穴があったら入りたい
ヒロイン早紀、男卓志 メールはあるが、ラインがない頃
○○市成人式会場
「本日は、新成人の皆さま・・・」放送が流れる
早紀はドキドキしながら会場へ入る(進学で地元を離れていた)
「誰か知ってる子いるかな?」振袖をきている。前日までバイトや試験があり地元の友人と連絡が取れなく来てしまった。知っている顔を見つけ安心する。
友人のあかりがいた。
「久しぶり~」「え~早紀瘦せた?」「みんな綺麗~」「可愛い~」「写真とろうよ」
同じ高校のあかりと手を合わせた。みんな少しだけ大人になっていて気恥ずかしい
彼もいた、卓志である(高校のとき気になっていた男の子)
男子の中では目立つほうではないが、笑顔が可愛い恥ずかしいがりやの子だった。大学デビューしたのか少しおしゃれに髪を染ていた。
チラッと早紀を見て気が付き近づいてきた。
「お~久しぶり」変わらない笑顔だ。「うん久しぶり、卓志の髪いい色だね」早紀が言う
「そう?そうかな」卓志が照れてながら自分の髪を触る
「早紀の頭、これどうなってるの?なんか可愛いんだけど」卓志が小さく呟いた。
突然の言葉に早紀は、反応に戸惑う、嬉しさで自信が後押して素直になった。
「編み込みだよ、それにちょっと瘦せたんだ、頑張たんだよ」
「偉い偉いこんなに可愛いくなって、俺どう?付き合ちゃう?」
「え~冗談、大学に行ってチャラ男になちゃったんじゃないの?いい子だったのにどうした」早紀が答える
「いやマジで」卓志が言う
「や~恥ずかしい、褒めたって何もあげないからね」「アハハ」あかりとみんなで笑いあう。
その場で連絡先を交換して別れる。
「あ~楽しかった」早紀はニヤニヤして帰宅する。
「卓志ったら本気かな?」
ここから回想
教室の風景
3人の女の子で机をかこんでおしゃべりをしている
「早紀ぺん貸して」隣りにいた卓志が勝手にペンケースから取っていく
「あ~ちょっと~」ペンに付いていたマスコットに落書きをする。
「ほい、サンキュー」笑顔でペンを返される、落書きを見る
「あ~ひっど~い」「世界に一つだけのペンだからな」訳の分からない事を言っては、早紀をからかっていた。そんな事が他の子より特別扱いされた気になり嬉しくもあった。
しかし卒業後は、別々の県に進学する事が分かっていた。だから卒業式は特に何もなかった。
卓志は何か言いたげのように見えたが、「じゃ、早紀も頑張れよ」とだけ言い別れた。
早紀も「うんまたね元気で」としか言えなかった。
お互い気になっていた存在だったと思う、進学して2年間ほとんど連絡をとらなかったが今日あんなことを言われ気持ちは急上昇する。もしかしたら遠距離恋愛もありかもしれない。
早紀自宅アパートにて
「あれ?今日も連絡ない」携帯電話を見る
「んー今日もない」もう早紀は、準備万端だ
「卓志から連絡があったら素直になって彼女にしてもらう」そう心に決めていた。
1週間がたち10日たち2週間がたった
2
「あ~もう待てない、なんで連絡くれないの?これ以上過ぎたらこの話はなかった事にされるかも?
気のある素振りだけ?」モヤモヤする。
「いや卓志も絶対私に気がある、それは分かる。じゃなきゃ冗談でもあんなこと言うはずない」
「よーし私から電話しちゃえ」電話する
「もしもし早紀だよ」
「おーどうした?」{どうした?ですって?}早紀の内心
「うん、あの~一度会えないかと思って」早紀が勇気を出す
「あ~、…うん、いいよ分かった、いつにする?」
「今度の土曜日」早紀は心臓が爆発しそうだが、平静を保った。
土曜日10:00時計台の下で待ち合わせ(お互いの住まいの中間にある牧場公園)
卓志が笑顔でやって来る、気恥ずかしいさでいっぱいだが勇気を出して良かった。
早紀もつられて笑顔になる。素直になるってこんなに気持ちがいいものなんだと知る。
小高い山に登り、バター作りをしたり、山の景色を見て楽しく過ごす、天気も良く気分は最高だ。一緒の方角を見て顔が近づく{キス出来るくらい}2人でドキッとする。あっという間の5時間だ。
カフェでお茶をする。
「この間の成人式の時のことなんだけど」早紀が言う。卓志に緊張が伝わる。
「あ・・・うん」
「私、付き合うの初めてなんだけどよろしくお願いします」目をつむって真っ赤になって告白する。
「えっと・・・」卓志が詰まる(沈黙が続く)
早紀の予想と違う反応{あれ?薄目ををあけてみる}
「・・・ごめん、早紀本当にごめん、俺今付き合ってる人いて…」「本当ごめん」卓志が深く頭を下げる。
「やだ…謝らないで、困らせちゃったね」早紀は目をそらしながら答える
「俺が悪いごめん、高校の頃俺も気になっていたんだ、ただあんまり可愛くなってて、それで…」
「そっかー、あー恥ずかしい」{有頂天だった自分が恥ずかしくなる、彼女がいる余裕でチャラ男だったんだ、それじゃあ彼女いるのに最低だ}早紀の内心
「卓志はなんなの?、なんで今日来たんだよ、なんで…」涙があふれそうになりその場を去る。卓志は、追いかけて来ない。優しくしない事が卓志の誠意だ。
涙が止まらない、恥ずかしくて死にたい、穴がないから深く帽子をかぶった。
{最低だ、ふざけんな、卓志の馬鹿野郎、ちぇっこんなことならキスしておけば良かった。}
ぼんやり電車から夕日を見ていた
〈完〉