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仕事はキッチリ行います

シェリル・イングリットは伯爵令嬢であるが、彼女はただの令嬢ではなく、仕事として諜報員をしている。

仕事は完璧。彼女には特殊な能力があった。

彼女は人のオーラを見ることができる。ある仕事で隣国に行った時、カフェで二人の美丈夫と出会う。

口が悪い彼らに、毒を吐いてその場を後にする。しかし、後日新たな仕事で再会してしまい、その仕事で四六時中彼らと共にしなければならなくなった。


1


「では、これで今回の仕事は完了しました」

今、私がいるのはワーグナー公爵家の公爵様の応接室。

お部屋は広く、煌びやかだが落ち着きがあり、スプリングのいいソファは、公爵様の財力がわかる。

シャロン王国でこのワーグナー公爵家とは、上から数えるのが早い公爵家である。財力、地位などすべてを持つ。

そして公爵様の隣に座る公爵夫人が、広げた扇子で口元を隠す。


私の目の前には今回の依頼者であるワーグナー公爵様が、ニコリと笑ってソファに座っていた。

「ご苦労だった。明日までに給金を、あなたの家に送金する。

 しかし、さすがに見事だな。噂には聞いていたがいい腕だ。この短期間で調べ上げるとは。

 お陰で娘を変なところに嫁がせずにすんだ。実に素晴らしい。

 我が公爵家の専属に欲しいくらいだ」

そういい顎を撫ぜる。

そう、私、シェリル・イングリットの仕事は諜報員である。

今回の仕事は、隣国であるシャロン王国ワーグナー公爵家のご令嬢、ジェンヌ様のお相手の素行調査だった。

公爵はこのシャロン王国では有力な方で、お父様とも交易を行っている。

一人娘のため、公爵家の後を継がせるか、嫁がせるかを悩んでいた。ジェンヌ様はまだ16歳、まだ若く、最近になって夜会に出始めた。まだ大人の世界の怖さを知らず、夜会の楽しい時間を満喫し始めていた。

その時、ある夜会で彼女に声をかけたのが()だった。

ジェンヌ様はその彼に一目惚れをしたため、本気になる前に調査をすることとなり、私が呼ばれた。


私は絵姿を見て即座に思った。


(こいつはダメな奴だ)


相手は同じ公爵家でも、ワーグナー家より格が下がる。でも公爵家の次男だった。

彼はいわゆるタ・ラ・シだった。顔は世間一般では上の中であろうか。

まぁまぁといった顔立ちで、会ったら(顔だけなら)気持ちが桃色になるだろう。

だがしかし、残念だが私にはそれが通用しない。彼からでる色は、グレー色の黒だ。

私にはそれが見えてしまうのだった。

それゆえ彼は彼女にとってNGだ。


(はい!却下)


私はまず本人を確認するためチャラ男を探す。夜会なり、食事会、お茶会、街中などへ行く。町娘やメイドなどとして屋敷や王都の店など、どこにでも潜り込み、証拠を集める。それに裏もとる。今回もあっさりと証拠が見つかった。

令嬢なら甘い言葉で落とし、だれにでも声を掛けて遊ぶ最低な男だ。


そしてアフターケアも欠かせない。

「今後、またこのようなことがないよう、ジェンヌ様に合いそうな子息を見繕ってみました。

この辺りなら問題ないかと、また、他でありましたらなんなりとご依頼いただければ参ります」

そういい、証拠品、数枚の絵姿、そして身上書を渡した。

一礼し、ニコリと笑った。


(うん、私、グッジョブ!)


「では、これで荷物をまとめて帰ります」

「もう、出てしまうの?」

そう言ったのは、隣に座る公爵夫人だった。ベルベットの生地がふわりとするワインレッドのドレスを纏い、栗色の髪をアップにしている。優しそうな微笑みで私に話す。

「公爵夫人にも大変お世話になりました。帰国する前に一度、街で人気のカフェに行ってみたいのです」

「まぁ、そうなの」

パッと顔がほころび、両手の平を口元で合わせ可愛らしく微笑んだ。

そしてすぐさまソファを離れて部屋を出て、また部屋に戻ってきた。

公爵夫人が自作の薄い冊子を持ってきた。

そう、この公爵夫人は大のカフェマニアなのだ。

先ほどまで公爵様の隣に座っていたが、持ってきた冊子を開き私の隣に座り直した。

「是非、ここと、ここと、あっ、ここも。このお店に行ってみて!」

「あ、ありがとうございます。公爵夫人。明日行ってみます」

そういうと最後なのでと、共に夕食をするよう食堂に案内され晩餐を共にした。



次の日、お店が開く前に早々、公爵家を出た。

私の服装は町娘の服装だった。実はこう見えて伯爵令嬢なのだ。緑色の長袖のワンピースに、つばのある帽子を深く被る。ヒールの低い編みのブーツを履いた。仕事終わりの食べ歩きをすることが趣味だった。

