後悔日記 4
「で、でも……もう少し……」
「ならプリヤはここにいなよ」
「ど、どうしてそういうこというのよ⁉」
プリヤが強く地面を踏みつけると、その勢いに近くの木が揺れて動物とか虫が飛び出していった。おれとレベルは同じなのに、力は絶対にプリヤの方が強い。総合的な強さかな? その分俺は頭脳系が高いみたいだね。
「だって……おれは行きたいし」
「パートナーでしょ⁉」
直前と言ってることが違うじゃないかっ。自衛官なのはまだしも、エリートって言うのは絶対に嘘でしょ。
「じゃあ一緒に来る?」
「だから、もう少しレベルを―」
「失礼するで候」
おれとプリヤの間にチクバさんが降ってきた。目元以外は茶色っぽい布服を巻き付けてて、黒くないけど忍者としか言いようのない恰好だった。けどミニスカに網タイツなのはなんで? やだな、おれがエッチなやつみたいじゃないか。
「森を抜ける道を見つけたり、目印に赤布を巻いてある故」
「ありがとチクバさん」
「それではまた後程」
干し肉を半分取って、しのびチクバさんはドロンと姿を消した。
これさえなければとは思うけど、何の代償もない力はズル過ぎるよね。
「い、いくの?」
プリヤはまだごねてる。放っておこうかな……でも、急にバイバイっていうのもひどいよね。
「じゃあ、おれがちょっと見てくるよ。安全ならいいでしょ?」
「ぜ、絶対に逃げちゃだめ! 逃げたら殺すわよ!」
「……わかった」
子供かな? いや、おれだってガキだけどさ。大人って、もっとこうしっかりしてないかな? 先生とかお父さんもお母さんも、大きくてなんでもできて……。うーん。
「わ、わかればいいのよ……パートナーなんだから」
「……じゃあ、行こうか」
モンスターや自然の音で森の中は騒がしいはずなのに、どうしてかおれとプリヤの足跡と息遣いがすごく大きく聞こえる。気まずい。
「こっち」
「見ればわかるわよ」
しのびチクバさんが巻いてくれた赤布を頼りにおれたちは進んだ。うん、レベルがあがってこんな道もない道でもある気安くなってる。
けどやっぱり、道路とか校庭ってすごかったんだなあ。人も乗り物もなんでも簡単に進めるもん。……道路くらいは街にあるよね?
「仲間割れも面白いよねえ」
「面白くないよっ」
「女神が面白いなら面白いもんねえ」
リロめ、こうやって最前列で楽しんでるんだな。他のプレイヤーにもくっついてるんだろう、無敵みたいでおれがどうやっても傷一つつけられない。
「絶対に帰るからね」
「やってみなよお」
「うるさいわよ。ほら、もう少しみたいだけど?」
明るくなってきた。木が細くて小さなまだ若いのになってきて、太陽を遮る枝が少なくなってるんだ。隙間から見える範囲に、ようやく森がなくなって平らな土地が広がってるのがわかった。
「街なんかないじゃない」
「せっかちだね。これをそれから探すんで―」
どん、となってから跳んだ。
足元に青空があって、それがぐんってとおくなっていく。ひっぱられてるんだぷりやも一緒にーおにとりろ―
「はうああ!」
学校。屋台。行きかうプレイヤー。おれは本拠地に戻ってたんだ。
「だからいったのよ……」
隣にはプリヤとリロがいる……え? なに? どうしたの? どういうことなの?
「死んだのお」
そんなはずないと言いかけておれはそれを飲み込んだ。そうじゃないなら、ここに来るはずないもんね。問題は、どうしてってところだ。