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王都で人気のカフェと隣国の王女様


7


王都にシェリルの店が開店した。


店の正面には、大きなガラス張りのショーケースがあり、お店の中は外から見えるようになっている。

そのケースの中に美味しそうなお菓子やケーキなどが、ずらりと並べられてあった。ガラスケースには絵が描かれ、お洒落なお店構えだ。


カフェ・コンチェルト・エリーゼと看板が出された。

この店が何の店かをすぐにわかるようにした。

外からガラス張りで見えるお菓子類は、カラフルでとても美味しそうで目を引いた。

ひとりでも店に入りやすいようにしてある。それも狙い目だった。


そして目玉はコーヒー。フレーバーコーヒーも種類を豊富にした。まだ紅茶が当たり前だが、これを機会に広がればいいと思った。紅茶はコーヒーよりも匂いが広がらないが、焙煎もしているので、お店の中は匂いが漂う。

入り口のドアの横には、小さい上開きの戸がある。店に入りたいが、時間がない人のために、サンドイッチ、マフィン、ケーキなどの持ち帰ることができるようにした。

また、混んでいるならそれを買って、近くの広場のベンチで食べることもできる。お持ち帰りの仕組みだ。

店で食べる場合は、お皿に載せ、クリームを添えてミントや食べられる花を飾り、目を楽しませる。

絵になるように差別化を図った。


それこそ初めて見る外観と興味を惹き、さらに美味しさがわかれば店に通うようになるだろう。

すると段々と店が認められてきた。特に王都の女性や令嬢たちがこぞって訪れるようになった。


店が開店してからというもの、シェリルは益々忙しくなっていった。

朝は、侍女の仕事をして、一度、城を抜け出して店の様子を見に行く。売り上げの傾向を調べ、対策を考えて、また城に戻る。

夜は屋敷に帰り、フレーバーコーヒーを焙煎する。

そんな生活をしていれば、さすがに疲れてくるのは当たり前だった。

それとは反比例して店はさらに繁盛していった。

あまりにも店が忙しくなってしまったので、お継母様に頼み、マリーにお店に出てもらうことにした。


お陰で昼休みの間は、店に行かずこうして中庭の木陰の下で、今度出そうと思っているサンドイッチを食べていた。

食べ終わるといつものように感想をメモに書いた。

お腹の満足感と疲れが重なり、瞼が否応無く下がってくる。

するとうとうとと寝ていたら、上から大きな声が聞こえた。

「まったく、こんなところで寝るな!おい、起きろ。暇ならコーヒーを淹れろ」

王太子殿下だった。


そう、この木陰の横の棟には、王太子殿下の執務室があった。

王太子殿下がたまたま窓を開けたら、昼寝をしていたローザを見かけた。

それで二階の執務室から降りてきたのだ。

するとローザのポケットに挿されたペンのキャップがチラリと見えた。

ジークフリードはそれに目をやった。

(なぜ、ローザが()()を持っている。同じものなど二本もないだろう)




