ある日突然 2
石畳の道を行くと、両側に門番の立つ門がある。
その先には緩やかな登り坂が続く。
次第に辺りの緑が濃くなり、どこからかせせらぎの音も聞こえた。
水場で皮袋に一つ分の水を汲み、目についた薬草を摘んだ。
いつもの行動だ。
それから小道へ戻ると私は平原を目指す。
そこには羊やウサギ、ニワトリなどによく似たモンスターがいる。
初級レベルでも倒す事が出来る弱いモンスター達だ。
…… 襲われても、ダメージはあるけど死にはしない。
初心者が安心してレベル上げに挑戦できる場なのだ。
大抵の人は容易く倒せるようになると、より強いモンスターを求めてもっと遠くまで行く。
平原のモンスター達はニアミスしない限り襲って来ないから、ただ通り過ぎればいい。
道端の林檎の木を揺すると、よく熟した林檎が落ちてきた。
二つを収納し一つをその場で齧る。
瑞々しく甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。
…… 凄いな。夢。
草原の草の匂いも、陽射しも、吹き抜ける風も。
今までこんなにリアルに感じた事はなかったのに。
今日は空気まで美味しい。
草原のハズレにある農園に顔を出すと馴染みのおばあちゃんがいた。
幼い孫の相手をしながらニワトリに餌をやっている。
竹を編んだ囲いの中平飼いされたニワトリの卵はとても美味しい。
「 …… こんにちは。また卵分けてもらえますか? 」
「 …… 良いよ。好きなだけ持っていきな。 」
私は草の陰などを探して卵を集めた。
あちらこちらの卵を集めると16個あった。
「 …… じゃあ、8個もらっても良い? 」
「 …… 良いよ。好きなだけ持っていきな。 」
「 …… ああそうだ。これ、いつもの薬草。 」
私は収納から先程摘んだ薬草を取り出しおばあさんに渡した。
かわりにもらった卵をしまう。
「 …… いつもありがとうね。 」
「 …… こちらこそ。おばあちゃんの卵は美味しいから。 」
「 …… そうかい。そうかい。 」
農園を出た私は西の平原を目指す。
大きな池のあるその平原ではいろいろな魚が釣れる。
途中蛇型のモンスターが出るが、弓矢のスキルが上がってきてさほど怖くはない。
だが今こんなにリアルな夢の中ではどうなんだろう。
私は背中の弓矢を外して手にした。
遭遇してから構えたのではもう遅過ぎる。
構えていたせいか蛇型モンスターには遭遇せずに済んだ。
だいぶ日も高い位置にあるので手近な池で釣りをする事にした。
手作りのルアーをつけた釣り糸を投げる。
程なくして当たりがあった。
引き上げたくなるのを我慢して我慢して一気にリールをまく。
思ったよりだいぶ大きな引きだったが釣り上げる事ができた。
釣れたのは、大きなマスだった。
私一人の夕食には十分な大きさだった。