ある日突然 6
街の大通りを歩くと割とたくさんの人通りがある。
考えたこともなかったけれどゲームのキャラクター達なのだろう。
…… 私もその一人になってしまった。
甲冑を身につけた王国兵士もいれば、大剣を背にした傭兵。
民族衣装を身につけた少女もいれば、釣り竿を手にした老人もいる。
人混みを縫うように歩いて、雑貨屋の角を曲り裏通りを歩いて錬金術工房の扉を叩いた。
しばらくして中から顔を出したのは見覚えのない少年だった。
「 ええっと、師匠いらっしゃいますか? 」
「 あいにく師匠は薬草取りに出かけています。 …… どちら様ですか。 」
「 以前こちらで修行させて貰ったのですが、またお世話になれないかなと思いまして。 」
「 そうですか。僕も入ったばかりでよく分からないのですが、入って待ちますか? 」
「 師匠の行った採集場所はすぐ、帰って来られる所ですか? 」
「 さあ? 」
私の記憶が正しければ、師匠は珍しい薬草を求めて気の向くままどこまでも出かけてしまう、変人だ。
つまり …… すぐに戻るとは思えない。
「 良ければ作業台を借りられますか? 」
「 構いませんよ。あちらをどうぞ。 」
少年は空いている作業台を示した。
私は収納から薬草を取り出し、まず初級ポーションを作ってみた。
久しぶりだったが、なかなかの品質で作る事は出来た。
以前の修行は身についていたようだ。
「 上手なんですね。 」
「 え? あ、そんな事ないです。普通ですよ。」
少年が見ていたことにはまったく気がつかなかった。
初級ポーションは相当たくさん作ったから、ようは慣れだと思う。
ゲームを始めたばかりの頃、薬草を見つけるたびに摘んでいたのでたくさん持っていた。
そのまま売ってもたいした金額にはならないが、一手間かけてポーションにすればそこそこ稼げる。
まあ、微々たる差ではあったのだけど。
中級や上級のポーションを作るためにはそれなりの薬草が要る。
それなりの薬草は遠くの、つまり手強いモンスターのいる場所でしか採集できない。
ちょっとずつ遠くまで行っては色々採集したな …… なつかしい。
モンスターによっては毒攻撃を仕掛けて来る者もいる。
毒消しや状態異常に効果のあるポーションも欠かせない。
必要な素材を集めにあちこちふらついたっけ。
…… あと爆弾ね。
現実世界で作ったらヤバい奴だけどだいぶ作った。
集団でいるモンスターには効果があるから。
とりあえず爆弾投げて残りを殲滅 …… みたいな?
言葉にするとだいぶアレだな。
まあ、モンスター相手だからね。
…… やらなきゃ、やられちゃう。
この世界は弱肉強食なのだ。
生きていくって事は結構シビアな事で、私には新鮮に思える。
前は何も考えてなかった気がするなぁ。
生きる意味とか、考えないって贅沢な事だった。
…… シビアな状況で生きている人達の存在を知っていても。