しばらくすると城では、王都にできた店が話題になっていた。

そう、シェリルの店だ。令嬢たちもずっと城の中では退屈だろうと、今では課題が終われば自由なので、王都に下がることもできた。


そんな中、ジークフリードがアルフレッドを連れ、王都に下がることになった。

馬車の中では、アルフレッドが最近開店した人気の店の話になった。

通りの外れに馬車を止め、あくまでも王太子とわからない装いをしていた。

今日の予定が終わるとアルフレッドが歩きながら話す。

「ジーク様、そういえば、この辺りに話題の店があるそうですよ」


するとやはり店が近くなのかコーヒーの匂いが漂ってきた。

見ると店は小さいが、ガラス張りで中が見える。女性が好むようなつくりの店だ。入り口の横に小さな戸があり

店に入らずに購入できるようだった。


すると店から男が出てきた。彼は外に置かれた看板を中に入れようと外に出てきた。

ジークフリードは出て来た男に話しかけた。

「お前が店主か?」

「えっ」

突然話しかけられた男は怪訝そうな顔をした。

男はクリーム色のシャツに黒いズボンを履き、黒のエプロンをしていた。

カフェの店員だが、がっちりとした体躯で見かけが熊のようで、彼から甘いケーキやマフィンなどを手にするような顔には見えない。こんなお洒落な店には合わない風貌だった。


しかし、見かけによらず人懐っこい笑顔で返事をした。

「いえ、違います。俺はここの店員です」

「とても人気の店で、ここの店はコーヒーを出すと聞いたが」

男は持っていた看板を下ろしていった。

「そうなんです。まだこの国では知られていませんが、私の主が隣国に滞在した際に見つけて、自ら焙煎しています」

男は自分の主がいかにも凄いのだと言いそうな顔で言った。


主が焙煎しているのか。ジークフリードは興味深そうにさらに尋ねた。

「ここで出すコーヒーはどのようなものを使うのだ」

それを聞いた男が驚いたような顔をした。

「旦那は随分詳しいですね」

「あぁ、実はコーヒーが好きだから色々調べたのだ」

ニッコリと笑って男が話しだした。

「ここのコーヒーはサイフォン式で抽出して出してます」

「あれは淹れ方が難しいはずだが」

「そうです。俺は店に出る前に主に教わりました。主はなんでもできる私どもの自慢なんです。

 店で出しているフレーバーコーヒーの焙煎も全て主がしています」

「そうか、そんな自慢な主に是非会ってみたいものだ」

「そうですか。でも残念ですが、今はいません。また是非いらしてください」

「あっ、昼の休憩でお店には入れませんが、お詫びに持ち帰りのコーヒーでしたらお出しできますよ」

「あぁ、頼む」

「では少しお待ちください」

男はドアを開け、看板を中に入れ店に入って行った。



ガラス張りで中が見えるので、男がサイフォンでコーヒー淹れる準備を始めた。

サイフォンでお湯を温め、コーヒーを抽出する様子はあの侍女と同じだった。

すべて同じということは、()()()()()()()()()()()ということだ。

アルフレッドから渡されたコーヒーを手に持ち、二人店から離れようとした時、前から深く帽子を被った娘とすれ違った。前を歩くアルフレッドはそれに気がつかなかったが、俺はどうにもその娘が気になった。

通りすぎてから、アルフレッドに持っていたコーヒーを預け、さっきの娘の後を追った。

先ほどの店を通り過ぎ角を曲がる。俺は静かに後ろをつけると、そこは先ほどの店の裏通りで、店の裏手のドアからさっきの男が出てきた。そしてその娘と話をしていた。

するとその娘は帽子をとり店の中に入る。顔は見えなかったが、帽子を脱ぐと銀の髪が垂れた。


(やなりな。そういうことか)

そう店の店主はシェリルであることがジークフリードにわかってしまった。

つまり、シェリルがこの店の主人で、屋敷でコーヒーを焙煎していた。あの男とあの侍女は、サイフォン式を彼女から教わり雇われていたのだ。だから屋敷に行ったときあの匂いがしたのか。


彼はそれだけ見て、アルフレッドを待たせているので急ぎ戻った。

そして馬車の中でジークフリードは先ほど見たことをアルフレッドに話した。

アルフレッドは驚いた、イングリット伯爵が嘘をついているとは思えなかったからだ。

彼女は隣国に三ヵ月の滞在中で、帰国したと連絡がなかった。まして王太子殿下を騙すことなど考えられなかった。

いったいどうなっているのだろう。

それにあの侍女だ。彼女に初めて会ったのは王妃の私室だった。

その時、彼女からあの匂いが微かにした。

彼女は伯爵家から派遣されてきているのだから匂うのか?


まあいい、とりあえず随分わかった。もう少し調べるか。

馬車の中で二人は今後を話し合った。




次の日、俺は国王夫妻に呼ばれた。

以前と同じように部屋に入っても()()()()()だ。

しかし、対面のソファに座ると、王妃がいきなり話し始めた。

「ジーク、急ですが、明日、隣国のエリスタ二ア王国の第一王女である、システィーナ・レナ・エリスタニア王女と妹のエリザ王女が滞在します。王女は近隣諸国を今廻っているのです。あなたも彼女のことは知っていると思いますが」


システィーナ・レナ・エリスタニア第一王女

そう、あれは二年前、王太子妃にと向こうから話が持ち掛けられた。まぁ王族の結婚など政治的なものだ。だが、残念ながら、俺の嫌いな類の女性だった。そのため即、会いもせずに断った。後で知ったが、彼女は相当激怒したらしい。そんなこと俺の知ったことかと思った。が、なぜ今になって隣国を巡るのだ。


「それでどうしろと」

嫌なことを思い出し飲んだお茶が渋く感じた。

「今回は巡っているというだけで()()()()()ことはないらしいわ。

 ただ、一緒に見える妹王女には気を付けてちょうだい。どうもお転婆らしいから。彼女は十六歳で、今、まさに社交界に出たばかりなの。そのことはシスティーナ王女も気をつけているらしいけれど」



