14:サクポン式魔導コタツ
本日2話投稿分2/2です。
「改めてお礼を言わせて。本当にありがとう、サクラ、ポンくん」
マギさんは小柄で短髪のハキハキとした感じの女性だ。僕の手をとってぶんぶん振り、サクラには優しくさわさわと首筋を撫でる。動物の扱いに慣れているようだ。
「それで、あの馬鹿二人から聞いたんだけど、魔導回路について私に相談があるって?」
馬鹿二人とはガジさんとカクさんのことか。二人は後ろで柄にもなくもじもじしている。僕としても薄々この三人の関係性がわかってきた気がする。百年経ってもこんなに初々しい青春漫画のような三角関係を維持できていることが一番の奇跡かもしれない。
「はい、新しい暖房器具をつくりたくて。サクラのために」
「なるほど……隷魔思いの子なのね、あなた」
「俺の弟子だからな」とガジさん。
「私のだがな」とカクさん。
「わかった! 私に任せてちょうだい、全力であなたの望みに応えるから!」
ということで打ち合わせをしているうちに、とっぷりと日も暮れてしまう。村人たちの熱い要望もあり、この村に一泊することになる。この世界で初めて体験する外泊は、賑やかな宴と温かいもてなしが続いてなかなか寝かせてもらえなかった。
***
それから、七日後。
「ついに完成したぜ……!」
「その名も、〝サクポン式魔導コタツ〟試作一号!」
「おお……これは……!」
げっそりやつれた二人が持ってきたのは、まごうことなきこたつテーブルだ。
「俺のマギが魔導回路周りの改良に手を貸してくれてな。暖房機能はそのままにスリム化に成功したんだぜ」
「私の設計したテーブルにもぴったり合うサイズになった。さすがは私のマギだ」
互いにほっぺたをつねり合うのはどうでもよくて、
「……え、サクポン式?」
製品名が気になった。
「そりゃあ、発案者の名前を入れなきゃな」
「まあ、深い意味はないさ。君たちへの敬意の表れとでも思ってくれ」
二人がそう言うなら別にいい。
ともあれ、こたつだ。
こたつが今、僕の部屋にあるのだ。
『こたつ? こたつ?』
興奮したサクラが前屈みになって尻尾を振っている。さっそく天板と脚の間に布団を挟むと、一目散にずぼっと中に突っ込む。
『あったかくして! はよ、はよ!』
『はいよ』
マナをこめるスイッチ部分は本体の側面にあり、布団をめくって触れてみる。すううっと腕から力が抜けていくような感覚がして、やがてかすかな震動とともに赤い光が内部に満ちていく。
「……おお……あったかい……!」
前世で使っていた電気こたつそのものだ。熱すぎず適度な温かさが肌に染みていく。幸せそうなゴロゴロ音の発生装置になるまでそう時間はかからない。
「どうでえ、ポン?」とガジさん。
「最高です……想像以上……」
「それはよかった」とカクさん。「我々もお先に使わせてもらったが、同意見だ。このコタツは本当に素晴らしい」
「おめえの発想はすげえよ、ポン。まさかこの世にこんなもんが生まれるときが来るとは、精霊様もご存じねえってなもんよ」
「いえいえ……ああ、溶ける……」
「ゴロゴロゴロ……」
「だがな、こいつはまだまだ改良の余地がある。お前が仕様書に書いてた温度の調節機能だが、今はマギのほうで開発中だ。小型の魔晶を複数連結して、ツマミでマナを流す個数を調整するんだとよ」
「テーブルのほうも種類を増やさんとな。これは君たち一家用に四人でゆったり座れるサイズで設計したが、用途に合わせて六人用や八人用もつくってみたい」
顔を合わせて「くっくっくっ」と悪だくみでもするように笑う二人。珍しく意気投合している。
「まだつくるつもりなんですね」
「あたぼうよ。俺んちにもほしいからな」
