雨宿りからはじめて 6
「しゅじゅつう!」
「‼ おおおお⁉」
ちょ……痛い! ドクターチクバさん矢を引っこ抜いたけど! そのまま、ずぶりと!
「お、おい待って―」
「しゅじゅつツー‼」
「あぎあああああ⁉」
うそお⁉ に、二本目も抜いたあ! 痛い、すっごく痛い! ああ、なのに3本目に手を―
「やめっ」
「ちゆううううう!」
「ぎゃあああああ⁉」
初めてこんな悲鳴あげた。ぎゃあだよ、ぎゃあ。漫画とかアニメでしか聞かないような叫びだよ。おまけに痛いのに、失神はできない。直感でわかる、どうしてって? 邪神のこの誕生日とクリスマスとお正月が一度に来たみたいな顔を見てよ!
「消毒&抗生物質投与!」
「ま、待って! 何それ⁉」
煮立った巨大な鍋をチクバさんが持ち上げてた。プリアたちも止め……いや、治療中なんだ、一応。
「感染症と化膿を阻止!」
「ま、麻酔! 麻酔ないの⁉ 痛くないように!」
「ない!」
「う、嘘つけ! そんな手術ないでしょ!」
「チクバさんにはある! 大体麻酔したら痛くなくて詰まらないでしょ! 痛いから生を実感できるうううう!」
「ああああ~‼」
鍋をぶちまけられた。
すり傷をそのままにして、熱いお風呂に入った感じ。それが全身に一度に襲い掛かった。っていうか、矢の傷はわかるんだけどどうして全身に痛み⁉
くそ、リロめ爆笑して……ダメだ、痛くて痛くて……でも意識はしっかりしてて……。
「!!!!!」
転げ回った。痛くて痛くて。痛みが治まったのか、それとも体力が限界だったのか、それが止まる頃にはもう立ってられないくらいで、ムーラさんの指示でもたもたしながら皆は森から離れてテントを張って、ぎちぎちのままその夜を過ごした。
「毒が塗ってあったが、『健康第一』のおかげで命に別状はないっ! 矢も急所じゃないからつまらない! チクバさんの腕をもっと見せたいのに!」
「人物列伝、今日はエイメだよお。祖父の代からの宿屋を受け継いだエイメの母は、ある日宿泊客と恋に落ちるの。ところがその男は懐妊を知るとお祝いを買いに行くと行ってそのまま失踪、エイメは父がわからない子として母の父母、つまり祖父母に疎まれて世に生を受けたのお」
「や、やめろお」
「我慢してくれ、私だってきついんだ」
「お、俺も」
「きみたちじゃなくてリロの……」
「母も夫の面影の残るエイメを好きになれなくてえ、孤独な少年時代を過ごすのお。必然的に外に関係を求めるわけだけどお、そこでイスト会の下っ端と繋がるのよねえ」
「どうしてゆーくんには、女神たちがついてるんだろうね~?」
「私にもわからないのよ、会った時からもういたの」
「そこからあ、ずぶずぶイスト会に浸っていくわけえ。ガスドンの下の下の下くらいになってえ、でも一員とは認められないのお。腕っぷしも頭もなくてえ、少し口がうまいだけだからあ。宿にもお客を呼び込んだりしてたんだけどお、やっぱり関係は良くないのお。祖父が死んじゃうって時もお、彼の望みで呼ばれなかったあ」
「やめろお……」
エイメさんの過去を語るなあ……痛みと疲れと心の重さでおかしくなるう……。あ、毒に対するスキルは役に立ってたみたいだね。
しかし、あのエルフたちはどうして攻撃してきたんだろう? 毒矢まで使うんだから殺す気だよね。
「それを知ってますますエイメは意地になっていくんだけどお、やっぱり母からは離れられないのお、イスト会にも入れないで孤独感に圧し潰されそうになったときに、耳にしたのがウェス家との抗争の噂。さらにい、ゆーたちが目の前にい―」
だめだ、考えがまとまらないし、ドクターチクバさんの講義、プリアたちの世間話&圧迫、リロの人物列伝が流れ込んできて……。
一睡もできないままに朝が来て、チクバさんは消えてお金は半分、動けはするけど鈍い痛みとべたべたの身体、重い心が残った。




