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18:魔法特訓


本日投稿分1/2です。

このあと23時頃にもう一話投稿します。


「ふぎぎぎ……」

「力みすぎよ。筋力じゃなくて、もっと身体の奥のエネルギーを感じて」


 ジン先生はわりとスパルタだけど、お嬢様モードのカルアは飴だ。他に人がいるとき限定で。


「魔法とは――」と先生。「加護により属性を変換したマナを任意の形で具現化する技術だ。私はマナを炎に変え、カルアやリッキーは大気と同化したマナで風を引き起こす」


 先生の指が僕の指に絡む。久しぶりのスキンシップ。これや、これを待ってたんや。


「お前とサクラは光だ。光は使い手の数こそ少ないものの、そのコツの掴みかたは他の属性よりも比較的容易だと聞く。マナを熱と光の力に直接変えるようなイメージ……だそうだ。わかるか?」


 わからない。漫画に影響された小学生が領○展開をやろうとするイメージでよろしいか?


「かれこれ何年も修行やってますけど……一度もわかったことないかも……」


 振り返ると、先生の肩越しにカルアがいかがわしいものでも見るような目をしている。


「あの、先生……ポンくんは本当に加護持ちなのでしょうか? 勘違いとか……」

「間違いない、〝託宣の儀〟には私も同席したからな」

「ああ、試し紙のことですね」

「身も蓋もないな」先生が苦笑する。「〝啓示の紙片〟と呼ばなくていいのか? お前も一応聖陽教の信者だろう」

「一応洗礼は受けていますが、教会には長いこと通っていません。父が寛容でしたので」


 〝託宣の儀〟とは「自分が加護を持っているか=魔法を使えるか」を診断するテストだ。なんのことはない、試し紙と呼ばれる用紙に血を一滴垂らして、用紙が何色に変わるかで判断するだけだったりする。


 儀式という仰々しいネーミングなのは、聖陽教が試し紙の製造方法を独占しているため、このテストを教団経由でしか行なえないからだ。この村には教会もないし司祭もいないので、年に数回布教に来る巡教師にお布施を払ってやってもらうわけだ。


「ついでと言ってはなんだが、魔法の各属性に関する基礎知識のおさらいをしようか」


 先生がすっと離れてしまう。ああん。


「加護とは魔法を使うための才能であり、どの精霊の加護を得られるかは脈々と継がれる血筋に依る。両親や祖父母と同じ加護を素直に受け継ぐ例もあれば、十代以上前の先祖の加護が隔世的に遺伝するような例もある」


 そのため、魔物は人間と違って同一種で同一の加護を持つ(まれに異種配合をしてキメラになる種もいるらしい)。ちなみにマ族がみんな闇魔法の使い手なのも同じ理由、らしい。


「エフ族の方は――」とカルア。「私と同じ風の加護持ちが多いそうですね。先生は火ですけど」

「ああ、風は始祖ウィドの血筋の証だな。私の火のほうは、おそらくウィドの妻になったヒュムのほうの血統だろう。百年前なら異端児と蔑まれる資質だ」


 先生の指先にぽっと火が灯る。


「火属性の魔法は、お前たちも知ってのとおり、ほとんどの用途が荒事方面に特化している。殺傷能力という点では雷属性と並ぶ筆頭だが、それ以外への応用性はイマイチだ。冒険者のパーティーで燐寸(マッチ)代わりに『おう、火ぃつけてくれや』とかぶっきらぼうに言われるとイラっとくるまでが火属性あるあるだ」

「僕はカッコいいと思いますけど、火属性」

「ふふ、ありがとう。そんな火属性の天敵となりうるのが水属性だが、ポン、その特性は?」

「えっと……水源がないと大規模な魔法とかは使えないけど、大気中の水分とか自分の体内の水分も操ったりしていろいろできる、みたいな?」


 ちなみに体内水分の調整で怪我や病気の治療なんかにも使われたりする。この村のお医者先生も水魔法の使い手だ。


「正解だな、どちらかと言えば水は支援寄りの魔法が多い。火や雷のような戦闘時のダメージソースにはなりづらいが、いろいろバランスがよくて小細工も利くのが特徴だ」

「いいなあ。水が一番よかったなあ、個人的に」


 そういう力があれば、せめてサクラのサポートができたのに。喉が乾いたときに水を出してあげたりとか、お風呂に入れなくても毛並みを綺麗にしてあげられたりとか。


「ポンくんは光よね、一応?」

「うん、一応」


 一応に棘を感じつつカルアに答える。


「水よりもよっぽどレアじゃない。回復系の魔法とかはむしろ光のほうが有名だし」


 どっちにしろ使えなきゃ意味ないじゃん、と顔に書いてある気がするのは被害妄想だろうか。


「ていうか……さっきの話じゃないけど、ポンくんって聖陽教団のお偉方の隠し子とかだったりして……」

「うーん……」


 聖陽教団では光の加護持ちが上の地位を占める慣習があり、それがいわゆる血統主義的なものを生んでいたりするという。近親婚を繰り返したり、他所で光の子供を見つけては養子縁組したり。


