傍から見れば二人は恋人同士のデートにも見えるだろう、場所が場所だが。

一時間ほど館内を回った二人は再び飛行甲板に戻っていた。

沙耶はトイレに行って来ると言ってジャックと離れた。

一人甲板にたたずむジャックは大きく伸びをする。季節はもう冬だが今日は太陽が雲の隙間から顔を見せ普段より比較的暖かった。そんな日は甲板の上に居ても潮風が心地良い。ジャックにとって、とても充実したひと時だった。

この半年ジャックは色々な事を体験した。

艦魂の存在を知りイントレビットやグロウラーと出会った事。

調べている謎の潜水艦が引き金となった巨大組織との対立。

大学を追われ、この新天地ニューヨークで始まった生活。

普通の人ならば無いであろう事がこの短期間で立て続けに起こった。

だがジャックは眼を背けなかった。

真っ向から立ち向かっていった。

そしてこれからも・・・。


そんな感傷に浸っていると視界にある光景が飛び込んできた。

縦にロールした金髪の少女が長い髪を潮風に靡かせながら自分の瞳と同じ碧い空を見上げている。

肌は白く透き通っていて陶磁器の様で着ている白いワンピースがそれをさらに際立たせる。歳は十歳ぐらいだろうか、幼いながらもその整った顔立ちは将来を期待するには十分な要素を持っている。彼女は例えるならば現代に現れた妖精だった。

しかし彼女が立っているのは展示されている飛行機の垂直尾翼の上だった。常人ならば悲鳴を上げる光景だがジャックは思いの他冷静だ。


(近頃では飛行機の翼に乗るのが流行っているのか?)


 最近、似たような光景を見て体験したジャックのとっては驚くほどの物でもなかった。


「おーい、君。そんな所にいないで降りてきたらー?」


 ジャックの問いかけにその少女は振り向く。ジャックに気付いたらしい少女はとろんとした眼でジャックの見つめる。そして口を開いた第一声が。


「私? 私は誰? 」


 思わずジャックは少女の激しいボケにその場でコケそうになった。まさかこんな娘がいきなり初対面の相手に突飛な事を言うとは思っていなかったからだ。


「・・・冗談」


 ジャックのそんな反応に満足したのか一人少女は頷く。どうやらジャックを担いだらしい相当のタヌキである。これはこれで将来有望な少女だった。


「初対面の第一声がそれって・・・まあいいや。僕の名前はジャック・ニコルソン。君の名前は? 艦魂か船魂だろ?」


「・・・?」

 

 再びの問いかけに少女は首を傾げる。

ジャックはおそらく近くに停泊している船の船魂だろうと見ていたがどうやら違うらしい。


「私はこの世界の傍観者。待っていた、最後の希望ジャック・ニコルソン。」


 少女は再び言葉を発した。しかしその言葉の意味はジャックには理解できなかった。


「待っていた? 最後の希望? ちょっと意味が分からない、説明してく「ジャックーー!」」


 ジャックはその言葉の意味を聞こうとしたが遠くから響く声によって遮られた。沙耶が戻って来たのだ。


「ゴメーン、待った」


「いやそんな事は・・・アレ?」


 ジャックが再び少女に視線を戻すが沙耶との会話に気を取られている隙に少女はその場から消えていた。


「早く次行こうよー」


 ひたすら首を傾げるジャックに沙耶は違和感を覚えつつもさっきと同じ様に手を握り引っ張って行こうとする。


(何だったんだ、今のは?)

 

 再び二人は館内を回り始めたが、はしゃぐ沙耶とは対照的にジャックは少女の残した言葉が心の中でいつまでも引っ掛かり気分は晴れなかった。




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