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第60話 盗賊

 しばらくして、エルフの襲撃者が目を覚ました。


「……ぐうぅ」


「何者だ? なぜいきなり攻撃してきた?」


 僕が問い詰めるように言う。


「……」


 エルフは何も答えない。


 無言で僕を睨みつけるだけだ。


「こいつ、もしかして、アカシアじゃないか?」


 テツタンバリンが何かに恐怖するような表情で言う。


「アカシア?」


「アカシアってのは、この辺を荒らしまわってるエルフの盗賊団だよ。かなり有名だろ?」


「なるほど。僕らは王国出身なんですよ。この街に来たのもついさっきです」


 テツタンバリンは「なるほどな」などとひとりで納得した後、しばらく思案してから口を開いた。


「で、どうする? コイツ。もしかしたらデュラハンが現れたってのは嘘で、アカシアが暴れてたのかもしれないぞ」


 その線は濃厚だろうな。

 

 デュラハンは南方の奥地に出ることで有名な魔物らしい。

 こんな帝国のお膝元のような場所に現れるのは変だ。


 しかし、盗賊団か。

 それだけ有名なら懸賞金もかかっているだろうし、もしかしたら奪った財宝なんかも持っているかもしれない。


「……ご主人様。恐れながら、口を割らせればよろしいのでは?」


 僕の考えを見透かしたのか、ミリアが焦点の合わない目でそう言う。


「アカシアは手練れの盗賊団だぞ、ちょっとやそっとの尋問で口を割るとは思えねえが……」


 テツタンバリンが言った。


「いや、試してみる価値はあるな。不本意ではありますが、尋問にはいささか自信があるので」


 僕はそう言って縄で縛られたエルフを見る。


「へへ……やってみろや。言っとくが、簡単に仲間を売るようなことはしないぜ。これでも俺は誇り高きエルフの端くれだ」


 エルフの男はそんな風に嘯く。


「……なら、試してみるか。エルフの誇りってのが、どこまで耐えられるのか、見ものじゃないか? なあ? 誇り高きエルフさん?」


 僕はそう言って、近くにあった墓石を蹴り倒した。


 そうして、真夜中の墓地の闇に、男の悲鳴と電撃の音と、それからついでに少女の歓声が響いた。


 

 一時間後。


 街外れの墓地を月明かりが照らす中、正座させられた状態で墓石を膝の上に乗せられたエルフが、ミリアに水をかけられて目を覚ました。


「……う……うぁあ、も、もう、やめてくれ……い……いっそ……殺してくれ……うぅ」


 エルフの誇りは、魔王の責め苦に一時間と持たなかった。


 エルフの膝の上に乗った墓石が、纏威圧制(オーバーロウ)で重さを増して、今でも男の膝をギリギリと潰している。


「そうか。では、一度だけチャンスをやろう。今からいくつか質問をする。よく考えて答えろよ? せいぜい僕の役に立つことだ。……じゃないと、もう少し遊んじゃうぜ?」


 僕は笑顔でそう言った。


「はぁ……はぁ……ご主人様ぁ……なんて……なんて、崇高なんでしょう……はぁ、はぁ、私、もう……限界ですわ……はぁ」


 なぜかミリアは僕の拷問を見て、興奮したように隣で息を荒げている。


 エルフの男は洗いざらい全て喋った。


 エルフの男が言うに、この男も含めて人数は七人、アジトは墓地の先にある使われなくなった教会らしい。


 元々は世界樹にあるエルフの国の民だったらしいが、国で罪を犯して流れて来たらしい。


 そこで、帝都に近いこの街を縄張りにして旅の商人なんかを襲い、周囲の村々にデュラハンが現れたという噂を流して傭兵たちからの追手をかわしていたらしい。


「テツタンバリンさん、アカシアって懸賞金とかはかかってないんですか?」


 僕は拷問を間近で見て放心状態のテツタンバリンに問う。


「……あ? あ、ああ。た、確か、リーダー格の男は帝国でもかなりの悪事を行ってたから──」


 テツタンバリン曰く、相当な額の賞金らしい。


 目的のデュラハンがいないのであればこのクエストの賞金が出るかは怪しい。


 それならば、盗賊を一網打尽にした方が手っ取り早く金を稼げるだろう。


 僕はそう考えて、エルフの男に教会まで案内させた。


 テツタンバリンの仲間は墓地に残った。

 足手まといになるとテツタンバリンが判断したからだ。


 テツタンバリン自身は僕たちの後について来た。


 エルフの男は足を引きずりながらほとんど崩れかけた教会まで僕たちを導いた。


 夜王(カーミラ)でコウモリを操って内部を探る。


 人数は六人。


 金目のものは見当たらない。

 どこかに隠しているのだろうか。


「……ご主人様、すでに気付かれているかと」


 ミリアの言うように、教会内の男たちが戦闘態勢をとっているのを、僕も夜王(カーミラ)を通して確認した。

 

「エルフの魔導師がいるな」


「左様かと」


「エルフの魔導師とは戦ってみたい。雑魚は任せる」


「御意!」


「おいおいおい! アカシアは手練れの盗賊だぞ! あんたらがいくら強いって言っても──」


 テツタンバリンが慌てたように騒ぐ。


「あんたは隠れてて。最悪、この死にかけのエルフを人質にすれば時間くらいは稼げるかもな」


 テツタンバリンの戦闘力は高くない。

 エルフの戦士相手では数秒と持たないだろう。


 僕は彼にそう言って、教会に意識を向ける。


 廃墟同然の教会から、エルフの男達がゾロゾロと出てくる。


「人間をお招きした覚えはないんだがね?」


 魔導師だろう。


 長い杖を持つ男が言う。


 男の周りの外部魔力が魔法発動の挙動を見せた。


 『念し』が使えなければ感知も出来ないだろう衝撃が僕に飛ぶ。


 カーメルが使っていた見えない魔法だ。


「ミリア──」


 僕の魔塞(シタデル)に阻まれて、見えない衝撃が消える。


「──アイツは僕がやる」


 そう言いながら、僕は簒奪の魔導(アルセーヌ )でその見えない魔法を奪った。


 すぐに沈黙は銀(サイレンスシルバー)が魔法を解析して、僕に伝える。


 そして判明する。


 見えない衝撃の正体はスキルだった。


 外部魔力をそのまま運動エネルギーとして撃ち出すスキル。


 しかも詠唱を必要としない、自動発動型のスキルだ。


 絶影拳(シャドウ)


 外部魔力を掌に集めればそれは起動して、真っ直ぐに敵に向かって衝撃を伝える。


 詠唱の必要な魔導師は、その性質からなかなか不意打ちが出来ない。


 そんな弱点を補うために生み出されたようなスキル。


 僕は試しに絶影拳(シャドウ)をエルフの魔導師に放つ。


「……!」


 エルフの魔導師は身を翻してそれを避けた。


「なぜ、人間が絶影拳(シャドウ)を?」


 そんなことを呟くエルフに僕は応える。


「……なぜって。そりゃ、僕が魔王だからさ」


 打ち棄てられて、神の加護などとうに使い切ったような教会の前で、エルフと魔王の戦闘が始まった。


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