38:決戦②
「ウー……ニャァッ!」
真上に渾身の【ニャン砲】。脳天まで突き抜けてぽっかり空が見える――というのを期待したものの貫通には至らず。外側よりかなりかたいようだ。
「グォオオオオオオオッ!」
喉も声帯もないけど、とにかく叫び声の発生源はこの空洞のようだ。鼓膜を直接殴られるみたいにうるさい。
「ニャッ! ニャッ!」
【ニャン砲】、【ニャン弾】、【にくきゅう波】。とにかく全ぶっぱ。内側から抉って砕いて焦がしてと、悪玉菌のごとく破壊の限りを尽くしてやる。
絶叫がさらに膨れ上がり、のたうちまわっている。効いているのは結構だけど中にいても壁が前後左右に激しく揺れるので衝突が怖い。
「もう一息……うおっ!」
急に足を引っ張られてガクンとなる。いつの間にか蔦というか木の根のようなものが足に絡まっている。
「っ!?」
爪で切断しようと振りかぶった手が、動かない。ヤバいと思ったときには遅い、シュルルッと伸びてきた木の根に両手両足が拘束される。
「んぎぎ……!」
力ずくで千切ってやろうと引っ張るとブチブチ繊維が切れていく、けど木の根は次々押し寄せてきて僕の身体を雁字搦めにしようとする。
「【ブンブン】ニャッ!」
手足がダメでも尻尾があるじゃない。光を纏った尻尾で乱れ切り、木の根が弾けるように千切れ飛ぶ。
ちくしょう、ボーナスステージと思ったら完全アウェーか。ということで撤退、口に向かって跳躍。
「おわっ――」
追い風、というか突風が後ろから吹きつけ、僕の身体を押し出す。口の中から飛び出して、不意打ちすぎて空中で逆さまになったところに、
「ヴォオオオオオオオオオオオオッ!」
怪獣が両腕を振りかぶり、絡み合わせている。その巨大な鉄塔のような腕に、竜巻が纏わりついている。リッキーが何十匹いてもこんな規模になるだろうか。
「やべ――」
腕が降ってくる。
「ニャァーーーッ!!」
渾身の、全力の、全身全霊の
――全エネルギーを集めて放つ、【ニャン砲】。
けたたましい
爆発
光
ブラックアウト
「――――――」
気づいたら僕は、地面に寝転がっていた。
「いて、ててて……」
身体を起こそうとして、全身が錆びついたブリキみたいに軋む。
「……解けてる」
【へんしん】が解除されて、ポン=シュ百パーセントの僕に戻っている。
「ニャー」
かたわらにサクラがいる。毛並みが汚れて乱れているものの、どこも怪我はなさそうでほっとする。
僕はというと、大きな怪我はなさそうなものの、擦り傷切り傷筋肉痛……どこもかしこも痛い。
「……あいつは……?」
顔を上げると、怪獣の姿は思ったより遠くにある。僕らはだいぶ吹っ飛ばされてしまったようだ。
(……死んだ、んか……?)
怪獣は朽ちた高層ビルのように、その場にぴたりと静止している。頭部は抉れ、葉は散り、枝の両腕は半ばで千切れている。
神獣サクラの最強魔法【ニャン砲】を、かつてない最大出力でぶっ放してやったのだ。無事でいられたらむしろちょっと凹むくらいだ。
「やった、終わっt――」
そのセリフは言ってはいけない、と口に出たあとで思い出した。
フラグシステムの残酷さを示すように、怪獣の身体が、
「――……え?」
仄かに光りだした。
薄緑色の光が風に乗って集まり、ふわりと包み込んでいく。光の粒子は僕らの周りから――周囲の木々から飛んでいるようだ。
「……枯れてる……」
あたりの木々がしおしおと枯れ、葉を散らし枝を落としていく。水分を根こそぎ吸われたみたいに。
違う――吸われているのは、マナか。
(いやいやいやいや……)
嫌な予感マックスすぎて、顔を上げるのが怖い。
でも確認しないわけにはいかない――チラッ。
「……だよねえ……」
案の定、怪獣の傷はみるみる塞がり、その枯れた身体に生気と潤いが満ちていく。周囲の同族(植物)から奪いとったマナで自分を再生させたのか。
「ォオオオオ、オオオオオオオオオオッ!!」
元気いっぱいの咆哮。傷ばかりでなく体力まで完全回復か。ゲームなら台パンで済むけど、現実でやられると理不尽すぎて泣きそうだ。
「やべえ……」
今襲ってこられたら――と必死に上体を起こしたものの、怪獣はくるりと踵を返し、ずしんずしんと地響きをたてて歩き去っていく。
「あっちは……」
先生たちが避難した方向――オネの村の方角だ。
「なんで……?」
あれだけ邪魔してやった僕らには目もくれないとは。僕らよりもあくまで狙いは村人たちということか。単純に人が多いほうに引っ張られているのか、それとも別の要因があるのか――いや、今は考えてもしかたない。
『サクラ、行けるか!?』
『無理……お腹すいた……』
サクラはごろんと寝転がってしまう。半目でベロを仕舞い忘れたグロッキー状態。疲労と空腹の限界、つまりマナ切れのサインだ。
「くそっ……!」
僕にしても、身体が全然言うことを聞かない。この苦痛と倦怠感もサクラのサインと同じだ、僕自身のマナも枯渇したということを知らせている。
「おい、待てよ……待てって!」
僕の声は届いていないのか、それとも気に留める価値もないのか。怪獣は振り向きもせずにそのまま遠ざかっていく。
(このままじゃあ……)
ジン先生、カルア、父さん母さん、村のみんな。
僕の大事な人たちがその先にいるのに。
あいつを止められるのは僕とサクラだけなのに。
(なにも……)
(できない……?)
力なんていらない、サクラとのんびり生きられればそれでいい、なんて。
サクラがいなければなにもできないくせに、皮肉が効きすぎて自分に腹が立ってくる。
「でも……」
それでも今は、今だけは。
でなければ僕は、なんのために――。
「――力が、ほしいか?」
「――……え?」
顔を上げると、目の前に、
見知らぬ女の人が立っていた。




