新生活(上)
今回は久々のジャックとイントレビットとの絡みです。
イントレビットは机の向かい側に座ったジャックを見つめている。しかしジャックはその視線にも気を止めず、机の上に広げられた資料を見ながら一心不乱にノートパソコンへ何かを入力している。普段なら嬉々としてレポート作成に取り組むジャックなのだが、その表情は固いおまけに左の頬には湿布が貼られていた。数時間前から続いているそんな光景を見ながら彼女は溜息をつきながらこう思うのだった。
(どうしてこんな事になったんだろう・・・)
ことの発端はイントレビットが意見陳述会から帰ってきた今日の昼前に遡る。
「まったく、くだらない事で呼び出すんじゃないわよ!」
自分の本体である空母イントレビットにある自室に帰って来るなり、再び彼女は怒りを爆発させる。意見陳述会では上官の前という事もあり何とか理性で制御できたのだが、今度は咎める相手が居ないのでその怒りは半端無い。乱暴に軍服の上着を脱ぎ捨て、そのままベットに飛び込むと腹立ち紛れに隣にあった枕を蹴飛ばす。まるで部屋の中を竜巻が暴れている様だった。そして小一時間暴れ回った後、イントレビットは意見陳述会での疲れもあったのか急に睡魔に襲われる。そのままベットの上でウトウトしていると、自室のドアが勢い良く叩かれた。
「姐さん!姐さん!あたいです!グロウラーでーす!開けて下さーい!」
訪問者はイントレビットを姐さんと慕っているグロウラーだった。
(何よもー、せっかくいい気持ちだったのにー。ゆっくり寝かせてよー)
安眠を妨害されたイントレビットは着の身着のままでベットから這い出ると、ブツブツ不満を言いながらドアを開けるとそこにはグロウラーと意外な人物が居たジャックだった。しかしジャックは顔を真っ赤にしながら顔を両手で覆っている。なぜ大学生のジャックが平日に、自分と所に居るか不審に思ったイントレビットはジャックに尋ねる。
「ねえ、何で居るの?たしか平日は来られなかったんじゃないの?」
しかし、ジャックは答えないそれどころか徐々に後ずさりをしている。何度か問い詰めたところでジャックはようやく口を開く。
「そんなことより、イントレビットその格好・・・」
「エッ!何?」
「だから!その格好!」
逆にジャックに聞かれたイントレビットは自分の今の姿を見て驚愕する。なんと、軍服を乱暴に脱ぎ捨てたり、そのまま部屋で暴れたりしたおかげでシャツは胸の下まではだけておりスカートも太ももの辺りまでずれていた。いわゆる半裸というやつだ。
それに気付いたイントレビットは顔をトマトより赤くして、
「イヤァァァアアァァーーーー!!!何見てんのよ変態ぃぃぃーーー!!」
バキィ!!
「理不尽!!」
見事な右ストレートが決まった。
そして現在
「ジャック本当にゴメン!この通りだから!」
イントレビットはこの日二十回目の謝罪をする。対するジャックはパソコンから眼を離すと、
「もういいよ、事故なんだしこれから気を付けてくれれば」
諦めた様に席を立ったジャックは伸びをする。相当疲れが溜まったようだった。ちなみにこの原因を作ったグロウラーはと言うと先ほどの部屋の空気に耐え切れず退散している。
「本当!」
イントレビットは安堵の表情を浮かべる。
「ああ、だからもういいよ」
「じゃあ、今まで黙ってたけど何でここに来たの?大学があるんじゃ?」
「それは・・・。大学辞めたから」
「エッ!?」
ジャックはこれまでの経緯をカンタンに説明する。それを聞いたイントレビットは妙に納得した感じだった。
「なるほどね、私が呼ばれた理由も大体掴めてきたわ」
「何が?」
「ああ、気にしない、気にしない。ところで何も辞めることは無かったんじゃあ?」
イントレビットは何か慌てた様子で話題を変える。ジャックは少し怪訝な顔をしたが、彼女にも言えない事はあるのだろうとそのまま気にせず答える。
「でも教授や大学のみんなにも迷惑かけたくなかったし、それに今のようにフリーの方が調査もしやすいしね。丁度良かったと思うよ」
「フーン。ジャック、あなたもなんだかんだで考えてるのね」
「さてと・・・。そろそろ帰るよ」
ジャックはそう言うと机の周りを片付け始める。
「エッ!帰るの?まだ三時前よ?」
まだ陽が高く昇っている窓の外を見ながらイントレビットはジャックに尋ねる。
「うん。大学辞めたから寮も出なくいけなくなっちゃって、これから住む所と働く場所を見つけなきゃいけないんだ。じゃあまた今度」
「大変ねえ・・・。まあ頑張って」
さらりととんでもない事を口にするジャックに、イントレビットは苦笑しながら彼を見送った。
次の投稿はまた仕事の都合で遅くなりますのでご了承ください。