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伏魔殿は恐ろしいところ、では参りましょう


5


シェリルは自分の部屋で仕度をしていた。

今回の仕事は国王夫妻からの依頼のため、色々と準備があった。

鏡に映る姿はまさにザ・メイドだ。

白いブラウスに、首元はそのブラウス付きのリボンをキュッと結び、濃紺で袖なしのワンピースだ。

靴は茶色のショート丈で編み上げブーツ。化粧でそばかすを書き足す。そして大きな眼鏡をかけた。

綺麗な銀の髪はまとめて、栗色のカツラを被り隠した。カツラは前髪が目に掛かるくらい長めで、後ろに二つしばりの短い三つ編みおさげが付いていた。


(よし、完璧だわ)


私は鏡を見てひとまわりをする。

それを後ろでマリーが残念そうに、鏡の中のシェリルを見ていた。

「マリー、どうしたの?」

「ーーお嬢様、いえ、ただ勿体ないと思いまして」

「?」

鏡を通してマリーを見る。

「いえ、王太子妃候補者の中に、お嬢様が入っていてもよろしいのではと思いまして」

「えっ・・・」

驚愕し、思わず振り向いた。


マリーがそんなことを思っていたなんて、思ってもいなかった。

「マリー、いやよ。私、王太子妃なんて頼まれても。そんなもの熨斗を付けてお返しするわ。 

 あんな自由のない生活なんてごめんよ。それに私、結婚なんてしないわ。私には夢があるの」

「そうなのですか?では、その夢とはどんなことです?」

マリーはおずおずと私に尋ねた。


「実は私、今度王都に店を出すの。そこで今まで食べ歩いた美味しい物を出すのよ。

 この間、地下室でおこなった実験が成功したのよ。もうすぐ夢が叶うわ!」

「そうなのですね。それは楽しみです。ゆくゆくは私もお嬢様に雇っていただけますでしょうか」

ふふっとシェリルは笑った。

「そうね。あなたと一緒なら楽しそうね」

そう言って鏡を見直すと、シェリルは仕事の顔になった。




伯爵家の馬車に乗り、王宮に向かう。

城の門扉で衛兵に許可書を見せて城内に入った。

馬車は城の端に停まり、王宮に入って長い廊下を歩く。

するとぞろぞろと煌びやかなドレスを纏い、大勢の侍女たちを連れ歩く王太子妃候補者たちが反対側から歩いて来た。

シェリルは足を停めて頭を下げる。

ぞろぞろと歩き、先頭を歩く令嬢たちは、序列順に公爵家、伯爵家、子爵家などの令嬢たちだ。

お互いがライバルだが、その顔を表には出さず、仲良さそうに振る舞う。


女官長のソフィアがシェリルを見つけ、シェリルは女官長に挨拶をした。

「今日からよろしくお願いします」

「待っていました。ふふっ。随分な変わりようね」

女官長は、私を上から下まで、まじまじと見た。


「今、王太子妃候補者たちを見たでしょう。わかるとは思いますが、十分注意をして。

 それと名前ですが、王妃様がローザと名付けました。では、王妃様のところへ向かいます」


まだ王宮の部屋の場所が頭に入っていないシェリルは、キョロキョロとまるで田舎者のように、頭を動かしながら女官長の後ろに続いた。歩いていくとあのアーチ型の廊下に着いた。するとこの間見た中庭に出た。

中庭が中心となり東西南北に建物がある。ここからこのアーチ型の廊下を東に歩くと王族専用区域がある。

この中庭がある横の棟は二階建てで、アーチ型の廊下横には二階に向かう階段があった。

そこから人が降りてきた。アルフレッドだ。なぜならその二階には王太子殿下の執務室があった。

するとアルフレッドが私たちに気づいた。


女官長がアルフレッドに挨拶をした。

「アルフレッド様、この者は|(女官長付き)の見習い侍女です。どうぞお見知り置き下さい。

 ()()()、こちらはジークフリード王太子殿下の側近であります、アルフレッド公爵様です」

女官長がシェリルを紹介した。

アルフレッドは女官長の後ろに立つシェリルを上から下まで、まじまじと見た。

どう見ても田舎臭い侍女とアルフレッドの顔には書いてある。そしてアルフレッドの顔が微かに歪んだ。

シェリルにとってそれが()()だった。目立つと仕事がし難いからだ。

一歩前に出て、アルフレッドに一礼する。

「アルフレッド様、女官長付き見習いのローザです。よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく。そのことは王妃様からも伺っている。それに王太子妃候補者たちとジーク様の調整役をすることも。今後会う機会が多くなるからな」そういいアルフレッドがにこりと笑った。


