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後悔日記 2

 さて、今問題なのはトビウサギをどっちが手に入れるかと、プリヤにも女神たちの気まぐれ(ソルタ・レーオ)があるってこと。


「いい度胸ね! 来なさい『黒ノ鉄巨兵(ノアシャトゥ)』‼」


 地響きがしてから、プリアの足元の地面が盛り上がっていく。土と石が固まり合って大きな人の形になり、ちょうど頭の部分にプリヤが偉そうに仁王立ちしておれを見下ろしてきた。


 自分自身を頭部にして、周りのものを巨人に作り上げて操る力だ。というか、彼女の生態とあんまり変わらないから女神たちの気まぐれ(ソルタ・レーオ)って感じがしないな。


 とはいえ、5メートルはある巨人に襲われるのは怖い。大きな車が突っ込んできてるみたいっていえばわかるかな。手のところに体中に散らばってた石が集まっていって、文字通りに石のげんこつを作り出してる。あんなのに殴られたら潰れちゃうよ。


 その割には冷静に解説してるって? うん、まあ、対応策はもうやってあるしね。


「あれ⁉」


 プリヤの頭が引っこ抜かれた。うん、すごく怖い。鎧の体に伸びてた血管が切れて血が噴き出てるし、まんま生首だもん。


「油断大敵……」


「そ、そんなあ、ズルいい」


 もぎ取られたプリヤの首が放り投げられると、彼女の身体と『黒ノ鉄巨兵(ノアシャトゥ)』にひびが走ってぼろぼろに崩壊していった。どちらも()を失って立っていられなくなったんだろう。


「ゆるさない~……」


 そのままプリヤの生首は光りながら消えちゃった。といっても、死んじゃったわけじゃない。


 崩れていく巨兵から飛びあがって、プリヤの首をもいだ当人がおれの前に着地した。ほとんど音も立てない、まるで猫みたいなしなやかさだね。


 凛々しい眉毛ときつい目つきを持ってる女の子だ。鼻にはばんそうこうが貼ってある。髪はちょんまげみたいにまとめてて、背格好も歳も、おれと大体同じくらい。


空手、いや柔道かな? 白い胴衣を着て、お腹の辺りに巻き付けた3枚の黒帯で抑え込んでる。そのせいで胸がくっきり浮き出て……っは、良くない良くない。エッチでよくない。


「押忍、プリヤを倒したッス」


「あ、ありがとう、チクバさん」


 これが、おれの『未来を握り合う手』の力だ。発動すると、その時に最も必要な技術や力を持っている助っ人、チクバさんを召還してくれる。


 このチクバさんっていうのは、いわゆる召喚獣になるらしい。おれたちプレイヤーと立場的には似てるかな、ある目的のために誰かに呼び出されて、やるべきことをしないと戻れない。


 ……なんでおれの女神たちの気まぐれ(ソルタ・レーオ)は、こんな皮肉っぽいのなんだろ?


 とにかく、名前と女の人であるのは皆一緒だけど、出て来るときは姿も歳もバラバラだ。今回のチクバさんは戦い専門って感じかな。


 一見するとすごそうに見えるでしょ? でも、やっぱりこういうのにはそれなりの代償があるもので。


「対価にトビウサギ、半分もらうッス」


「あ、そんなあ。せっかく捕まえたのにい」


「せいやっ。それじゃまたねッス」


 おれから、呼び出した対価を必ず取って行っちゃうんだ。ああ、折角つかまえたトビウサギが半分にされちゃった。手刀で切っちゃうんだものなあ……うわ、血とか内臓がめちゃくちゃ出て……グロい!


