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壊し屋とメイド少年(5)

やっとこさ“メイド少年“編完結!!カイの運命やいかに!?




誰かが呼んでいる気がした



まどろむ意識の中



誰かが俺を呼んでいた



それはこの静寂な闇の中に浮かび上がる灯のようで


俺は確信したんだ





――俺がここに生まれ落ちたその日から……

俺の運命は決まっていたのだと






 死体が埋め尽くすこの場に、新たなる闇が巻き起こった。

うなだれるように立ち尽くすカイの体から、沸き上がる黒々しいオーラ……いや、闇。闇の風が辺り一面を覆い尽くしている。それは言葉には現せないほどに悍ましく、恐ろしいほど冷たい。全てを飲み込んでしまいそうな闇がそこにはあった。


……何だ、これは




 ルイは恐怖した。

 そして、体全体に圧力を掛けられたような、そんな感触がルイを襲った。

頭の先から足の先まで、この上ない悪寒が襲ってくる。まるで何かに狙われている、今から殺される……。とにかくこれは恐怖、恐怖、恐怖でしかなかった。

何故この僕が他人に恐怖を感じている?今まで人間なんか、ましてや獣族なんか赤子の首を絞めるくらいの余裕で散々……あの表情カオを恐怖に染めた者達をずっと殺して来た。それが僕にとって至福だったじゃないか。なのに何故、今ここで、僕の体はこれ程にまで震えているんだ。


わからない。わからない。あの生き物はなんだ?


ルイは困惑していた。





 ルイが混乱している最中、カイは動いた。

その闇を体にまとわらせながら尋常でない動きでこちらへ向かってくる。ルイはやっと我に還り、目の前に迫りくる“化け物“に気づいた。

 黒い光を帯ながら、カイはフェイントをかけてルイに突進した。ルイはモップで受けたが、あまりの衝撃でカイを弾いたものの、自分も後ろへ転倒してしまった。だがすぐに立ち上がって体勢を整えた。もはやルイに気を抜く余裕はない。

“死“、その恐怖が、震えていたルイの体を動かした。


 辺りを伺って目に止めた先は、路地を囲むコンクリートの壁づたいだった。カイはまるで獣のようにそこに張り付いて、闇の中で悍ましく光る白い瞳だけが怪しく光り輝いている。ルイは一瞬その殺気に抑えていた恐怖が蘇りかけた。――が、すぐにモップを構えてカイを睨んで見せた。カイは邪光が浮かぶ瞳でルイを目に止めると、待つ間もなく壁を蹴ってルイへ直進した。


――速い



 が、怯みはしない。今度は突き飛ばされないように、カイの突進を華奢な足に力を込めて受け止めた。だが衝撃は重い。カイのツルハシを持つ手には闇のオーラが纏い、恐ろしい殺気と気迫でこちらが押し潰されそうになる。しかしこちらも真祖の吸血鬼。力ならたかが猫ごときに負ける訳がない。


――とまではいかなかった。カイは、今は“カイ“ではない。さっきまでの戦いではありえないスピードと気配、そしてこの華奢な体からは想像できないほどのパワーが込められている。 ふとカイと鍔ぜり合う中で、ルイはカイと目が合った。


なんて冷たい目だ……。


 カイの顔はまるで無表情だった。目だけは丸く光り輝いているが、どこを見ているのか分からない。何かに操られているような、魂の抜けた白く光る瞳は驚くほど冷たくて、ガラスのようだった……。


 瞬間、鍔ぜり合っていた二人のウチ、カイが不意に力を緩めた。前に力を込めていたルイは当然のうちカイに向かって前のめりに倒れてくる。


「あっ……!」



 それが仇となった。カイはその黒い帯を纏った腕を大きく振ると、倒れて来たルイを勢いよく突き飛ばした。かなりの力で吹き飛ばされたルイは、死体達を跳ね退けながら奥の壁に激突した。


