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王女様と仮面(仮装)舞踏会は危険がいっぱい


8


私が王妃様から急遽依頼された仮面舞踏会に向かってるころ、ジークフリード王太子殿下も、なぜか仮面舞踏会へ向かっていた。

仮面舞踏会は派手な仮面を身に付けて踊る、ちょっと変わった舞踏会だ。それゆえ誰が誰だかわからない。

ただ、主催者はある一定以上の身分に招待状を渡している。そのため貴族でも下の方は入れない。


仮面舞踏会当日、王太子殿下はシスティーナ王女から個別に相談を受けた。

妹がお転婆なのは承知をしていたが、仮面舞踏会に行くとは思いもよらなかった。王女は誰にも相談できず、悩んだ挙句に、王太子殿下に相談をした。

当日に話を聞いたので、国王夫妻にも言わずにアルフレッドを連れ会場に向かった。彼らの招待状は王妃様と同様のつてを使って得た。

妹王女にもしも何かあれば、我が国も何かしらの問題を被ることになる。くれぐれも内密にとシスティーナ王女にも言われた。

そのため、国王夫妻には始めから伝えようとは思わなかった。


シェリルは王妃様からドレスを渡された。それはドレスというより()()の装いだった。

これでは仮面舞踏会ではなく()()()()()ではないか。


(え!?、これ着るの)


王妃様から渡されたのは魔女の装いだった。

この仮面舞踏会は、目に仮面をつけるだけの者や、それこそ仮装をする者とどちらでもよく、自由な装いをすればよかった。

私は後者で魔女の装いだ。黒い帽子には白い髪付きのカツラを被り、黒のドレスに同じ黒い外套を纏い、仮面舞踏会の会場に向かう。

舞踏会の主催者に招待状を渡しホールに入った。ホール内は少し薄暗く、明かりは廊下側とベランダ側だけだ。

すでに仮装する者と目に派手な仮面をつけた者がいた。どちらかと言えばこの舞踏会は、前者の方が多く変わった舞踏会だった。

お陰で渡された装いも目立たない。キョロキョロと周りを見ながら令嬢とあのお転婆王女を探す。すでに何を着ているかは知っていたので、彼女たちを見つけるのは容易かった。それに彼女たちの装いは少し浮いていた。


(ーーあれはない、いただけない)


すぐに誰だかわかってしまう。なぜなら黄色いドレスに猫?虎?の尻尾を付け、頭にはその動物の耳を付けているだけだからだ。他の人たちは、誰なのかわからないような装いた。


(可愛いのだが、・・・うーん残念)


まぁいい。とりあえず彼女たちが満足し、何事もなく無事で城に戻ればいいのだから。

遠からず、近からず、私は彼女たちに近づき様子を見る。あの年頃なら仕方がない。

だがしかし、彼女は一国の王女だ。

お転婆にもほどがある。それに王太子妃候補のあの令嬢も。王太子妃になるには少し自覚がない。

すると、どこかの貴族の男二人が、彼女たちに近づいてきた。彼女たちはその男たちに誘われ、ホールでダンスをし始めた。楽しそうに踊る彼女たちを、私は壁際で見守った。


するとドアの方から同じようにあまり仮装をしていない男二人が入ってきた。

男たちの装いは、お伽話にでてくるピーターパンのような格好だった。ただそこに外套を纏い、帽子を深く被る。


(ーーうーん、あの二人はいけてない・・)


するとなぜかそのピーターパン風の男たちも彼女たちを遠目で見ている様子だった。

私はなぜか気になった。なぜなら仮面舞踏会を楽しんでいるようには到底思えない。

彼らはホールに入ってきて、誰かを探しているように見えたからだ。

しかし給仕が彼らに飲み物を渡すと、飲み物を摂りながら壁際に移動して行った。


(なんだ気のせいか)


だがとりあえず彼らの様子も気にかけた。そして私はまた彼女たちに目をやった。

満足そうにダンスを終えた彼女たちは、歓談する場所にそのまま移動していった。


ゆっくりと目で追いながら私もそちらへ移動した。更に薄暗くなった場所に心配だったが、テーブルに置かれた軽食と注がれた飲み物を飲みながら、彼女たちはおしゃべりを楽しんでいた。

しばらくするともう満足したのか、そろそろ帰り始めようと席を立ちだした。

すると男たちも一緒に立ち廊下に出た。それに私も続いた。


外で馬車が待っている。もうすぐ馬車の所に着く時、一緒にいた男たちがそれを止めた。

焦った彼女たちは囲まれたことに驚き逃げようとした。


やはりと思い、急いで私は向かった。男が王女の手を掴もうとした時、私はその男の手を先に掴み投げ飛ばた。

もうひとりは、怯え座り込んでしまった。

私は王女たちを馬車まで連れて行き、馬車に乗せた。

「今回のことは、内密に処理いたします。今日はこのままお城にお戻りください」

目は涙でいっぱいになっていた王女と令嬢に言い、二人は黙って頷いた。

私はドアを閉めて御者に頷いた。

馬車は急ぎ城へ向かった。それを見送り先ほどの場所へ戻った。


とりあえずことなきを得た。戻ると先ほどの男たちは姿を消していたので、私は再度ダンスホールに戻り、あの二人を見つけようと探し始めた。周りを見回したがやはり見つからなかった。