 おまけに、どうやらチクバさんは目の前の問題にしか対処してくれないみたいなんだ。最初、手っ取り早くゲームをクリアさせてくださいって呼んでみたけど、出て来た先生みたいな彼女に説教されただけで終わっちゃって、持ってた木の実をまきあげられちゃった。曖昧な願いだとダメ、今回みたいに具体的な内容じゃないと強いチクバさんは来てくれない。


「はあ……」


 そしておれは、すぐにまた『未来を握り合う手』を使わなきゃいけなくなる。半分こにされてちょっと正視できないトビウサギを、調理してもらうためだ。


「料理は愛情! 調理は人情! 経営は非常! 稀代の料理人チクバさんだよ!」


 現れたチクバさんはコックの姿だった。大学生くらいのお姉さんで、ほっぺがすごく赤い。コック帽からいかにも染めましたって色の茶髪がはみ出てて、なんだか調理実習してるみたい。


 それよりも―


「きったねえ⁉」


 きたない。服にも帽子にも油汚れからソースからなんか赤いのから……色々ついてる! コックって清潔じゃないとだめでしょ? 口に入るものを料理するんだし。 


「失礼だね、お店は汚いほどおいしいって説を知らないの?」


「いや、お店じゃないでしょ……それよりも、このトビウサギをお願いしますよ」


 お腹ぺこぺこだよ、そのせいでプリヤと戦ったんだから。


「おまかせ! よーし、腕によりをかけるよ!」

 

 そう言ってコックのチクバさんはトビウサギを捌きだした。毛皮をむしり、内臓をかきだして血を抜いて、どろっとした糞をしごきだし……うえ、実況はやめておこう。


「へい、お待ち」


 出来上がったのはシンプルな塩焼き、それも半分にされたトビウサギをさらに半分にした残り。元の4分の1だけだ。


「じゃ、これはチクバさんがもらっていくよ! またね」


 勿体ないけど、おれ一人だと料理できないんだよなあ。だって火を起こすのも大変なんだよ? 何の調味料もないし、ああ、うちの台所が懐かしい。火を起こすのもご飯を食べるのも楽だった……帰りたいよお。


 おれは寂しくトビウサギを食べる。おいしい、腹ペコだったしね。でも……油っ気が全然ない。スーパーで買える肉ってすごいんだなあ、あんな値段ですっごくおいしいもん。


 はあ、帰りたい。全部が懐かしいよ。布団で寝たい、カップ麺も食べたい、学校もいきたいし勉強もしたい。異世界統一なんてしたくないよお。

 

 全部もとに戻してくれよお。


「まーだ、森から出られないわけえ?」


「うるさいよ、リロ」


 小さな女の子だ。おれよりも頭一つぶんは小さくて、小学校に入ったくらいかな。真っ赤な髪は膝くらいまであって、青とオレンジ色で左右に違うたれ目が目立つ。ふわりとした青色の服を着てて、半月と指と指が触れ合ってる絵が描かれた髪留めをつけてる。


 なんか気だるい雰囲気もあるね。


 この子が神様、つまりおれやプリヤをこんな目にあわせてる元凶なんだ。


 夏期講習に行こうとしてたおれを、元の世界からこの森へゲームのプレイヤーとして勝手に呼び込んだ。女神たちを名乗って、最初にこの世界の仕組みとかぜーんぶ教えてくれた。


 さっき俺が説明したのも、リロのをそのまま復唱したんだよ。


「女神たちって呼びなさいよねえ」


「絶対呼ばない、呼んであげない」


 リロっていうのはおれが勝手につけた名前。だって、神様ってこの子を呼びたくない。邪神だよ邪神、神様でも。



「それより、おれを元の世界に帰してよ」


「だめ、クリアして願いを叶えてなら聞いてあげる」


 何かしてくるわけでもなく、質問すれば答えてくれるけど、ただじっとおれたちの動きを見てるだけ。


「なにが楽しいのさ? 見なよもう何日も森の中だよ? おれはただの中学生なのに」


「それがいいんじゃなあい」


 リロはおれを指さして、頭から足元までなぞるように動かした。


「そういうのは、もうやってつまんないの。すごい奴らじゃなくて、フツーのやつらのゲームを見る方が今は面白いの」


「……フツーでわるかったね」


 これが、おれがなんかすごい才能があって呼ばれたとかならまだいいんだけど、平凡だったから呼ばれたっていってもなあ。全然モチベーションあがらないよ。


 それに、見てるほうはいいけど、やってる側のおれは全然面白くない。というか、これってリロが操作してるわけじゃないから、コンピュータのやるゲームを見てるだけなんだよね? そういうのって楽しい?