「げほっ……けほっ」



 ルイは今の衝撃を受けて痛みに顔を歪めながらずるずると壁に背をついた。

――が、ルイは急にまた何かによって体を壁にたたき付けられた。目の前には忘れるはずもない、悍ましい殺気をそのまま漂わせたあの少年が大きく立ち憚っていた。手にはしっかりとツルハシが握られて、目は殺すべき相手を睨んでいる。……そしてゆっくりとそれを降り上げた。


 ルイは、何をされるか分かっていた。


「……え、ちょ……ちょっと待ってよ。ねぇ」


分かっているからこそ、目の前にいる者のことが信じられないのだ。

カイはもはやルイの言葉など聞いていない。人形のように無表情で、ただ闇に浮かぶその白い瞳は、殺すべき相手を見つめていた。


そして、

ルイは気づいた。今この状況で。

目の前にいる“化け物“を目前として。




 ああ、僕は、

僕が今まで殺して来た人達は、こんなことを思って死んでいったんだろうな……。でなければ……どうして、この誰もいない路地の真ん中で、誰もいない孤独と恐怖に曝されながら、深い闇の中を生きてきたんだ。今まで僕が殺してきた者達は、皆希望も夢もなにもかも、捨てる覚悟があったんじゃないのか。

でなければこんな……。



こんな最後は、あんまりじゃないか……。



 気が付いたら、僕は目から絶えず涙を流していた。それは後悔の涙か。

だがあまりにも遅すぎた。かすれる視線の先には、ぼんやりとカイがツルハシを振りかぶる姿が見える。その瞳に躊躇などはない。




やだよ……怖い、死にたくない。

嫌だ……



「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!」










――ヤメロ……


 瞬間、

ドクンと、

何かがカイの中で脈打った。


「うっ……」


 カイは一瞬、ツルハシを振り下ろす寸前でその顔を歪めた。



コロシ…タク…ナ…イ…



ざくっ




……何かを突き刺す音が響いた。鈍くて静かなその空間に響き、再び静寂を作り出した。

はらはらと地面に赤く長い髪の毛の束が数本、切れ落ちた。

ツルハシの先端は、ルイの喉隣りすれすれに髪を貫通して壁に突き刺さっている。


 ルイのこめかみに汗がにじみ、輪郭をなぞって地面に滴り落ちた。今さら、またあの恐怖が蘇って……いや、今は自分の身がなんともないことが信じられないようだ。


「はぁっ!……はぁ…」


 それよりも、今苦しそうなのはカイの方だ。壁に突き刺したツルハシを必死に掴みながら、何かに苦しんでいるようだ。





 瞬間、

俺の思考はそこで途絶えた。

また漆黒の闇がその場に広がって……

気づいたら俺は一人だった。

――それは、

再び闇の中。俺の頭に声が聞こえてくる。

俺は何もない黒の空間に言い放った。


――もう、出てくるな


 すると、漆黒の闇が続くその場に、白い影がぼんやりと浮かび上がった。それは形すらなかったが、何故か俺はそいつを知っている気がした。


『なんで?お前が欲したんじゃないか』


 俺の中の“何か“が言う。白いそいつはまるで分かりきったような口調で続けた。


『お前が欲したから……俺は出てきた』

――違う、いらない


俺は否定する。


『嘘だ』

――いらない……こんなもの


 強く言いきって、白いやつはキリがないと思ったんだろう。深くため息をつくと、諦めて背を向けてその場から去ろうとした。

そして、去り際に振り返りこう呟いた。


『……今は欲しくなくても、お前は必ず俺を頼るよ』


闇が消えて行く。

……光が戻ってくる。


『その時まで、おやすみ、KAI』





「はぁ……」



 やっと落ち着いたのか、カイが次にため息をついた時には目の色は戻り、黒く体中に纏わり付いていた闇も消えていた。ルイが目の前でまだ目を見開き、恐怖と安堵感に浸っている横から、カイは壁に刺さっているツルハシを引っこ抜いた。引っこ抜く際にルイの長い髪の毛がまた数束切れて地面に落ちる。

