表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

受験の許可をいただきましたわ

剣はぴたりと止まっていた。


少女の頭上で、微動だにすることなく。


理由は簡単だ。


リーラリィネがつまんでいるから。


「なっ……! はぁ!? ど、どういうことだ! お前、何をしたんだ!」


「何をしたと言われましても、斬りかかってこられたのでお止めしただけですが?」


何でもないという顔で返す少女に、グランツはゾワッと悪寒を覚えた。


「そんな馬鹿な……たしかに全力で振ったはず! 僕の剣はそんなに生ぬるいものじゃっ! っていうか、これ……全然うごかないぃぃぃぃ!」


「これは失礼しました。もう攻撃はおしまいでしたのね。ここから追撃でもあるのかと思って警戒してしまいました。それでは、剣はお返ししますわ」


そう言うとリーラリィネは剣をつまんでいた人差し指と親指から力を抜く。


急に重みを取り戻した剣にびっくりするも、なんとか体勢立て直すグランツ。


が、その顔はすぐさま痛みで歪むことになる。


メキッ!


リーネリィラの拳が、彼の腹部に大きくめり込む。


グランツの身体は後方へと大きく吹き飛び、ピクピクと痙攣を始めた。


「あらあら、いまの一撃をそのまま受けてしまうのですか? それはさすがにちょっと期待ハズレですわ。勇者学園の入学希望者……いずれは魔王を打ち倒そうという者がこの程度では。まあ、ほかの勇者がどうであろうと、ワタクシには関係ありませんが」


そのまま倒れるグランツの元へ迷いなく近寄る。


が、それをグランツの側に立っていた2人の男が阻もうとする。


「そこを退いてくださらないかしら? ワタクシ、あの方からいただきたいものがございますの」


すると、男たちはすぐさまリーネリィラを捕まえようとする。


しかし、その手をするりと躱した彼女に、逆に首根っこを押さえつけられてしまう……それも、2人同時に。


「何度も言わせないでいただきたいですわ。ワタクシは、その方から、いただくものがございます」


グッと掌に力を込めると、男たちはそのまま気絶してしまった。


このやりとりのおかげで、グランツは意識を取り戻し、なんとか逃げようと這い出していた。


だが、のろのろと這っているだけで、まったく距離を取ることができない。


「どこに行かれるおつもりですか、えーと……グランツドローゼンハイム様?」


「ひ……ひぃぃぃ!」


名前を呼ばれただけで、悲鳴を上げてしまう。


それほどまでに彼女との「力の差」を自覚させられてしまったのだ。


「先ほど尋ねましたら、貴方はカメイをお持ちとのこと。なら、それをワタクシに譲ってくださいませんか? どうもそのカメイなるものを持っていないと、入学試験を受けられないそうなので。さあ、譲ってくださいな」


満面の笑みで手を出す少女。


「お前……なにいって……」


グランツは彼女の行動が理解できず、ただただ震えていた。


「ですから、ワタクシにはカメイが必要なので、それを譲ってくださいとお願いしているのです。それとも、まだワタクシに敵うとでもお思いですの?」


今度はさっきとは反対の拳を握りしめ、彼の頭上に構えてみせる。


「ち……ちがう! ちがうよ! 家名は……家名ってのは!!」


「我が勇者学園の入試に、家名は必要ありませんよ!」


静かに、だが力強く響き渡る声。


その場にいた全員が、その声の方向へと目を向ける。


「どんな者にも勇者となる可能性はある。それが平民でも貴族でも、盗賊でも物乞いでも家無しでも、素養さえあれば勇者への道は開かれている。それが我が校のモットーであります!」


先ほどとは異なり、揚々とした大声が空気を震わせた。


「ですから、それ以上、その方をいじめる必要はないですよ……レディ?」


いつの間にか近づいていたソレは、振り上げていたリーラリィネの拳を掴む。


彼女がハッとしたのもつかの間、すぐさま手の甲に男の唇が触れた。


「しばらく拝見させていただきましたが、素晴らしい才能をお持ちのようだ。あなたなら、我が校の門を軽々とくぐり抜けるでしょう。いや、あるいは歴史に名を残す偉大な勇者となられるかもしれません。さあ、試験会場までご案内しましょう」


その仕草はまるで王族のように優雅で、それでいて落ち着いたものだった……リーラリィネが見逃すほどの速さを除いては。


「それはつまり、入学試験を受けられる……ということで、よろしいのでしょうか?」


「ええ、もちろん! むしろ貴女のような方を逃しては、我々の名誉に関わりますよ」


そう言うと、男はリーラリィネの手を引いて歩き始める。


「そうだ! 私の名前をお伝えしていませんでしたね。私はこの学園の生徒会で副会長をさせていただいているアルス・ル・ホーエンハイムと申します。入学が決まれば、何かと聞くことになる名だと思いますので、ぜひ覚えておいてくださいね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