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1-34 火浦空手道場の空手教室 その2 凛と舞

 そして、同じ理由で近年設置された物がもう一つあった。

「おース、ヨッちゃんにハルっち」

 やたらユルいあいさつを二人にかけてくる者がいた。

 二人が振り返ると、フワフワの長髪にヘアバンド、フード付きのパーカーにミニスカートとローブーツを履く、この道場にはやけに不似合いな小洒落た格好の少女、いや、美少女が立っていた。

「ああ、水流園(つるぞの)さん、こんにちは」

(まい)姉ちゃん、こんにちはー」

 少女の名前は水流園舞。柱基たちと同じく、この空手教室に通う門下生で、柱基(よしき)(りん)と同じ小学六年生である。

 小学校も二人と同じ角山(かどやま)小学校だったが、家が学校を挟んだ反対側、校区の端にあるため、この道場へ来る時はバスを使うことが多かった。そのため道場へ来る時は私服なのである。

「いや~途中でバスが渋滞に巻き込まれた時はアセったわ~」

 舞はすのこの上に無造作に座り込むと、ローブーツの紐をほどきながら、ウヘェ~とグチをこぼす。

 柱基は一瞬、舞の短いスカートの裾と、そこから伸びる白い足に目が行きそうになったが、イヤイヤと思い、すぐに靴箱の方へ移動する。

「エーそれは大変だったね。時間は大丈夫なの?これから着替えでしょ?」

 自分の荷物と上着を靴箱の棚に入れながら、なるべく自然に応対する。春花(はるか)も兄と同じように脱いだジャンパーをたたんで靴箱に入れた。

 それを聞いた舞は、脱いだローブーツを持って立ち上がると、ニヘラ、といたずらっぽい笑みを浮かべる。そして、スッと柱基に詰め寄ると、上目遣いで見つめてきた。

「それならヨッちゃんが、アタシの着替えを手伝ってくれる?」

「エッ」

 と思わず声を上げる柱基に、見上げる瞳が、ニヤッ、と笑いかける。

「ナッ、何言ってんの水流園さん、じょ、冗談言ってないで、早く着替えてきなよ」

 変な汗をかきながら、柱基は「ハ、ハハハ」と乾いた笑い声を上げた。

 舞はますますオモシロそうに目の端で笑うと、さらに半歩詰め寄って、顔を近づけてくる。

「エエ―ッ、ヨッちゃんが手伝ってくれなきゃ間に合わない~手伝ってよォ~」

「ちょ、水流園さんッ、近い近いッ、離れてよッ」

(あとッ、声に出して言えないけどッ、ムネっ、胸が当たってるッ)

 そうなのだ。柱基しか気付いていないが、六年生にしては大きめの舞の胸が、さっきから柱基の肘に微妙に当たっていた。当人が気付いているのか、いないのかは定かでないが、そのせいで、柱基の中の理由のわからない危機感が、秒単位で上がっているのだ。

 隣で見ていた春花も、やや顔を赤らめながら、思わぬ男女(?)の展開に、対処の方法を決めかねていた。お兄ちゃんは「離れて」と言っているが、単純に美少女と呼べるほどの舞姉ちゃんに言い寄られている(?)この構図は、妹としては止めないほうが親切なのだろうか?と、四年生なりの頭で考え、思い悩んでいた。

 と、そんな春花の脇を、一陣の何かが通り過ぎた。

 そして、直後。

 スパァ――――――ンッ!

 と、舞の頭をハリセンでブッ叩く盛大な音が、道場の中に響き渡った。

 気付くと二人のすぐ横には、上段から斜めにハリセンを振り抜いた凛が立っていた。

「イッタァーーーイッ!なにすんのッ、よ……って…アラ、凛、お早いお着きだねェ」

 凛はギロッと舞をニラむと、ツカツカと詰め寄る。ちなみにハリセンはすでにない。

「お早いじゃないわよッ、ここは半分私ンちなのッ。それより、アンタは何をやってんのよッ、もうすぐ稽古が始まるのにッ」

「エエ~ッ、もうすぐ始まるから、ヨッちゃんに着替えの手伝いをお願いしてたんじゃない~凛こそジャマしないでよォ~」

 少し鼻にかかったような、やや甘え口調の言い回しだが、フシギと舞いにはよく似合っていた。こんな彼女の容姿と性格から、同級生の間では「小悪魔」などと揶揄する者もいた。横で聞いていた男の柱基が、赤い顔で「あ、アハハハ……」と照れ笑いしているのが、このことをよく表している。

 だが、同性の凛からすれば、ただイラつくものでしかなかった。腕組みしながら、まるで自分の中のイライラを散らすように、片方の手で肘の内側をトントン叩く。

「あのね、舞。もう保育所や幼稚園じゃないんだから、男子と女子が一緒に着替えられるわけないでしょッ!さっさと一人で更衣室に行くッ!」

 そうなのだ。物入れ付きの靴箱と同様、時代のニーズに合わせて設置されたのが、男女それぞれの更衣室だった。といっても、壁の前にパーテーションを立てて出入り口を付けただけの簡素なものだった。男子は道場の北側、女子は南側に。だが、遠方から来る門下生にはありがたいもので、人目を気にせず着替えが出来た。

 凛の剣幕に、舞も不承不承で了解し、道着の入ったリュックを背負い直した。そして、更衣室の方へ行きかけたが、ふと、何かを思い出したように戻ってくる。

 凛が「ン?」という顔をするが、そんなものには目もくれず、再び柱基にすり寄ると、甘え口調でささやいた。

「ヨッちゃんは私の着替え、手伝いたかったんじゃない?もしそうなら、今度二人きりの時に、手伝ってくれてもイイのよ?」

 そんな言葉とともに、上目遣いで見られると、柱基は再び顔を赤らめたが、何かの気配で横目を動かしたとたん、一瞬でその顔が青ざめる。

「あ、あの、水流園さん、凛ちゃんが怒ってるし、早く着替えに行ったほうが……」

 柱基にうながされ、ンン~と舞も横目を向けると、わざとらしい声で驚いた。

「うっわ~凛、顔がコワいよ~浮気現場に踏み込んだ、鬼嫁みたいになってる~」

 凛の中で何かが「ブチッ」と切れる音がした。

「誰が鬼嫁だァっ!」

 道場中に響く怒声とともに、どこから出したのかわからないハリセンを振り上げると、ブンブン振り回して舞を追い回すが、追われる舞もキャアキャア言いながら、身軽にヒョイヒョイかわしていた。

 そんな彼女たちを見て、道場の中から笑い声がさざめく。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 もし、この作品を気に入ってくださった方は、ブックマークや星☆の評価などよろしくお願いいたします。

 さて、新キャラもの水流園舞ですが、個人的には動かすのがとても楽しいキャラです。たぶんこれからもチョコチョコ話に絡んでくると思います。個人的に動かすのが楽しいキャラですので~凛とも相性がいい(?)ようで助かります~

 なお、次回の更新は十一月二十九日・月曜日の八時を予定しています。

 どうぞよろしくお願いします。

 ではでは~(^^)

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