強欲と強欲 29
「ゆ―」
プリアの口を強引にだけど手で抑える。ただでさえ目立つんだから、声を出さないでよ。今言ったばっかりなのに……もう。
「何か音がしなかったか?」
! ま、まずい。
「気のせいだろ、もう行こうぜ」
「わかった、じゃあその音が何かだけ判別してから戻ろう。服汚しを忘れるな」
まだ、まだ見つかったわけじゃない……ああっ、だめ、まっすぐこっちに来てるよお。
「おい、あれ……」
「なんだ?」
プリアが気づかれた? も、もう……やるしかない。
「プリア、聞いてね。戦うからね、思い切りやっていいからね」
小さく早口で言うと、プリアは頷いてくれた。一人も逃がせない、報告されて増援がくるだろうから。でも全員倒せても、結局何かあったってもっといっぱいの人がやってくるだろうね……。
あれ? 追手が来てる時点でダメかな?
「うひひひ」
リロがそれを察したのか笑っててすごく腹が立つね。見ててよ、その笑顔を叩き潰しちゃうからね。
「なにか―」
「とああああ!」
飛び出したプリアのラリアットを受けて、先頭に立っていた男が吹き飛んで木に叩きつけられた。
「なあああ!」
叫びながらプリアは男たちをはじき飛ばしていった。やっぱり体格って大事だよね、体当たりするだけで簡単にやっつけられるんだから。
「しゃあ!」
「うぉ⁉」
あ、危なっ! 倒れてた男が急に剣を振るってきたよ。いや、それはそうなんだけど、もうやられたと思ったからびっくりした。
顎が血だらけなのに、すごい気迫。やっぱり戦争が普通にあったり殺伐としたとこで生きてると、全然違うんだね……。
「『未来を握り合う手』!」
文字通りお金も持ち物もないけど、そんなこと言ってられないよね。剣はあるけど、レベルは1だし……何よりやっぱり人殺しは怖いよ。
「おいッス」
男の頭に膝がめり込んだ。上から降ってきたチクバさんが、そのまま踏み潰した形になったんだ。ちょんまげの格闘家チクバさん、しかしすっごい太ももしてるよね……うん、すごい。
「相変わらずピンチッスね」
突っ込んできた別の男を裏拳だけで倒しながら。チクバさんは呆れたようにつぶやいた。ほんとに手で軽くパンって叩いただけなのに、男の顔が鼻を中心に窪んで潰れてる……。
それからは多分2分もかからなかった。プリアが倒しちゃってたのを、チクバさんが止めをさす形になって全滅させちゃった。
間違いなく、死んでる。殺人を目の当たりにして、気持ち悪くはなったけど吐いたり震えるほどじゃない。
人殺しができないって思ってるのは、そう思ってるだけ? だとすると……おれもいずれはそうなる? このままじゃ良くないけど……でも……。
「何もないッスね」
チクバさんに肩に手を置かれておれは我に返った。そうだ、お礼できるようなものはなにもないんだった。
「ご、ごめん。でも、そうしないと……」
「じゃ、筋力もらうっす」
それが何を言ってるか、すぐにわかっちゃった。