 わかんないなあ、ゲームは結構やってるけど、ゲームはゲームだから楽しいんだよなあ。辛いし痛い体験ゲームなんてやりたく……


「う?」


「あ?」


 な、なんだ? お腹がおかしく……。


「あ、あううう……」


「食あたり? あはは、なっさけなあい」


「う、ううう……」


 い、痛い。立てない……な、なんでこんな。


「料理した……のに」


「過熱が不十分だったんでしょお。友はまだまだレベルが低いからあ、女神たちの気まぐれ(ソルタ・レーオ)も弱いのお」


「でも、こんな急に……お腹痛く……」


「そういう世界なのお、程よいリアルなのお。あ、汚いのは好きじゃないからあ、安心してえ」


「ふ、ふざけないでよ……」


だ、だめだ……、目がかすんできた……。薬なんてあるわけないし……とほほ……今度は食あたり(・・・・・・)で終わり……なのかあ。


「ふーん、やっぱり何かの間違い?」


 何言ってるんだよ……ああ、もうだめ……お母さん、お腹痛いよお……。


 次の瞬間、おれは学校ぽい建物の校庭に、屋台が並んでる妙な場に座ってた。たこやき、金魚すくい……かき氷……学園祭かな? そういえば、今年はまだ食ってないなかき氷。こういうのはお祭りで食べるからおいしいし楽しいんだよね。フツーに買ったのとは一味違うっていうか。


よし、今年はお父さんにおれと友達だけでお祭りに行っていいか聞こう。おれだってそろそろ……


 じゃない! ここは異世界で、しかもおれは食あたりで死んじゃったんだ。危ない危ない。


 なんか、ここに連れ込まれたときに改造されたような気がする。死んじゃったのにショックが小さいし、もっと泣いたり暴れたり冷静でいられないはずだもの。


そういうのもあって、この異世界は嫌なんだよなあ。おれがおれ(・・・・・)のままだって断言できない。本当に俺は地球の日本で今まで生きてきた寧場友なの?


だめだ、考えれば考えるほど、それなりに(・・・・・)怖くなってきちゃうよ。


「大丈夫かい?」


「あ、ごめんなさい」


「いやいや、いいんだよ」


 クラゲとザリガニを合体させて、全体的にとげを生やしたようなモンスターにおれは抱き起された。すごくいい声だね。そっか、道の真ん中に座り込んでたんだ。


 ふう、ここはゲームの舞台で死んじゃった時に戻されるいわゆる本拠地なんだ。ややこしいけど、異世界の中の別の異世界なんだね。本当のスタート地点って言うほうがわかりやすいかも。


 しかし、見れば見るほど変なとこ。学校はなんか見たことない張りぼて感があるし、昇降口がなんか渦巻いてるし……あ、時計に針も時刻表示もない。まねて作ったなんか変なのって感じだ。


 今までいた森へは、あの昇降口から入っていったんだっけ。おれとプリヤはそうだけど、他のプレイヤーはまた別の地域に行ってるらしいね。森よりも楽なとこならずるいな。森には危ないものがたくさんいるし、森から抜けるのも大変だよ。


 そんなゲームの異世界に通じてる学校もどきの周りには、屋台だけじゃなくていろんな建物があった。ジムにゲーセン、本屋、プールに……ぱっと見はでかいアサリ貝にろうそくが何十本をついてるようにしか見えない。でも、おれにはそれがプールだってわかる。