しかし、その微笑みはシェリルには通用しない。シェリルは、にこりともせず真顔で対応した。大きめの眼鏡と長い前髪が目にかかり、表情は窺えない。それからアルフレッドと別れ、王妃様の部屋にいそいそと向かった。



コンコン。

ドアを軽く叩き開けると、王妃様がソファに座っていた。その対面には王太子殿下が座っている。

女官長が挨拶をして中に入る。その後ろからシェリルも続く。

「王妃様、王太子殿下。見習い侍女の者が参りました。ローザ挨拶を」

そういい私に挨拶を促す。

私は王妃様と王太子殿下に向かい一礼をしてから挨拶をした。

「ローザと申します。よろしくお願いします」

王妃様は持っていた扇子を広げ、口元を隠したが目は笑っていた。対照的に王太子殿下は目が点になっていた。


そう、この()()だから。

「ーーうっ、何か匂う・・」小声で王太子殿下がぼそっといった。

そして王太子は見栄えの悪い私をチラリと目だけ向け、直ぐに王妃様の方を向いた。

「では今後、この侍女に候補者たちとの調整を伝えればよいのですか?」

「そうです。そのためあなたの()()としてもよろしくてよ。色々仕事をしてもらうことにもなるし」

「いえ、俺に侍女はいりません」

一瞬だけその場の温度が下がり、吹雪が吹いたように見えた気がした。


親子の会話だが、お互いの後ろに虎?がいるように見える。

(飼っているのか?はて、なんだろう)


「あらそう、彼女、とても素晴らしいのに残念だわ」

王妃様は扇子を軽く扇いだ。

「俺の仕事にはアルフレッドがいます。候補者たちとの調整だけで十分です」

そういい王太子殿下は踵を返して部屋を出ていった。

それをじっと見る王妃様、私は王太子殿下が部屋を出るまで女官長と一緒に頭を下げ続けた。


ドアが閉まると王妃様はくくっと笑い始めた。

「シェリル、いえ、ローザ。今日からよろしくね。でもあなたすごいわね。

その格好。ジークが唖然としていたわ。私としては楽しくて仕方がないけど」

王妃様は笑いが止まらなかった。

「王妃様、そんなに可笑しいですか?」

「ええ、ジークの顔を見たら止まらなくて。あの子のあの顔、久々に見たわ。

 あっ、そろそろ彼女たちが来るわ。とりあえず挨拶をしてちょうだい」

すると持っていた扇子をピシャリと閉じてソファから立った。

さすがである。すぐに一国の王妃の顔になった。




侍女が王太子妃候補者たちを部屋に通した。五人の令嬢たちは整列して王妃様の前に立った。


アリス・ロワール公爵令嬢

エリザベス・キャベット公爵令嬢

ジャネット・クリストフ伯爵令嬢

シャルル・ネイチェット子爵令嬢

アネット・ヴァリアス子爵令嬢


私は女官長の後ろ隣に立っていた。王妃様が私たちを紹介した。女官長が挨拶をし、次に私は彼女たちに一礼をする。

まじまじと彼女たちが私を見る。こちらも彼女たちをじっと()()した。

つまり彼女たちの(オーラ)を見るために。


(あぁ、やっぱり)

絵姿ではわからなかった色を見ることができた。全体像もわかり、この分だと予定より早く仕事が終わると思った。

あの事件が起きるまでは。


女官長が彼女たちに、滞在する間の部屋を案内するため全員を連れ部屋を出た。

王妃様と二人部屋に残った。ソファに座り彼女たちについて話しはじめた。

「どう、何かわかったかしら」

「そうですね。絵姿ではわからなかったことも見えました。でも、大体は絵姿で見た色と一緒ですね」

ひとり色が強めに出た令嬢がいた。しかしそれは彼女の性格が強いからだ。

「そう、わかりました。では、オーラは問題ないのね」

「はい、ありません」私は素直に頷いた。




次は王太子殿下と合うかどうかだ。

今後の予定は、顔合わせというお見合いのお茶会。個々に会うこと。夜会を数回催す。あとは王太子妃としての勉強会などが控えてある。

王太子殿下と会うのはお茶会、個別と夜会だ。

お茶会で全員と会い、それから個別の時間を取る。

それを調整をするため、後日王太子殿下の側近である、アルフレッド様に伺うことにした。


お茶会前日の夜。


令嬢の侍女たちが廊下で言い争いをしていた。

その話は廊下に響き、夜遅くに何事かと駆け寄った。

ある公爵令嬢と伯爵令嬢の侍女が、自分の令嬢が明日のお茶会で着るドレスの色が被ったことが発端だった。

令嬢なら全てのドレスはオーダーメイドではないか。()ぐらいで、なぜこうなると私は思った。

だがしかし、同じであるゆえの問題だった。

伯爵令嬢は影が薄く、濃い色だとドレスに負ける。薄い色だと幸が無く見られるのだ。そのため暖色系の橙色で華やかさを出そうと決めていた。しかし公爵令嬢も橙色を選んでいた。彼女は気が強いので、初めて会うのにその印象を柔らかくしようとその色を選んだ。昼間のお茶会は、夜会とは違い肌の露出も抑える。