まあいい。今回は見逃そう。とりあえず仕事を終えた。

すでに深夜近くになっているだろう。しかし、未だホール内は、仮面舞踏会を楽しみ踊る人たちで溢れていた。

私は一度休んでから帰ろうと思いベランダに出た。ベランダは静かでダンスの音楽は聞こえない。


そこへ先ほどのいけていない装いのピータパン風の男が現れた。

「失礼、おひとりですか?よかったら一曲お願いできますか」

そういい近づいてきた。

「いえ、結構です。もう帰りますので」私はそっけなく断った。

「そう言わずに、どうか一曲」男はさらに言い、近づいてくる。


(あぁ、面倒だ。しかたない)


「では、ここで一曲だけ」

私が認めると、ニヤリと笑った。

「では、喜んで一曲」

そういうと私の右手の甲に軽くキスを落とした。驚きすぐに手を引こうとしたら、ぐっと腰を引き寄せ、手を置き身体を近づけた。はたから見れば、ピーターパン風の男と魔女がダンスをするという図柄で、まさにカオスだ。

帽子を深く被っているが、見ると男は端正な顔で、踊り慣れているのかリードがとても上手かった。

ベランダで踊っているため音楽は聞こえない。

シェリルはこんなものかと踊り、もう十分だろう。


そう思って私は足を止めた。

「では失礼」

そして踵を返しホールに行こうと歩きはじめた時、グラっと自分の身体が揺らいだ。


(えっ、なに?)


するとその男が、私の纏っていた外套を足で踏み止めたのだ。

そのため身体が弓形に反ってしまい、被っていた帽子が外れ、それと同時に帽子についていた白髪のカツラがガバっと抜け落ちた。


すると自前の銀の髪が垂れる。それを男は満足そうに見て更に悪びれずに言った。

「おや、白髪ではなく銀の髪だったのですね。それにそのアイスブルーグレイの瞳はとても綺麗だ」

「随分卑怯なことをなさるのね。ここは仮面舞踏会ではありませんか」

私は苛立ち怒りながら言った。

「失礼、突然ダンスを止めてしまうので、こちらとしては、いささか不本意なもので」

そういってさらに私に詰め寄った。

後ろに下がる。しかしもう下がれなかった。なぜならベランダの手すりが腰に当たっていた。

仕方がなく、抜け落ちてしまった帽子を右手で拾おうとしたら、男がそれを邪魔するように私の腕を掴もうとした。

思わず()()()にその手を振り払い押しのけた。だが、その男がさらに私の()を振り払った。


(この男何者だ)


男はニヤリと笑いながらこちらを見た。ベランダには私たちがいるだけで、ホールではそれを知らずにダンスを踊っていた。

帽子を深く被っていたが、男の目がキラリと光った。その碧眼が印象的だった。その目に捕らえれたような気がした。一瞬にして男が私の右腕を取りグッと身体を寄せ、外套を捲り出た白い腕の内側にキスをした。

チクッとした痛みが走る。

「うっっ」

私は驚愕し一瞬固まった。


(なにが起こった?)


私の思考が固まる。その時間がとても長く感じた。

はっと我に返った時はすでに遅かった。その右腕の内側には赤い痣がくっきりついていた。

「なんてことをするのです」

思わず声を荒げ、さらにその男のみぞおちに瞬時に足を飛ばした。

「グッ・・」

苦しそうな声が微かに聞こえた。男はみぞおちを苦しそうに手で覆い膝を突いた。

だがそんな様子も見ず、私は帽子を掴み猛然と走り出し、その場を逃げた。

ホールを出て、廊下まで行ったとき靴を脱ぎ走り出した。それはまさしく脱兎のごとく。



ベランダに残された男は未だにしゃがみ込んでいた。

すると一緒に来た男がすぐに彼に駆け寄った。

「ジーク様!?」

蹲る男に駆け寄り小声で声をかける。言葉が出ずにいたが、ようやく彼が発した。

「あぁ、、大丈夫だ。少し油断した」

そうだあの()()なのだから、俺としたことが油断した。

(同じ()()でまさに蹴りが出るとは、恐れ入った)




ジークフリードとアルフレッドは急ぎ城から仮面舞踏会へ向かった。

あまりそういうところ(仮面舞踏会)には行ったことがないためあんな装いをしていた。急いでホールに着くと、二人は王女と令嬢を探し始めた。

彼らは彼女たちの装いを知らなかった。そのため二人をなかなか見つけることができずにいた。


するとジークフリードがひとり壁に張り付く仮装したシェリルに気がついた。シェリルを何気に見ていたところ、女が女たちの様子を距離を取りながら観察していることが疑問に思った。

