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第39話 学内選抜大会

 演武祭学内選抜大会の当日になった。


 三百人近くの学生がエントリーされている。


 Sクラスからは二十名全員が。そしてその他のクラスからも担当教諭の推薦を勝ち得た学生が選抜大会にエントリーされている。


 選抜大会はトーナメントの勝ち抜き方式だ。

 

 全部で十個の山があり、それぞれのトーナメントで優勝した十人が演武祭への切符を手にする。


 Sクラスは二十名の学生がいる。

 それぞれが成績順に振り分けられていて、一つの山には二人のSクラスがいる。


 Sクラスの学生はシード扱いで一回戦は免除されている。

 Sクラス同士で当たるとすれば、それは決勝戦だ。

 四回勝ち抜けばその山での優勝となる。


 その他のクラスはシードではないので、五回勝ち抜かなければならないし、Sクラスの学生を倒さなければならない。


 学園から十名しか選ばれないのだ。

 狭き門である。

 もはや猫の通る隙間すら開いていないくらいに。


 大会は三日間を通して行われ、その間の授業はお休みだ。

 エントリーしていない学生はお祭り騒ぎで

練兵館の客席から試合を観戦する。


 ルールはシンプル、魔法を駆使して相手に尻餅をつかせたら勝利だ。

 毎回怪我人が出るらしいが、死人が出たことはまだないと聞いた。


「シャルルー。 なんだかお祭りみたいだねえ」


「そうだな。イズリーとハティナとは別のグループで良かったよ」


「……ホリックは成績順だと言っていたけど、おそらく戦闘能力順で振り分けられている」

 

 ハティナの分析は当たっているだろう。

 アスラとは違うグループだし、当然、ミリアもそうだ。

 ある程度、強者同士が当たらないように恣意的に振り分けてはいるのだろう。


「私、早くご主人様の勇姿を拝見したいですわ。そして一緒に帝国に殴り込み、夜はご主人様に殴り込まれて……ぐふふ」

 

 ミリアが何か言っているが無視だ無視。


「シャルル殿! 我とミカも選抜大会に出場することが決まりましたぞ!」


「やっほー! あれ? ミーちゃんどしたの? ヨダレなんかたらして」


モノロイとミカが僕たちを見つけて駆けてきた。


「あらあら、私ったら。はしたないですわ」


 ミリアはヨダレをハンカチで拭っている。

 

