去り逝く者(下)
何度も更新が遅れてしまい読者の皆様にはご迷惑をお掛けしております。
先程までにこやかに昔の思い出話に浸っていたイントレビットであったが、ジャックの一言によりこの部屋の空気は鉛のように重くなっていた。
しばしの沈黙が続いた後、ジャックが気まずげに口を開く。
「ごめん・・・」
ジャックは謝罪の言葉を口にするがイントレビットは首を横に振ってそれを制する。
「いいのよ、ただこの世から消えるのが早いか遅いかっていうだけよ」
それはとても穏やかで全てを受け入れた顔だった。そんなイントレビットにジャックは言いようの無い矛盾に襲われる。
それは艦魂の存在を知りイントレビット達に出会ってからジャックの心の奥底で生まれ今までずっと潜んでいたものだった。いやむしろジャックが思い出すのを無意識の内に拒んでいたとも言えるだろう。
それが今ジャックの思考の中に浮かび上がってくる。
どうして彼女達のような魂が兵器に宿ったのか?
どうして彼女達はこんな業を背負わされたのか?
どうして彼女達はそれに納得できるのか?
どうして、どうして、どうして・・・・・・・。
それは心の中で徐々に怒りへと変化していき口から言葉として吐き出される。
「おかしいだろ」
「えっ?」
「命を安っぽく言うな!何で覚悟できるんだよ、間違ってるだろ!」
しかしイントレビットはジャックをキッと睨み付け今までジャックが見たことも無い様な表情と聴いたことの無い低い声を出す。
「黙れ・・・・」
今まで聴いたことの無い、地の底から響いてくるような声だった。
「黙りなさい!我等は人ならぬ艦魂!このアメリカ合衆国に仇なす敵を討ち取るべく生み出された尖兵!この世に生み出された時より死ぬ覚悟は出来ている!たとえこの身朽ち果てようとも戦場で死ねれば本望よ!」
これがあの世界大戦で幾多の戦場を駆け巡り生き残った艦魂の姿だった。しかしそれは慟哭に変わってくる。
「あなたには分かるの!たとえ血の繋がった姉妹や無二の親友がもがき苦しんでいても手を差し伸べてやれない苦しみが!死んでゆく部下をただ見ている事しか出来ない無力感を!あなたには分かるの!あなたには!」
「ウッ・・・・・・・・」
その凄まじい気迫の篭った声にジャックは圧倒される。
そんなジャックを見てイントレビットも少し冷静さを取り戻したのか声のトーンを落とす。
「私達はそんな苦しみを胸に秘め、それでもみんな明日の勝利を信じて戦ってきた。だから間違ってるとか言わないで・・・」
「だけど・・・。おかしいだろ?」
それでもジャックは反論しようとする。
「確かにイントレビット達、艦魂の覚悟を否定したことは謝る。だけど綺麗事になるかもしれないけれどこれだけは言わせてほしい。せっかくこの世に生まれた命なんだ、だから死んでもいいなんて言わないでくれ・・・」
それは弱々しいながら確かなる想いを込められた言葉だった。そんな言葉をかけられジャックなりの思いを感じとったのか、最初は戸惑っていたイントレビットも怒りを納めた。
「こっちこそごめんなさい・・・。そうよね、あなたは人間私は艦魂似て非なる者。分かってくれなんて難しいわよね」
あなたと私は違う、分かり合える事は無い。イントレビットから放たれた言葉はジャックの心に突き刺さる。明らかに拒絶とも受け取れる一言だった。
「人と艦魂は分かり合えないのか?」そんな絶望に近い感情がジャックに襲い掛かる。
イントレビットも数十年ぶりに分かり合い始めてきた艦魂と人間の溝を自分の所為で棒に振ってしまうという考えが頭の中を支配する。
その一言を最後に二人の間で無言のひと時が流れる。それは時間にして一分少々だったが二人には一時間以上に様に感じられた。
ジャックとイントレビットは人と艦魂の価値観の違いについて悩むこととなる。艦魂としての価値観を一方的にジャックに押し付けてしまったと思い悩むイントレビット。自分の命を顧みない艦魂に苛立ちを感じながらもそれをどうにも出来ない自分に悩むジャック。
そこで沈黙に包まれた二人をを突然そこに居た第三者が割って入る。
「ハイハイハイ。お二人さん?いつまでも黙ってちゃあ話が進まないでしょ」
その声の正体は今まで物事の行方を横で静観していたグロウラーだった。それはこの凍りついた場の空気を溶かさんばかりの明るい声だった。
「「・・・ッ!!」」
グロウラーの一声に二人は何とか我に帰る。しかし、しばらくお互いを見つめあった後、バツの悪い顔をしながら何かを喋ろうとしてそこで二人はまた沈黙。
「ダアァーーー!!だから話が前に進まないってー!!」
遂に痺れを切らしたグロウラーが突然吼える。そして周囲に向かってわめきだした。
「もう!だからおっちゃんいつまで経っても彼女出来ないんだよ!」
ビキッ!!
ジャックの方で何かが切れる音がした。
「姐さんもそんなんだから行き遅れるんですよ全く・・・」
ブチィ!!
今度はイントレビットの方でも切れてはいけない物が切れた音がした。
それはジャックとイントレビットの心の中にあった大切なものを傷付けた音だった。そしてその言葉に呼応されたのか二人の心の奥底よりドス黒いオーラが沸き始める。
「本当嫌だねえ、これだからガキの喧嘩は・・・・」
二人に対しさっきから言いたい放題言っているグロウラーの背後に二つの影が忍び寄る。凄まじい殺気を纏いながら・・・。
「「おまえ(あんた)が言うな!!」」
ガッ!ゴッ!
「イダッ!!」
そして強力な拳骨がグロウラーの脳天に叩き込まれ、グロウラーはその場で倒れ頭を押さえて悶絶する。
「あたいはこの沈んだ空気どうにかしようと思ってやったのにぃ~」
そして弱々しく反論するがすぐにそれは怒りに震える二人によって封殺される。
「「余計なお世話だ(よ)」」
グロウラーは彼女なりに二人を元気付けたかったのかもしれない。
荒い息をしながらしばらく床に転がるグロウラーを見下していた二人だったが。全く同じ行動をしていたと気付いた途端フンと顔をお互いに素早く背を向けて別々の行動を始める。
ジャックは荷物をまとめ帰り支度を始めイントレビットは出してあったコーヒーカップや資料の束を艦魂の力で消して片付け始めた。
そして先に帰る準備を整えたジャックはドアに手をかけ。
「じゃあもう帰るけど、またな石頭!」
と捨て台詞を言い放ち出て行った。
「とっとと帰りなさいよ、このわからず屋!」
対するイントレビットも負けじと言い放ちベットの飛び込むと毛布に包まり床に就く。
今回は裏目に出てしまったが結果としてグロウラーの行いは良い方向に向かった様だった。
お互いに激しく罵りあった二人だったがしかしお互いにその顔は何か晴々とした顔だった。
「二人ともやっぱりガキじゃないかぁー」
こんな二人の行動を見てまだ床に転がるグロウラーが小声で言ったのは言うまでもない。
次回もいつになるか分かりませんが暖かい目で見てください。
後、読者の皆様に質問なのですが他の先生方がやってる様に登場人物の詳しい紹介などや後書きにおまけみたいな物は付けたほうが良いでしょうか?
何か意見があればお願いします。
ご意見、ご感想待ってます。