そのため彼女を通して、王女たちがわかった。だが彼はなぜか王女たちではなく、その観察していた彼女(シェリル)の様子を見ていた。

王女たちが歓談の場所から移り、その後、廊下に出て男たちに止められた時も、助けようと後を付けていた。

しかし、それはシェリルが先に手を出し、馬車に乗せたので安心した。

そして男たちを投げ倒したのを見て、あの流派が自分の兄弟流派であり、以前見たあの時と気がついた。

その後シェリルのあとを追いベランダへ向かった。彼女を捕まえるために。


そしてあの行為。逃げられないように()()()()()()を付けた。


(あれなら当分は残るな)


「俺も、一瞬、目の前が白くなったよ。だがもう大丈夫だ」

蹲っていたがようやく立ち上がった。やられてもただでは起きない。

そう、そういう男だ。この男は。



王女と令嬢の無事は確認したし、帰るとしよう。そして()()が消えてしまう前に今度はこちらから出向こう。絶対に逃さない。

馬車に乗り、外を見ながらグッと右手の拳を握る力が強まった。




次の日、システィーナ王女は、妹のエリザ王女を叱った。

それは同じく一緒に行った、あの令嬢も同じだ。二人揃ってお叱りを受けていた。

そのシスティーナ王女の隣には、王太子殿下とアルフレッドが立つ。二人は何とも言えず、黙ってその様子を驚きながら見る。正確にいえば見ているほかなかった。


それはあまりにも王女としての言葉ではなかったからだ。怒りのあまりに最後は声が出なくなった。

もう十分だろう。二人とも反省しているだろうし、その辺でいいのではと思いながらも俺は黙っていた。

それでも王女の怒りは収まらず、持っていた扇子を真っ二つにしてしまった。


それを見た王太子殿下とアルフレッドは驚愕し、言葉を飲み込んだ。だが誰かが止めないといけない。

ジークフリードは仕方なしに口を開いた。

「ーーシスティーナ王女、まあその辺でどうだろう。今回のことは遊びでは済まないが、無事にこうして戻ったことだし。王女たちも反省しているのだから、どうだろう。もうやめてもいいのではないか」


それを聞くと、ようやくシスティーナ王女が落ち着きを取り戻した。

「それにジャネット嬢、今回はあなたの遊び心でこのようなことになったのだから、しばらくは部屋で謹慎していただく、そして王太子候補からははずれてもらう」

項垂れるジュネット伯爵令嬢の目からは、ぽろぽろと涙が流れた。しかし遊び心とは言え、下手をしたら大惨事だったかもしれない。


ソファに王女たちを座らせ、アルフレッドが侍女にお茶の用意をさせた。ジャネット伯爵令嬢は侍女と一緒に退室させた。

王太子殿下がカップを手にしてお茶を飲んだ。そして全員が落ち着いてからシスティーナ王女にいった。

「今回のことは、陛下には伝えません」

「ありがとうございます、王太子殿下」

システィーナ王女はほっとした顔を向け頭を下げた。

「妹がお転婆で大変お迷惑をおかけしました。申し訳ありません」

「いえ、こちらのことは心配なさらず」

そういうと王女は言いづらそうに話し始めた。


「本当は、近隣諸国を巡っているとき、あなたにまだ妃がいないと知り、急遽伺った次第です。妹はこのようなお転婆で、あなたなら妹を預けられると思ったのです」

そうかそれで急遽訪問したのか。全く、妹も妹だが姉も姉だ、人をなんだと思っている。

そういい二人揃って再度深々と謝られた。


まったく人騒がせな姉妹だ。こちらの身にもなってみろ。

まぁいい、今回のことで俺も得たものが多いからな。




その頃、王妃様の私室ではシェリルが王妃様と女官長に昨晩の報告をしていた。

王妃は報告を聞きながら、笑いが止まらかった。今は扇子で顔を隠している。

「シェリル、ご苦労様、でもいきなりあのようなことが舞い込んできたのですもの、こちらも焦ってしまったのよ。私も仮面舞踏会と聞いていたし、あれしか用意がなくて、でもかえって正解だったのね。よかったわ」


(王妃様、かえってよかったではありません。それにあんなことされたし・・とはいえないわ)


「そうとも言えますが、それにしても暇な方々が大勢いらっしゃるのですね」

「まぁ、それは置いといて、でもあのジャネット伯爵令嬢がね。それについては後で、ジークに伝えるわ」

「はい、それにそろそろお決めになってもよろしいのではないでしょうか」

「そうね。それもジークに話すわ。でもせっかくなのだから約束通り、三ヵ月は滞在して。私としてはずっと滞在してもかまわなくてよ。それと今回の臨時支給を渡すわ」


そういって王妃様は微笑んだ。

なんだか騙されているようなそんな気がした。


 





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