因みに食べていたアイスの味は超バニラ。
高校二年の秋。高校に入学して新生活にワクワクするわけでもなく、卒業まであと一年の青春の始まりでもない、高校二年の秋。
何てことない年の、何てことない季節。
少女――天羽美衣はコンビニから出てすぐ、アイスを口にしていた。店員の「あざっしたー」というやる気の無い声にも反応せず、目の前のアイスを頬張る。
「ん~! アイスはやっぱり秋ですなあ」
傍から見れば変人に見える美衣だが、辺りから注目を集めているのはそのせいではない。
思わず振り返り、目を奪われてしまう美貌。顔はまだ幼さが残っているにも関わらず物凄く整っている。身長が平均よりやや小さめだが、もはやそれが小動物に見え、愛らしく思ってしまう。
当本人は、全くもって気が付いていない。(美貌と視線両方に)
アイスを口に含むと、天使のような笑みで頬に手を当てた。
「っ、おい、やべぇ……!」
「心臓が……っ」
「おい、大丈夫か!?」
危うく見知らぬ男の心臓を止めてしまいそうだった、この少女。因みにそれすら視界に入っていない。
コンビニから三分もかからない家までの帰り道、ある男とすれ違った。
「っ……!」
しかし、今度は彼女に見惚れたわけではない。
つかつかと美衣に近寄る、その男。
流石に美衣も気が付いたのか、アイスを食べる手を止めた。
自分の目の前で何も言わず立ち止まる男に、淡々と言う。
「何ですか」
ついでに、「私アイスが食べたいんですが」と付け加えた。
余計な一言だ。
それが彼の心に火をつけたのかもしれない。顔を上げ、青年は発した。
「アイスは家でゆっくり、じっくり食べる物でしょう! それをこんな道で……」
「……そうですか。では」
「ちょっ、『では』って!」
「貴方が言い終わったので要はもう無いんですよね。他にもあるなら早く」
やる気の無い瞳に押され、「ぐっ……」と少々悶えた彼。
今までに素っ気無くされたことがないんだろうか、と美衣は考える。が、すぐにアイスへと思考は戻った。