次の日、王女たちを乗せた馬車が城に到着した。

四頭立ての馬車は黒光りしている。王太子殿下、アルフレッド様、近衛兵、侍女たちが並び王女たちを出迎えた。

ゆっくりと馬車のドアが開き、侍女が降りてこちらに向かい挨拶をした。その後ろから、システィーナ王女、そして妹のエリザ王女が馬車から降りた。

私たちは頭を下げる。ずらりと下げられている間に王太子殿下が挨拶をした。

「隣国を廻っている中、お立ち寄りいただき光栄です。どうぞごゆるりとお過ごし頂ければと存じます」


なぜか言葉の端々にすこし棘があるようだった。

「恐れ入ります。今回、妹を近隣諸国の方々に顔合わせのため、立ち寄らせて頂きました。

 また、お忙しい中わざわざ、ジークフリード王太子殿下自らの出迎え、ありがとうございます」

そういって王女は挨拶をした。


私たちが頭を上げると、王太子殿下を先頭に王女たち、アルフレッド様と続き国王夫妻に謁見するため、大広間に移動していった。侍女でも一番後ろにいた私は王女たちを見た。

王女たちから出る色を見てしまった。職業柄だろう。オーラは意識しないと見ることができないから。

(妹王女の色がちょっとね)


その日、王女たちのため夜会が行われた。

国の貴族たちとの夜会とは違い、警備やホールの飾り付けなど比べ物にならないほどだった。

隣国の王女がお見えになったので、いつもの規模とは全く違い総動員で行われた。

ホールには王太子妃候補者たち、そのほかの貴族令嬢たちも招待され盛大に行われた。

国王、王妃、その横には王太子殿下が並ぶ。

そこに第一王女と妹王女がホールに入ってきた。システィーナ王女は肩がアンシンメトリーで柔らかいベロアの生地で作られた深紅のドレスを纏い、ドレスには同じ生地で作られた小さな薔薇の花とパールが散りばめられて豪華な装いだ。妹王女は黄色いプリンセスラインの可愛らしいドレスで、前側は少し足が見え、その分なのか後ろが長くなっていた。髪はハーフアップで花が飾られている。

これから王太子殿下は()()()()()をお相手をしなければならない。これも彼の仕事だ。


開催の宣言で王太子殿下が、第一王女に始まり序列順に候補者たちと踊り始める。同様に招かれた貴族たちもダンスを始める。ホールが一気に華やいだ。踊るもの、歓談するもの、多数の人が集まる。そのためシェリルなど大勢が飲み物や、軽食を用意し、給仕として動き回る。



シェリルは仕事をしながらその軽食とデザートに目をやった。自分が店で出しているものとはまるで違う。

それはそうだ、夜会は食べることはせず、あくまでもそれは飾りだ。

忙しくて最近食べ歩きができなかったので、新しい発見がなかった。シェリルにとって人生で一番大事なのは食だ。

美味しいものを食べれば、自然と笑がでる。それは心も身体も幸せになる。嫌なことがあっても忘れるくらいだ。

だから食べ物は大事という持論が彼女にはあった。


また、最近のケーキの傾向が読み取れる。王宮で出されるものに、貴族たちが興味を示せばそれが話題になって広まり、おのずと街に広がる。その前に知ることが出来ればと彼女の目が輝く。


夜会が終わるまで、大方給仕をして時間を過ごした。別に仕事をするわけではないが、王太子妃候補者たちの様子も観察できる。彼女たちのドレスはどれも最先端のものだった。アルフレッド様の周りには貴族令嬢たちが囲む。

王太子殿下もと思って見たら、王女と候補者たちと踊った後は他の貴族令嬢に囲まれたが、するりと抜け出して友人貴族たちと歓談していた。

今回を含め夜会があと数回あるが、それより前に決めてくれてもいいのに。そうすれば仕事が予定より早く終わるとシェリルはひとり愚痴った。




王女たちは五日間滞在する。

その間にとんでもないことが起こった。

妹王女だ、相当のお転婆である。彼女は王太子妃候補者たちと仲良くなり、その内のひとりから仮面舞踏会に誘われたのだ。この間の夜会で、令嬢がとある貴族と話をしていたところ、たまたま近くにいた王女が聞いていた。

お転婆である王女は、とても興味を示し後日令嬢と二人で城を抜け出した。

遊びと思っているが、あまりにも危険である。

(やらかしてくれる)


その日、王妃が諜報員から報告を受け、私が急遽その仮面舞踏会に行くことになった。

特別料金ということで仕方がない。

私は、王妃様が用意してくださったドレスを纏い、馬車に乗って急ぎ仮面舞踏会に向かった。


読んで頂きありがとうございます。

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