11:神降臨
本日2話投稿分1/2です。
このあともう1話投稿します。
「村が見えたぞ!」
「火の手が上がってる!」
僕らを乗せた馬が連なって村の門へと駆け込む。
「なんだこりゃあ……」
あちこちで村人が交戦している――巨大な昆虫と。
「くそっ! 来るなっ! 虫けらがっ!」
「アズがやられたっ! 誰かっ、誰かっ!」
蜂のような生き物が村中を飛び交っている。一匹一匹が大型犬くらいのサイズがある。
「くらえっ!」
胸を矢で射抜かれた巨大蜂がドスッと地面に落ちる。その向こうでは蜂が鋭利な針を突き出して襲いかかり、村人たちが農具や松明を振り回して応戦している。
「持ちこたえろっ! 応援が来るまで――!」
村を挙げて長い間戦っていたのだろうか、あちこちに動かなくなった蜂の死骸が転がっている――けれど未だに、見える範囲だけで十数匹は飛んでいる。
「おいっ、あっちやべえぞ!」
「しかたない、加勢に行くぞ!」
「えっ!? た、戦うんですか!?」
二人につられて馬を降りる。
「二人とも、そういう経験って……」
二人は職人だ。狩人ではない。
「ねえな、そりゃ」
「我々は魔物討伐にも参加したことはない。魔法も使えん」
「じゃあ――」
「だからつって、同胞を見殺しにゃあできんだろう!?」
「魔物よりしぶといアホと日頃から殴り合ってきたしね、今こそこの拳の――」
「カクっ! 上っ!」
気づけばカクさんの頭上に蜂が迫っている。高速で羽ばたく羽音がエンジン音のようだ。
「うわっ!」
「カク――」
思わず尻もちをついたカクさんに、針を剥き出しにした蜂がのしかかる、その瞬間。
――僕の懐から、光が飛び出した。
「ニャッ!」
グレーブルーの閃光。
サクラが音もなく着地したのと同時に、真っ二つになった蜂がぼとりと落ちた。
「……おお、なんだ今の……!?」
「……助かった、ありがとう、サクラ」
くるりと振り返ったサクラの目はギラギラと煌めいている。
『やっていい、こいつら?』
うずうずと身体を揺すっている。例の狩猟本能に火がついたようだ。
(こうなるのか、結局)
僕は一瞬目を閉じる。
村人の怒号と悲鳴がそこかしこで響いている。襲撃者は今もぶんぶんとあたりを飛び交っている。
能力の検証は進めてきた。一つまた一つと判明するたびに先生が唖然とするようなポテンシャルを披露してきたのだ。
サクラなら。
こうなったら、サクラしか――。
『……頼む。でも、無茶はダメだぞ』
『おけ』
その口に、ギュンギュンと光が集まっていく。
「ニャー!」
放たれた光線が、サクラの首の振りに合わせて空に模様を描く。触れた蜂がボシュッ! ボシュッ! と次々に弾け飛んでいく。
「ニュゥッ!」
跳躍したサクラの足元に、肉球マークの光が生じる。空気を蹴ってどんどん高く昇っていく。
「ニャッ! ニャッ!」
見下ろすほどの高みで静止して、その口から散弾のように光の弾を吐く。狙撃を受けた蜂がボンッ! ボンッ! と爆ぜていく。
「……おい、ポンよ……」
「……これが、サクラの力……」
蜂がサクラめがけて一斉に飛び上がる。狙撃をものともせず、物量で押し寄せていく。二十や三十では済まない、まだこんなにいたのか。
「――サクラっ! 逃げろっ!」
蜂球。
蜜蜂が雀蜂を球状に群がって圧縮し、熱殺するように。
蜂が次々に連なり、サクラを中心にぎゅうぎゅうに密集していく。
「サクラっ! サクラっ! サ――」
光。
蜂球の隙間から無数の光が漏れている。
「フーーー、ニャッ!」
光は眩しいほどに膨れ上がり、空間がたわむほどに炸裂する。
星が弾けるかのように、目も眩む閃光が村を覆い、波動が森の木々までざわめかせる。
「……――――……」
思わず僕は、へなへなとその場に崩れ落ちた。
光が、ゆっくりと収まっていく。
ぱらぱらと蜂の破片が降り落ちる、その中心に、
光を纏ったサクラが悠然とした姿勢で浮かんでいた。
「……なにが起こったんだ……?」
呆然と見上げる村人たち、ガジさんとカクさん、そして僕。みんな鼻水を垂らしている。
一瞬ひやりとした。けれど、やっぱり杞憂だった。
さくらはもう、サクラなのだ。
うちの猫は、後光を背負うその姿は、もはや猫の形をした神だった。




