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◇イベント? ダンス その1


「――ロゼラム国のレオナルド殿下。この女に何の用ですか?」


 はっと息を呑んで、手を掴んだ人物を見上げると、先ほどまで遠くの輪の中にいたはずのカイだった。彼は精悍な顔を険しくして、刺さるように鋭い視線を投げかけている。


「彼女との運命を感じていた最中だよ。邪魔をしないでもらいたいな」


 対するダークブロンドの青年は、私のもう片方の手を掴んだままだ。手袋越しに伝わってくる力が強い。意地でも離そうとしない強い意志が伝わってくる。


 ロゼラム国……ということは、彼はあの腹黒国家ロゼラムの関係者なのだろうか。まずい人と踊ってしまったと悟ると、途端に身体中の血が凍てつくような悪寒に襲われた。


「……運命というのはよくわかりませんが、残念ながらこの女には、貴国と縁組みさせていただくような地位はありませんよ?」


 カイもぐい、と私の手を引っ張る。このままだと真っ二つに分かれてしまいそうだ。私を使って国の争いごとをするのはやめてもらいたい。どちらに視線を向けるべきか、と宙にさまよわせていると、レオナルドは涼しい顔のまま、まじまじと私の顔を穴のあくほど見つめていた。心なしかその翡翠の瞳が、ネズミを見付けた猫のようにらんらんと光っている。


「ふーん。なるほどね。……それを抜きにしても、この娘は貴国にとってそれほどの価値がある――ということでいいのかな?」


 話が、見えない。私も何か言おうと頭をフル回転させるが、見えない火花を散らしているこの二人のどちらかに引火してしまったら、取り返しのつかないことになりそうだと思い当たり、何も言えずに押し黙ってしまった。


「ふん、まさか。それよりもう曲が終わりましたけれど、まだ彼女に言いたいことでも?」


 レオナルドはやれやれといった様子でこれ見よがしに嘆息すると、名残惜しそうにゆっくりと私の手を離した。


「残念だなあ。戦争にでもなっていれば、人質としてもらっていけるんだけれど」


 戦争、と聞くやいなや、カイの眉がピクリと動いた。そこから動かないのを見ると、彼の赤いポケットチーフや燕尾服のスラックスには武器は仕込まれていなかったようだ。あるいは、公の場なのでさすがに自重しているのか。短気なカイがこの場で剣を抜かなかっただけ、褒めてあげたい。


「もう一度ダンスを申し込みたいところだけれど、同じ相手と続けて踊るのはマナー違反だろうからね。またね、ローネちゃん。あ、あとカイ殿下も」


 レオナルドは片目を閉じてウインクすると、颯爽と人混みを抜けてホールから去って行ってしまった。私たちが呆然とそのまま立ち尽くしていると、いつのまにかまた曲が始まっている。このまま踊る人々を避けながら出ていくのは、悪目立ちしてしまうだろう。どうしよう、とおそるおそる目配せすると、カイは心底嫌そうに手を差し出した。


「仕方ねえ。……踊るぞ」

「えっ?!」


 抗議をする暇もなく、彼にエスコートされてダンスが始まる。カイの動きは剣を握っていた時とは打って変わってぎこちない。もしかすると私と同レベルなのかもしれない。ぎくしゃくとステップを踏んでいる様子がおかしくて、でもそんなことを言ったらこの場で切り殺されそうなので、とりあえずまた窮地を救われた礼を言っておく。


「あの……助けていただいてありがとうございました」

「助けたわけじゃねえよ。あの男、お前は知るはずもないだろうが……ロゼラム国第三王子の、レオナルドだ。上っ面はロゼラムとも国交があるから招待したんだろうが……戦争だ? あの野郎、今すぐ切り刻んでやりてえ」


 物騒な言葉が飛び出してきたので、私はびくりと身を縮めた。


「カ、カイ殿下……落ち着いてください。誰かに聞かれたら……」

「黙れ。これが落ち着いていられるか! ……お前、もうあの男には近づくな。あいつは腹の中で何を企んでいるのかわからねえ。お前のせいでまた厄介ごとを引き起こされたら面倒だ」

「……は、はい」


 カイの足を踏まないように細心の注意を払いながら、私もレオナルドのことを思い返していた。どこかで見たことがある、というのは……攻略対象、と言うことだろうか? もしかすると、あの戦争が起こって、一定の条件が揃ったら彼のルートになる、とか……? その糸を手繰るようなわずかな可能性から察するに、隠しキャラ辺りだろうか。


 私が考えあぐねていると、カイは唐突に琥珀色の鋭い目を私に向けてきた。


「だからと言って兄上にも近づくんじゃねえぞ。」

「わ、わかってますって!!」


 実際は近づいてやろうと不埒なことを考えているのだが、ここはごまかしておく。


 ワルツがやむと同時に、私たちの不格好なダンスもたちどころに終わった。何やら好奇の視線を向けられているが、構っている余裕はない。カイは音楽が止まると共に、乱暴に私の手を離した。相変わらず威圧感があるのに、どうしてだろう。以前ほど恐ろしいとは思わなくなっていた。口では否定されるものの、助けてもらったと思うからだろうか。


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