黒き王の憂鬱 30
ムーラさんの鞭が、突っ込んでいくおれたちよりも先に赤幽霊を直撃した。さすがに弓とか銃には届かないけど、リーチの長さは有利だよね。おれも剣じゃなくて、そっち系に武器を替えてみるかな?
いや、でもそれにしたって訓練の時間が必要になる。剣を持ってても、基本的な技しか使えないのはまだ体が馴染んでなくていいかもしれないけど……ともかく、今考えてもしかたない。
鞭で幽霊も少しは怯むはず、そこにすかさず……。
「!」
当たらない⁉ 幽霊はまるで気にしないで突っ込んできてる。回避したっていうの? いや、違う。すり抜けてるんだ。空気でも打ってるみたいに……幽霊なら、あり得るかな。
「物理無効タイプだねえ」
リロめ、知ってたな……。
格闘家チクバさんが素早く蹴りをいれたけど、やっぱりそれも効いてない。避けてるんじゃなくて、すり抜けてるんだ。
「かぎ爪ッス!」
飛びのきながらチクバさんが叫んだ。腕に傷と流れる血、そして幽霊の腕に伸びる鈍い銀色の爪……あれが武器だね。
「うわっ!」
よし、見える。剣で横に薙ぎ払ってくる一撃を防御できた。
けど、かなり腕がしびれてる。腕力半分はやっぱり痛いんだ……打ち合いをしてるとあっという間にやられちゃう。
「えいいっ!」
一応斬りつけてみるけど、やっぱりそうだ手ごたえがない。武器や格闘技じゃ効果がない。
魔法……なんか使えない、万事休す……でもないっ。
「『未来を握り合う手』!」
使える人を、呼べばいいんだ。
「おお……不吉じゃ不吉じゃ。魔法使いチクバさんは不吉を嫌う……」
顔の下半分と手先以外を真っ黒なローブで覆ったチクバさんが現れた。間違いなく、魔法使い。
「助けてチクバさん!」
「ゆーは人使いが荒い……不本意だが抗う術もなかろう……」
そしておれは援護!
幽霊が突然現れた魔法使いチクバさんに気を取られてる隙に、かぎ爪に切りかかる。手応えあった、斬ったりなんかもちろんできないけど、かぎ爪はそのまま現実にあるものなんだ。だから格闘家チクバさんを傷つけられた。
これで、素早く攻撃をするとはいかないでしょ?
「火の司に乞う、害をなす者を払いたまえ……『炎輪』」
おお、詠唱? 格好いいけど、どういう仕組み何だろう魔法って? これも調べておかないとね。
「⁉」
炎の輪っかが幽霊を拘束した。理屈はわからないけど、幽霊はそのまま倒れて苦しんでいるみたいだ。抜け出そうとあがいてるけど、それはできないみたいだ。むしろ動けば動くほど、食い込んでよけいに苦しんでいく。