辻馬車に揺られ、大きな広場で降りた。石畳の街を歩く。

通りは華やかで店が並び賑わう。夫人に頂いたマップを見ながら歩いていたら、正面から歩いてきた人にぶつかってしまった。

「あ、すみません」

「いえ、大丈夫でしょうか」

ぶつかってしまった男が、持っていた夫人が作ったマップを拾ってくれた。


(男二人でこんな昼間から街をぶらつくなんて遊び人か)


マップを拾ってくれたのは、茶色い髪に薄い青色の瞳の男だった。

その横には金髪の男が立っていた。見ると二人とも端正な顔立ちに、背が高く、細いが服をきていてもしっかりとした体躯で、騎士のようにも見えた。こちらがじっと見ていたら、金髪の男の方がすぐに顔を背けた。

茶色い髪の男が、優しそうに微笑んだ。

「はい、マップをどうぞ。本を見ながら歩いていると危ないですよ。気をつけて」

「すみません。気をつけます」

そういいお礼をしてマップを素早く受け取った。彼は優美な仕草でマップを渡し、私は彼らと別れた。


(さてと、気を取り直してこの辺りに目的のカフェがあるから探さないと)

再度マップを手に持ち店を探し始めた。


(あった、あった)

すでに店の前には人が並んでいる。

流石に人気があるカフェで、すでに10人位が店前に並び開店を待っていた。

私も列の最後に並んだ。

程なくすると店員に呼ばれ、店に入ることができた。

店員がオープンテラスに案内した。

私は飲み物とここで人気のパンケーキを注文した。

ここのパンケーキは、一枚の厚みが2cm位ありそれが有名だ。厚みがあるのに中がしっとりとしているらしい。

焼き上がるのに時間がかかるので、私は待っている時間に次の店の場所を調べることにした。


その時、風がふっと吹き、被っていた帽子が飛んでいってしまった。

(しまった)

帽子で隠していた髪が同時に流れる。


「ーあっ・・・」


帽子は道端の方に飛んでしまった。お気に入りの帽子なのでないと困る。

席を立ち、すぐさま取りに走りだそうとした時、誰かが飛んでしまった帽子を掴み拾ってくれた。


「「あっ」」


拾ったのは先ほどぶつかった、茶色い髪の男だった。

「また会いましたね。どうぞ。綺麗な銀の髪ですね。帽子で隠すのはもったいないですよ」

茶色の髪の男が帽子を渡してくれた。

「ありがとうございます」

そういいながら私はすぐさま帽子を受け取り、髪を帽子で隠し始めた。


「どうして隠す」

突然、頭の上から声がした。


(えっ!?)


それは一緒にいた金髪の男だった。

金髪の男は、店員にこのオープンテラス席を案内されてきた。男が案内されたのは、私の並びの席だった。

帽子を渡してくれた男と、まさに男二人でこの人気のカフェにくるか。

スイーツ男子と聞くが、こういう奴らをいうのか。


(初めて見た)


埋め尽くす席は、全て女の子や観光客など、また若いカップルで、ほとんどの客は女性が占めていた。

そういって金髪の男が座ると、あとから先程の茶色い髪の男が店に入ってきた。

すると茶色い髪の男が私に尋ねた。

「おひとりですか?」


(ひとりで悪いか)


「ええ、そうです。知り合いにこのお店を紹介されてきてみました」

「へー、ひとりとは寂しいな」

金髪の男がチクリといった。


私の頭のどこかの線が、ブチっと切れた音が私には聞こえた。


私はムッとしてその金髪の男の顔を見ずにいった。

「別に寂しくありません。それに食べたら早く帰らないといけないので」

そういったら二人に驚かれた。

「はっ?まだ昼間前だぞ、随分厳しい家だな」


(一々面倒くさい、しょうがない)


「いえ、そうではなく、私は隣国の者です。馬車に乗り遅れないようにしないといけないので」

そういった時、店員が人気のパンケーキと紅茶を運んできた。

すぐさま私はバックから紙とペンを出して、さっとパンケーキの絵と感想を描いた。

さすがに人気のパンケーキである。絵になる。

描き終わり、早速食べ始めた。


(美味しい)