「その可能性もゼロではないな」と先生。「ただ私の知る限り、赤毛の聖職者は聞いたことがない。それに巡教師でもなければ教団の人間がこんな僻地に用もないだろう。まあ、ポンがその気になればそれなりの待遇で歓迎されるかもしれんな。魔法さえ普通に使えたr――」


 それ以上は言ってくれるなと目で訴える。察する先生とカルア、あくびするサクラ。


「ごほん、さて……カルアやリッキーが使う風属性だが」

「「はい」」

「戦闘支援特化で用いられる場合が多い。風圧を攻防に使うこともできるが、その真価は『マナの運び手』と呼ばれる特性にある。魔法で起こした風は他の属性のマナと高度な連携をとることができる。初歩的な【風泳】さえ習得できれば即戦力なコスパのよさも魅力だ」


 先生がちらっと目をやると、カルアが小さな風を起こす。先生の火が風で巻き上がる――かと思いきやふっと吹き消けされてしまう。一瞬だけ不満げに唇を尖らせるカルア。


「このとおり、魔法の連携というのは一朝一夕ではいかん。息を合わせ、魔法の強度を合わせる。風を緻密に動かすのはセンスと鍛錬が必要になる、うちのリッキーのように」

「ナンカ褒メラレタ気ガシタゼー! クェエー!」


 書斎のほうからリッキーの絶叫がこだまする。


 以前リッキーに試してもらったところ、魔法の風はサクラの光さえ乗せることができた。魔法の光というのはいわゆる物理的な電磁波とは異なるらしい。二匹の呼吸がうまく合わなくて「ほんの少し屈折させる」くらいが精いっぱいだったけど。


「カルアの風は若干繊細さに欠けるところがあるが、それを補って余りある力強さが長所だ。貴族の令嬢にしておくにはもったいない才能だな……と言ったら領主殿への不敬かな?」

「……そう、でしょうか……」


 褒められたというのになんだか浮かない表情。なにか気になることでもあるのだろうか。


「えっと……ミゲールって何属性なの?」

「……土、よ。ロックガルムだもの」

「へー、強そうだね」


 土属性――地面を通して土石や岩を操る力だ。ゲームとかだと風とは反対属性みたいな扱いだったりするけど、実際の相性はどうなのだろう。


「――先生、先生っ!」


 なんとなく漂いはじめた重い空気を吹き飛ばすように、どたどたと庭に転がり込んできたのはご存じ若手狩人のサンだ。


「久々の乱入だな、サン。お前が来るとまた凶報かと身構えてしまうぞ」

「へへっ、いやその……あっ、ちょうどよかった、ポンもいる。サクラも」

「へ?」

「ニャー?」

「また出やがったんだ、スライムが! わりいんだけど、またサクラに頼めねえかなあ!?」

 

 

    ***

 

 

 この日の魔法の特訓はそこで切り上げとなり、翌日。


「……え、カルアさんも来るの?」


 自宅の庭で外出の準備をしていると、ジン先生とカルアがやってくる。各々の隷魔も一緒だ。


「ええ……ぜひ見学させてもらおうかなって、あなたたちの仕事ぶりを」

「見学かあ……」


 うちの猫とおたくの犬と、見た目どっちが強そうかと。戦えるなら手伝ってもらってもいいのに。


「いや、でも危ないんじゃ……?」


 万が一でもお嬢様に怪我させるわけにはいかない。


「スライムって、冒険者ギルドじゃ雑魚扱いされているやつでしょう?」

「雑魚って……」


 カルアは知らないようだ。やつらの厄介さを。

 以前討伐したときのことを思い出すと……今でも震えが来る。


「カルアは魔法が使えるしミゲールもいる。自分の身くらい自分で守れるさ」

「でも……」

「もちろん、万が一の際には私が率先して守ろう。というわけで、駆除はお前とサクラにすべて任せる。半年分の成長を師匠に見せてくれ」


 そう言ってにやりと意地悪く笑う先生。


『狩り、久しぶり。楽しみ』


 サクラも乗り気だ。


「うぐぐ……」


 ちくしょうめ。そんなに言うなら、目にもの見せてやる――毎日猫じゃらしで研ぎ澄ましてきた猫パンチでな。

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