そんな時、女官長とアルフレッド様が偶然通りかかった。

「なんの騒ぎです、こんな遅くに廊下に声が響きわたって」諍いがピシャリと止まった。

侍女たちがダンマリをしたため、アルフレッド様が、すぐに近くで空いている部屋に全員を入れた。

そして彼女たちの隣にいた私に説明を求めた。

話を終えると女官長はため息をついた。同じく話を聞いたアルフレッド様も同じくため息をつく。

そしてアルフレッド様が侍女たちに諭した。


「同じ色のドレスを着ても、王太子殿下は令嬢自身を見ます。一時的に隠せてもいずれわかります。

だから、今回はそのままで、もしそれが嫌であれば、違うドレスを着れば良いことです」

そういい侍女たちを部屋に戻した。


私は黙って聞くだけだった。

「困りましたね、ローザ。今回はアルフレッド様がいらしたから事なきを得ましたが、今後このようなことは、あなたが対応しなさい」

「承知しました」そういい、部屋に戻ろうとする私をアルフレッド様が止めた。

「待ちなさい。このような仕事はあなたの仕事です。こんなことも対処できなければ調整役とはいえません。次回も同じようなことがあればやめてもらいたい」

「はい、心得ました」私は二人を残し部屋を出た。



お茶会当日


令嬢たちは別のものを着るかと思ったら、初志貫徹でドレスの色が見事に被っていた。

しかし、色だけが同じで、生地も形も違う。ドレスはお互いの良いところを引き立たせた。

自分が一番輝くよう余念がない。


庭園の一角でお茶会は行われた。私は忙しく動き回った。テーブルセッティングから始まり、飾り付け、お茶の準備、お菓子などなど。追加や、茶葉替えのティーセット、日差しが強くなるので、日傘やパラソルなどを準備する。

令嬢たちがこちらに向かいながら談笑している。今から見えるジークフリード王太子殿下を待った。

すると王太子殿下が現れ、令嬢たちが序列順に並んだ。王太子殿下の後ろにはアルフレッド様がいる。

並んだ令嬢たちは、名前が呼ばれると淑女の礼をして挨拶をして行った。五人の挨拶が終わると王太子殿下は全員に微笑んだ。それを見た彼女たちはうっとりとしていた。


(げ、マジ!?)

私は思わず毒づいた。この顔嘘つきだろうが。

王太子殿下を囲みながら、令嬢たちが椅子に座る。一見華やかだが奥で控える侍女たちは、いかにも我が令嬢が一番とばかりに息巻く。


無難にお茶会とした見合いの顔合わせも終わった。まだ時間があるので、令嬢たちはここぞとばかりアピールするため、王太子殿下と庭園を回ることになった。ぞろぞろと歩き出し、その後を侍女たちも歩く。

私は片付けを始めることにした。これも調整役の仕事だからだ。するといつもは王太子殿下のお付きであるアルフレッド様が私の前にいた。

「ちょっといいか」

昨晩のことで散々だった私だが、痛くも痒くもない。なぜなら仕事と思えばなんてことはない。そんな私を見て行った。

「昨晩は大変だったね。でも、令嬢たちにとっては、自分を一番よく見せるためだし、売り込むためのものだ。

 君もその辺を理解してくれ」そういうと遠くを歩く令嬢たちの方を目で追った。

「しかしながら、二人とも同じ色とは、絶対変えると思ったが」


(あ、これ男の視点だ)


「多分、侍女たちは仕える令嬢にアルフレッド様がお話されたことを伝えたのでしょう。

 初めて王太子殿下にお会いするのですから、自身が一番輝くものを見てもらうために。

 女性とはそういうものですから」

そういった私に驚きながらいった。

「君でもその辺はわかるのか」

ブチッと私のどこかの線が切れた。しかし、こいつの性格はすでに把握済みだ。

なにも言うまい。そして彼の色も。彼のオーラは緑で平和的だが、心の色はたぶん黒に近いと読んでいる。


「ところで、この後にジーク様の執務室にお茶をお願いしたい」

「承知しました」

アルフレッド様は彼らの方に足早に歩いて行った。


渋いお茶でも淹れようかと思いながら私は途中のあと片付けを始めた。




















誤字脱字ありがとうございます。

ブクマ・評価ありあとうございます。


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