生地の外側がカリッとして中はフワフワ、甘さは控えめでバターの風味が香る。

添えてあるクリームと2種類のソースは、甘酸っぱくてクリームと合う。

思わずひとり笑みがでる。


それを横で金髪の男が呆れ顔で見ていった。

「はっ。パンケーキをひとりで食べるより、相手がいた方がいいだろうに」

私はもくもくとパンケーキを食べ、その金髪の男の言葉を聞き流した。

彼らはパンケーキではなく、コーヒーを頼んでいた。

コーヒーだけならこの店でなくてもいいだろうに。


(生憎だ。折角美味しいパンケーキを食べていたのに)


すると茶色い髪の男が申し訳なさそうにいった。

「すみません、気を悪くしないでください。この店はパンケーキも有名ですが、本当はコーヒーが有名なのです」

しばらくすると彼らにコーヒーを店員が運んできた。

私は気がつかなかったが、店内にいた女性たちが、彼らをちらちらと見ていた。

こうして見ると二人とも絵になる美丈夫だった。とくに金髪の男の方は、癖のある長めの髪がキラキラと光り、その端正な顔立ちが更に増す。

飲む所作も綺麗で、女性たちが見惚れていた。

コーヒーのいい匂いがした。確かに美味しそうな匂いだ。


(フレーバーコーヒー?)


へー。そうなの、機会があれば是非今度。

食べ終わり、私は再度マップと帽子のお礼をするため、彼らに向かって言った。

「マップと帽子ありがとうございます。

 もう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私はお返しとばかりに、ニッコリ笑って毒を吐いた。


(よし!)


馬車に乗るため広場に向かい歩く。乗る馬車は辻馬車ではなく、迎えにきた伯爵家の馬車だ。

荷物はすでに御者が載せてくれていた。

ドアが開きメイドが出てきた。

「お嬢様、お疲れ様でした。お迎えに参りました」

そう言い私を出迎えてくれた。

彼女は私のメイドのマリー。私の良き理解者である。歳は私より5歳年上だ。

そろそろ結婚をしてほしいが、彼女は私から離れることはないと一点張りだ。だから彼女の好きにしておく。

「ええ、ありがとうマリー。ではお父様たちが待っているから、早々に出立しましょう。

 お継母様からも早急な仕事の依頼もあるし」

そして私たちを乗せて馬車が走り出した。




コーヒーを優雅に飲む金髪の男に、茶色の髪の男が話しかけた。

「ジーク様、珍しいですね。あなたが女性に話しかけるなど」

すると金髪の男が笑っていった。

「あぁ、俺もどうかと思うよ。それに可笑しな令嬢だったな。

 それにしても、見事な銀の髪だ。あれではたしかに目立つな。アイスブルーグレーの瞳は印象的だった。

ただ彼女は普通の令嬢ではないな」

「なぜ、令嬢とわかるのですか」

茶色い髪の男には、町娘の服を着ているし、その辺にいるような女性にしか見えなかった。まあ、銀の髪はあまり見たことがなかったが、探せば銀の髪の人もいる。

金髪の男が、飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた。

「随分高度な教育を学んでいる。あのメモを見たか。速記だ。それに彼女の万年筆、紋章入りだ。

あれは確か()()()の貴族だ」

「相変わらず抜け目ないですね」

金髪の男は面白い玩具でも見つけたように笑った。

「さあ、()()()()そろそろ戻るか」

席を立ち歩き始めた時、どこからともなく数人の護衛姿の人影が現れた。


素早く護衛が男二人を囲み、停まっている馬車まで誘導した。

金髪の男は、隣国ルナ王国のジークフリード・クラウス・ルナ王太子。

茶色の髪の男は、彼の側近、護衛でもあるアルフレッド・ライド公爵であった。

彼らはこのシャロン王国の王太子に招かれ、昨晩の慶事に出席するためこの国に滞在していた。


この国はコーヒーが有名で、ジークフリード王太子は大のコーヒー好きだった。この店も昨晩勧められてきたのだ。


そして彼は大の女嫌いでも有名だった。その彼も王太子としての責務である王太子妃を決めなければならなく、

優雅にコーヒーを飲んでいても心が晴れなかった。

しかし、珍しいこともあった。なぜなら女性(彼女)に自ら話しかけたから。


()()()()()()()()


「俺より君の方が早く見つけて結婚した方がいいと思うが」

「私より、あなたの結婚が決まれば、私はすぐにでも結婚できますけど」

彼らは王立学院時代からの親友で、馬車の中では言いたい放題だった。







初めまして方、またこんにちはの方、沢山ある中読んでいただきありがとうございます。

2作目の投稿です。

今回は女性が主役です。


楽しんでいただければ幸いです。

また初めて投稿した作品も、興味があれば是非読んで見て下さい。

よろしくお願いします。

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