「ボクとセスカさんは出場しないけど、一年生の三人は出場するみたいですね」


「み、みんな頑張ってね」


 キンドレーとセスカもやって来た。

 キンドレーが朝早くから席を取っていてくれたそうで、僕たちは移動を始めることにした。


 練兵館は屋内施設だが中央設けられたリングの天井は吹き抜けになっている。

 ローマのコロッセオのようだ。

 練兵館には中央のリングを囲むようにそれより一回り小さいリングがいくつも造られていて、同時進行でトーナメントは進んでいく。


 既に一回戦は始まっていて、ミカとモノロイは自分の出番を待っていた。


「私はSクラスと当たるのは準決勝と決勝だけど、モノ君はゴシューショーさま!」


 ミカが言うように、モノロイは二回戦でSクラスと当たる。


「む、いずれ倒さなければならぬのだ。ならば、早いうちに倒しておくに限ろう」


 なんだかカッコいいこと言っているが、モノロイは初戦突破も怪しいだろう。

 僕は金髪リーダーのワンパンで『うぐぅ』と言って蹲っていた彼の姿を忘れてはいない。


 それに、いつもイズリーにボコボコにされている印象しかない。


 ミカには期待しているが。


「師匠!」


「やっと見つけたですよ! メリーシアちゃん! こっちですよ!」


「引っ張らなくても見えてるわよ」


 一年生三人が遅れてやってきた。


 三人はそれぞれ手にジャラジャラと首輪のようなものを持っていた。


「皆さんの分も遮魔の首輪(イナーウォール)借りてきたっすよ!」


 学生が怪我をしないように身に付ける防御用の魔道具だ。


 ミキュロスの付けてた防魔の指輪(アウターウォール)の廉価版で魔法の効力は防ぐが衝撃は通してしまうという、この手の大会にはぴったりな魔道具だそうだ。


 キンドレーが何やら長々と語っていた。


 僕が首輪を受け取ると、どうやら一回戦が始まったようだった。


「む、そろそろ我らの出番であるな」


「私の出番はまだ先だからモノ君頑張ってね!」


 ミカは別山なので、出番はまだ先らしい。


「モノロイさん! 是非、決勝で戦うですよ!」


グエノラはモノロイと同じトーナメントの別山だそうだ。


「うむ! グエノラ嬢と戦えること、楽しみにしておるぞ!」


「ひひひ、私もそろそろ行こうかしら」


「自分はまだ先っすけど、モノロイ師匠をお見送りするっすよ!」


 イーガーはいつの間にかモノロイの弟子になっていた。


「グエはミカお姉ちゃんと一緒に行くです!」


 モノロイはメリーシアとイーガーを連れてリングに向かった。


 僕たちがしばし雑談していると、モノロイの姿が見えた。


 モノロイの相手は三年生の男子生徒らしい。

 

 「モノロイ・セードルフ、マテオ・アゼンダ、両者前へ。──始め!」


 審判役の教諭の掛け声で早速試合が始まる。


「我こそは風紀委員会、魔王の眷属(エンカウンターズ)が一人! 鉄人モノロイである! いざ、尋常に──」


 急に名乗りを上げはじめたモノロイの顔面に火魔法が炸裂した。


 うん。

 まあ、もう始まってたからね。

 不意打ちってわけではないんだろう。


 僕は、終わったかな? と思っていたが、モノロイは微動だにせずにそこに立っていた。


「責めはせぬよ。お主も勝利に貪欲なだけ。しかし、我とて負けるわけにはいかぬのだ!」


 叫んだモノロイが相手の男子学生に突進して相撲のように張り飛ばした。


「えー。肉弾戦ありなんだ」


「ええ、ご主人様の懲罰の纏雷エレクトロキューションのようなスキルや魔法もございますから。とにかく相手を転ばせれば勝ちですわ」


「……!」


「おー! モノロイくんやったねえ。早くあたしもぶっ殺したいよー!」


 ハティナは何かに気付いたように目を見張り、イズリーは心底楽しそうにはしゃぐ。


 イズリーはともかくハティナのこのリアクションは気になる。


 僕にはモノロイが力ずくで倒したように見えたけど、違うのだろうか?


「結構、強めの火魔法だったけどなんでモノロイに効いてないんだ?」


「僭越ながらご主人様、普段からモノロイはイズリーさんのお相手をしてますわ。実験台、でしたか。イズリーさんの攻撃と比べたら、あの程度の火魔法など蚊に刺される程度の威力ですわね。それにしても……」


 ミリアが教えてくれた。


 教えてくれた彼女自身、何かが引っかかっているような反応だ。


 しかしイズリーよ、君は普段どんだけ加減知らずでモノロイをシバキ倒しているんだ?


「さすがはモノロイ師匠!」


「シャル君! 第二リングにメリーちゃんが来たよ!」


「あ、相手の男の子、つ、強そうだね? メリーシアちゃん大丈夫かな?」


 セスカの言うように、メリーシアの眼前の男子生徒はかなり強そうだ。

 ガタイが良くて目付きが悪い。


「メリーシア・マリアフープ、キャンキー・トロイデス、両者前へ。──始め!」


 男子生徒が石礫(ストーン )を唱え、それがメリーシアに直撃する。


 しかし驚いたことに、メリーシアは一瞬後ろにのけぞっただけで微動だにせずにその場に立ち続ける。


「イズリー、まさか……」


 新入生のメリーシアまで実験台に?


「……シャルル、あの子の足元」


 ハティナに言われてメリーシアの足元に目をやると、なんと接着魔法で足を地面に固定している。


 あれじゃ動けないと思うんだが。


「……遮魔の首輪(イナーウォール)で魔法からは殺傷能力はほとんど消えてる。……あの魔法はこのルールに相性がバッチリ」


 なるほど、ハティナの言うように大会のルールとメリーシアの泥濘の接吻(ラヴスムーチュ)はかなり相性が良いようで相手の魔法を全て受け切っている。

逆にメリーシアが放つ接着魔法は次第に相手の動きを止めて地面に貼り付けた。


「すごい! メリーちゃんの勝ちだ!」


 ミカとセスカとイズリーが『わーい』と喜んでいる。


 帝国に行って勇者に会う。

 そしてその仲間として大陸南方を魔物の支配から解放する。

 その使命のための第一の関門。

 演武祭学内選抜大会が始まった。

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