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入学試験の始まりですわ

アルスと名乗った男はリーラリィネを大きな庭のような場所に連れてくると、そのまま立ち去ってしまった。


曰く、「1人の入学希望者についていると、あらぬ疑いをかけられる」とのこと。


ただ、案内された場所にはかなりの数の入学希望者が集まっており、試験会場で間違いないようだった。


「さて、いまさらだけれど、入学試験っていったい何をするのかしら?」


ガルガンディでひっそりと暮らす傍ら、リーラリィネは勇者学園の噂話をたくさん聞いた。


1つに、ここは人族の希望である。


1つに、貴族と金持ちの道楽である。


1つに、中身の見えない謎の箱庭である。


学園の外側は誰にでも開放されたものであるが、その中身は実際に入学したものとそこで働く人間しか知らない。


そしてそのどちらも、ひどく口が固いらしい。


「入試の内容は毎回変わるという話もありましたが、逆に毎回同じ基準で試験が行われるという話もありましたし……どうなのでしょうか?」


そんなことを考えていると、前のほうから呼びかける声が聞こえてきた。


「入学希望のみなさん! どうぞこちらに、順番にお並びください! これより、入学試験を開始いたします!」


声をきっかけに希望者たちは列を作る。


そして列の先頭から次々と人が流れていき、先にある黒い天幕の中へ消えていく。


「まるでゴラ虫の口に向かって歩くアリの群れみたいですわね……」


と、ふと気色の悪いことを後悔するリーラリィネ。


しばらくして、彼女自身が天幕に喰われる番となる。


幕をくぐると、そこには奇妙なものが並んでいた。


人の形に象られた置物のようなものが数え切れないほど据えられていたのだ。


「えーと、まずは名前を」


「リーラリィネですわ。カメイは持っておりません」


わざわざ念を押され、試験官は一瞬ギョッとするも、すぐさま表情を戻す。


「これは魔力の扱いに関する実技試験です。あの的に向かって魔術を放ってもらいます。各属性ごと、計8つの魔術の威力で適正を判断します……というのが建前です。が、全属性を扱える人間などそうそういませんので、扱えるものあるいは得意なものだけで結構ですよ。そのほうが的の無駄遣いになりませんので」


「そういうことですのね。これは魔力を図るための試験、と。初めて見るから戸惑ってしまいましたわ。ただ、ゾクセイ……というのがわかりませんわ。魔力にそんなものございましたかしら?」


この質問に、試験官は呆れたように答える。


「キミ、魔術の属性も知らないでここに来たのかい? 困ったもんだなぁ。まあでも、なにか得意な魔術のひとつくらいはあるだろ? もしそれもないなら、さっさと帰ったほうがいい」


「得意な魔じゅつ? とにかく自分が一番上手に使える魔法をあれに使えばよいということでしょうか?」


「はいはい、それでよろしいですよ。ほら、次が詰まってるんだから、さっさと終わらせて」


「わかりましたわ。それでは一発かまして差し上げますわ!」


リーラリィネはそれはそれは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。


自分の力を試す……それは彼女にとって楽しい時間である。


自分がいかに優れているか、自分にどれだけ力があるか、それを確かめる時間の喜びは何ものにも勝る。


だから、こうした機会に手加減などしない。


リーラリィネは自分のもっとも得意な魔法に全力を込める。


それは彼女の魔力を右腕に集約し、強烈な勢いで噴射する。


その形はまるで「剣」のようになり、触れるもの一切合切を灰にする。


「では、参ります!」


リーラリィネが腕を振り抜くと、目の前の人形はきれいに真っ二つとなった。


その光景を目にしていた試験官は、いったい何が起きたのかわからないまま、口をパクパクさせていた。


「えーと? これで試験はおしまいですの?」


「あ…ああ、いえ。このあと、あちらの会場で筆記試験がある……ございます。ので、次はそちらに向かっていただければ、と」


「そうなのですね。わかりました。それでは失礼いたしますわ」


そう告げると彼女はゆっくりとその場を立ち去った。


ちなみに、筆記試験では人間が扱う魔術に関する問題が出題されたが、その尽くが理解できずにあえなく白紙の解答用紙を出すことになった。

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