「私のうちが先だがな」
「やっぱ殴り合うんですね」
***
「先日のノロイバチの件だが、トワウの近くにやつらの巣を発見し、村人の手で焼き払ったそうだ。まだ調査と警戒は続けるそうだが、駆逐できたと考えていいだろう。たとえ兵隊蜂が多少残っていたとしても繁殖できんからな」
ジン先生の書斎にて。
「やつらの主な生息地域は、ここよりずっと北のほうだ。なぜ女王蜂はこんな森の奥深くまでやってきたのか……あれ以来ずっと考えているが、答えは出ていない」
「偶然、なんじゃないですか?」
「その可能性が一番髙いだろう。それこそ数百年に一度の偶然、たまたま起こった災害だと。だが……そうじゃない可能性もある」
「たとえば……じゃあ、こないだのマ族の仲間がなんかした、とか?」
「遠方で女王蜂を捕まえ、ここへ放ったと? なんのためにそんな面倒なことを? 仮に〝ウィドの鍵〟が目当てなら、それこそこの村を狙うだろうに」
「確かに。じゃあ、やっぱり偶然?」
「少なくとも今は、そう考えるしかあるまい。ただちに答えの出ない問いもある。そういうときは頭の片隅に置いておき、我々は我々の日々を生きるのみさ」
難しい話はいったん終わりのようなので、
「……で、先生」
「ん?」
僕はそもそもの疑問について尋ねてみることにする。
「なぜここに、コタツがあるんですか?」
コタツがある。険しい顔でシリアスな話をしていた先生だけど、その間ずっと腹まで入って寝そべった姿勢だ。
「逆に訊こう、なぜここにコタツがないと思っていた?」
どこかの隊長か。
「いやはや、この世のものとは思えん心地よさよ。今このときほどお前という弟子を授かったことを誇らしく思ったことはないぞ」
「これが最大の手柄かよ」
先生が徳利に手を伸ばし、お猪口に酒を注ぐ。
「あの、それは?」
「ああ、西方の島国で使われている酒の容器と盃だ。冒険者時代にもらったものを台所の棚の奥に眠らせていたんだが、なんとなく感覚的に、コタツにはこれのほうが合う気がしてな」
偶然、恐るべし。
「ちなみにリッキーは?」
「この中にいる」
「灼熱ヘノ招待! クェエー!」
「中で叫ぶなよ」
この冬。
通りすがりの村人から学校のチビっこたちまで、巷はコタツの話題で持ち切りになる。
「ついにうちにも来たよー、ほんとにあったかいんだよー」
「うちにも今度来るんだってー、ほんとに楽しみー」
さらに、冬場はどの仕事ものんびりなペースになるのがいつものことだけど、この冬はいつにも増して遅刻者や欠席者が増えることになる。「コタツが俺の足を掴んで離さない」「無理、もう家から出られない」などと正直な言い訳がそこかしこで聞こえる。というかうちの父も。
「お前ら! コタツ禁止にするぞ!」
冬の暮らしの質を大幅に向上させた反面、村の経済性に著しい影響を与えたコタツ。ぐーたら化した村人にブチギレた村長。もはやコタツのない以前の生活には戻れない村人たちは、その温かな誘惑に負けない精神力をつけることを誓うのだった。
「先生、そういや最近ガジさんとカクさん見ないけど、どうしたんですかね?」
「ああ、マギさんやトワウの村人とともにコタツの量産計画を立てているそうだ。来年の冬には本格的に周辺都市に売り込むと息巻いていたぞ」
こうしてトワウの村は、コタツの生産地として全国に名を馳せることになる……のだろうか。まあそれはいいとして、サクポン式は若干恥ずかしい。
ちなみに煮干しという名の捧げものは定期的にうちに届いている。ネコ教の拠点として着々と進行しつつあるようだ。
次回、新章。新たなヒロイン?登場の予感。
ここまでの感想評価とかお待ちしてますニャー。




