1-21 メールと不穏
そんな華蓮を見て、十八もうれしそうにほほえむと、グラスのビールを一口飲んだ。
やがて、華蓮が、うっとりと閉じていた目を開けると、今度はジッと十八を見た。
「十八クン、いつもありがとうね」
「エ?なに?どうしたの、急に」
「エ~だって、初めて会った研修医の頃もそうだったけど、今の私も十八クン無しではあり得なかったんだなァ~っと思ってね。だから、ありがとうね」
面と向かってそんなことを言われた十八は、少し顔を赤くすると、照れくさそうに笑う。
「そんなことないって、今の華蓮さんがあるのは、華蓮さんがガンバったからでしょう~それに、お陰って言うなら、僕だけじゃなく、華蓮さんのお父さんやお母さんもそうだよ~柱基が生まれてすぐは、僕も赤ん坊の世話なんてサッパリだったから、華蓮さんが研修に復帰してすぐなんか、お母さんにずいぶん助けられたよ」
「そうだったわね~あの頃はよく、お母さんが仕事帰りにウチに寄って、柱基の面倒見たり、おかずの差し入れをしてくれてたわよね~」
「そうそう、それにお父さんも、夜中に柱基や春花の具合が悪くなったら、車でこども病院まで連れて行ってくれたじゃない」
華蓮の体質が遺伝したのか、柱基も春花も乳幼児の頃は、軽い喘息の症状があり、季節の変わり目や明け方によく熱を出していた。そんな時、五郎が自分の車を出して、二十四時間対応している救急病院に連れて行ってくれたのだ。
「二人とも小学校に上がる頃には収まったから良かったけど、あの頃はしょっちゅう熱を出して、お父さんの世話になってたもんね~」
「そうだったね~あと、ほら、研修医の頃にお世話になった、小桜先生、だったかな?にも、いろいろ助けてもらったんじゃない?後期研修を神部大学病院で出来るようになったのも、あの先生のはからいじゃなかったっけ?」
「そうだったわね~小桜先生にもずいぶんお会いしてないけど、元気にされてるのかしら?確か市外の病院に移動されたと聞いたけど…無事開業できたら、手紙でも書いてみようかしら」
「いいと思うよ~先生のお陰でこうして開業医になれました、って。喜ばれると思うよ」
何気ない会話で交わした、手紙という言葉で、十八はふと思い出して、口にする。
「そういえば、華蓮さんに確認したいことがあった」
「エ~なになに」
上機嫌の華蓮を見て、十八も気楽に切り出した。
「実は、今日の昼休みに、劇団の同期だった大岳からメールが来たんだ」
劇団と聞いたとたん、華蓮がピタリと動きを止める。だが、十八は気付かずに話を続けた。
「内容は客演の依頼だった。来月から公演が始まる舞台の脇役をやってくれないか、って」
そこまで言って、十八はようやく、さっきまで笑っていた華蓮が、今は口を閉ざして缶を置いていることに気が付いた。
気付いたので、十八は苦笑してみる。
「やっぱり、ダメ、だよねェ~」
華蓮も苦笑すると、少し申し訳なさそうに言う。
「客演自体は反対じゃないのよ。だけど、ちょっと時期が悪いなァ……私の予定では三ヶ月後ぐらいに開業を目指してるから、しばらくはバタバタすると思うのよ。だから……ゴメンね」
そう言って、華蓮は十八にペコリと頭を下げた。
「ン、いや、いいよ。客演の依頼も毎回受けてるわけじゃないし、また今度もあると思うから」
ハハハ、と明るい声で笑い、華蓮が気を遣わないように、できるだけサラリと言ってのける。一年ぶりの舞台の誘いに、全く未練が無いと言えば嘘になるが、今は華蓮の舞台に上がっているのだと自分に言い聞かせ、今回はあきらめることにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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さて、ようやく投稿話数が二十話を超えてきました。
投稿した第一話が金曜日の話で、今回もまだ金曜の夕飯のあとぐらいの話です。
一話一話が短いので、自分でも二十話分投稿した~スゲ~とか思ってましたが、お話の中ではまだ一日も経ってないのですよね~(苦笑)
エーぼちぼちしか進みませんが、どうか気長にお付き合いください~
なお、次回の更新は十一月十六日・火曜日の八時を予定しています。
どうぞよろしくお願いします。
ではでは~(^^)




