ある日突然 5
結局、考えても結論は出ない事に気づいた。
もしかしたら今目覚めて、夢だったと気づくかも知れないし。
本当に死んじゃって転生したのかも知れない。
あり得るのかどうかはともかく、だけど。
大事なのは不用意に死なない事だ。
今までは死んでも蘇生薬があった。
…… ゲームの中で何回もお世話になっていた。
けど今死んだらどうなっちゃうか、想像もつかない。
セーブポイントが見当たらない以上、自力で家に戻るしかない。
今のライフは狩人だけど、錬金術師を目指すべきかも知れない。
ポーションの類は結構良い値段がする。
買うより作れた方が良い物を手に入れやすい。
兵士や傭兵になって強くなるのも一つの方法だけど。
とりあえず死なない事を目標に掲げた。
だって前世(?)死んだ記憶ないんだもの。
…… 人って結構簡単に死んじゃうんだと思う。
だってあの日もいつも通りだった。
昼休みに、近くの公園のベンチで弁当を食べ終えて会社に戻る時の事。
赤信号を待つ間にアプリを開く。
午後の仕事が始まるまでゲームをするつもりで。
着いたらすぐに出来るようログイン。
ふと見た横断歩道の向こう側。
…… そこに、同僚の姿が見えた。
同期の彼とは気安く話せる仲だ。
たくさんいる職場の同僚達の中では、間違いなく上位で。
けれど今、彼は新入社員の女の子と親しげに話している。
彼女は今年入社の女子社員の中で、一番可愛いと言われている子だった。
…… ああ彼も、ああいう可愛い子がタイプなんだな。
わかり切った事なのに、何だか少し胸が痛んだ。
一緒にランチしてきたのだろうか。
ええと、胸が痛んだのはほんの少しだけ。
…… それにそうだ。
私は歩道で信号を待っていたんだった。
飛び出したのは私じゃなくて、飛び込んできたのは車の方。
あれ、やっぱり私あの時、死んじゃった?
そっか。
心残りがゲームの事だけってのが、寂しいけど。
まあ、転生したのがこのゲームで良かった。
知らないゲームじゃ楽しくないもの。
それほどゲーム好きじゃない私がなぜかハマったこのゲーム。
好きに遊んで良いよ …… っていうスタンスが好きだったのよね。
コミュ障気味の私の心のオアシス。
ひとときの安らぎのはずが終の住処になってしまった訳だけど。
不思議と凪いだ心持ちだ。
実家の両親は悲しんでくれたかな。
余り可愛げのない子供だった記憶はある。
上の二人の兄姉ほど甘えることも出来なかった。
帰省も年に一度、一泊だけ。
事故で死ぬなんて、きっと鈍臭い子だと思われただろう。
迷惑をかけて申し訳ないと思う。
親より先に死ぬのは親不孝って言うものね。
そこは申し訳なかったな。
今となっては取り返し、つかないけど。
まさか死んじゃうとは思わなかったから。
とりあえず、今度はなるべく死なないように気をつけよう。
レベルを上げて、装備を充実して、ポーションをつくろう。
まだまだこの世界には行っていない所が沢山ある。
前世(?)でもそのうち旅行に行きたいって思いながらどこも行ってない。
ハイシーズンは高いからとか思って。
有給休暇を取って、行けば良かった。
今度はやりたい事は、みんなやろう。
…… 仕事もガンガン変えちゃえ。
時間だけは、いくらでもあるんだから。