「さ、次がんばろお」


「良くもやってくれたな、友」


 おれのそばにリロとプリヤがやってきた。プリヤは生首だけになったはずなのに元の姿に戻ってた。


「5回目の死~」


「ん? まって友がここにいるってことは……そっか、死んだのね! はっはっは、正義は負けないわ!」


「あ~やだやだ」


 帰りたいよお。ゲームなんかしたくないよお。でも、帰るにはゲームしないといけないんだよなあ。


 こうやって、誰かに愚痴ってるみたいに考えないととてももたないよお。もし、おれのこの呟きが聞こえてる人がいたらごめん。でも、ちょっとくらい許してね。


 おれたちは、イカっぽい帽子をかぶった青い肌の男がやってる、たこ焼き屋の屋台の席に腰をおろした。あそこに戻る前に、覚悟を決めておかないとね。お、この明太マヨネーズソースとポン酢おろしたこ焼きはすっごくうまい。屋台の人たちとかは、おれみたいに他の世界から呼び寄せてそのまま居ついたのと、リロが作り出したオリジナル(・・・・・)の人とが半々らしい。


「チーズもち入りを2パックちょうだい! ブルーハワイソーダも!」


「あいよ」


 おれたちには、『統一見識補正』っていうのがかかってるらしい。おれの目にはこうやってタコ焼きに見えてるこれだったり、日本語の文字だったり言葉だったりだけど、本当はリロが作ったものでおれには認識することも難しい。


 それを、誰の目から見ても同じに、それもそいつの出身世界のものとして頭で理解できるようにした上で、すり合わせを(・・・・・・)してる。プリヤが今受け取ったチーズもち入りたこ焼き2パックとブルーハワイソーダは、おれの目にもプリヤの目にも、今通りかかった扇風機みたいなやつにもそれ(・・)として受け入れられて、おれがもしそれについて話を出してもしっかり通じる。プリヤの元の世界にはたこ焼きはきっとないだろうに。


 要するに、言葉とか数の数え方とかを同じにしてややこしくしないようにしてるんだ。親切でやってるんじゃない、リロが見ててわかりやすくするようにだ。


 なんで? とかどうして? とか疑問に思うところは、リロがそうやったほうが面白いからそうしたで大体説明できちゃう。


 で、おれが今一番困ってるのは。とっても元の世界、今までの生活に戻りたいと思っちゃってること。


「次こそは森を抜けてやるわよ」


「その意気よお。友もしっかりねえ」


 いきなり元の世界から連れて来られて、こういうゲームだから血で血を洗って世界統一を目指してね。って言われて、はいそうですかってやれる訳ないよ。悔しいけど、おれはフツーの中学生なんだから。絶対やりたいくない、元の世界に帰してって言うよ。


 なのに、プリヤも他の人たちもそうしない。むしろ、やる気満々だ。どうも呼ばれた時に一種の洗脳を受けてるらしい。|このゲームで覇者を目指すのは当たり・・・・・・・・・・・・・・・・、だからホームシックも起こさないし、異世界に没入できる。


 けど、おれはそうなってない。すごく帰りたいしゲームしたくない。どうしてってリロに言っても、初めてのケースだからわかんないし、面白いからこのままでいいって。怒るよもう。これなら洗脳されてたほうがマシだよ。


「どうにかしないとなあ」


「いく?」


 リロと話し合っても、駄々をこねても、ここにずっといても元の世界に帰してくれない。


 戻るには、あの学校の昇降口の渦巻きからゲーム用の異世界へ行って、世界を統一して願いをかなえるしかないみたいだ。もちろん他の方法も探してるけど。


 校舎へ歩きながらおれは思った。元の世界へ戻れたら絶対にここでの記憶を消してもらう。それでも、きっともう二度とどんなゲームだってやりたくならないだろうなあ。


「女神たちを楽しませてねえ」


「やだよ」


 捨て台詞を残したつもりで渦巻きに飛びこむと、瞬時におれたちはあの森の中に立ってた。


「レベルはまた1からあ。がんばってねえ」


「よし、今度こそ森を抜けてやるんだから」


 はあ……楽しくないなあ。


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