まだ呆然としているルイに、カイはうなだれながら言った。


「……これでわかっただろ、俺はあんた以上の“化け物“だ」


 そうしてルイの上から退けると、なんだか酷く疲れた様子で立ち上がり、重そうにツルハシを肩に担いだ。


「命が惜しかったら、もう近付かない方がいい」


 カイはそう言い残すと、背を向けてゆっくりとこの腐臭に満ちた冷たい路地を後にしようとした。

それに、はっとしたのはルイだった。とっさに身を起すと、去り行くカイに向かって言い放った。


「なんで……!」


 カイは立ち止まった。

ルイは一度躊躇った様子だったが、今にも泣きそうな顔をして再び口を開いた。


「……なんで、殺さない」


――なんで、

 そう聞かれて、やはりカイは一瞬返答に詰まった。するとカイは背を向けたまま、やはりいつもの抜けたしゃべり方でこう言った。


「……何となく」





 そろそろ、空が明るくなり始めた頃だった。





――という訳で



「そっか!ルイって子、とうとうやったんだな!」


 ボロアパート3階、203号室。通称カイの部屋。――では、昨日からまともに寝ていないカイが大あくびをかいて皆様に褒め讃えられていた。


「すごいね、カイ」


 忘れ去られてたと思われますが、ヒナはきちんとここでカイの名誉を讃えていた。


「やー、これで警察もカイも安心だなぁ」

「はっはっはっ、まぁね!もっと褒めろよ、褒めろって、終わりかよおい」

「調子のんな」


 すかさず目潰し攻撃。

カイは画面端で痛みにのたうち回った。

そんなカイをよそにして、


「ま、これで一見落着!そのルイって奴も、もうカイに手出しは―――」

「カイ〜〜〜〜〜〜〜!」



 マヒルの言葉を遮って、ハートをちりばめさせた吹き出しが皆の頭にヒットした。そして、あまりのバカでかい声に耳をキンキンさせて混乱しているカイに、その者は右から容赦なく見事綺麗に突進した。


「カイーーーーーー!」


 カイはしばらく吹き飛ばされて壁に頭をぶつけると、一度血を吹き出してそのまま動かぬ者となった。そして、カイに馬乗りしている張本人はというと……。


「る……ルイーーー!?」「ハーイ、皆さんおなじみルイちゃんです☆」


 ルイはアイドル風にウィンクしてわざわざキメポーズをして見せた。


「お前!カイにコテンパンにされたんじゃないのかよ!?」

「そうだよ、だから一言お礼を言いに来たんだ」

「は?」


 ルイはいまだ気絶しているカイの胴体を無理矢理抱きしめた。カイはふりこ人形のようにぐらぐらと首を揺らして反応はない。

そんなこと関係ないと言うようにルイはそのまま語り出した。


「僕はちょっと間違ってたよ、人を嫌って自分の餌としか思ってなかったけど……それは向こうも同じ、僕のことを化け物としか思っていなかったから」


 ルイの目は少し潤んでいて、声は微かに震えていた。


「でも、カイが僕のそんな心を壊してくれたから、僕は少し変われた気がするんだ」

「ルイ……」


 その場は一時的な優しい空気に包まれた。


「そして!僕は確信した!カイは僕の運命の人だと!」




沈黙




「「はぁーーーーーー!?」」


あまりの爆弾発言に気絶していたカイも起き上がった。


「と、いう訳で、すっかり虜になっちゃった☆」

「☆じゃねーーーよ!あんた、一回ぐらいええ話で終わろうとは思わないのかよ!!?読者の誰もこんな展開期待してないっての!」


 カイは動転のあまりボケからツッコミに回っている。しかし、ルイは聞く耳持たず、やはりこの細い体からは想像できない力でカイに抱き着いてくる。カイは先程の衝撃で頭にでかいたんこぶを作りながらも必死にルイを押し返した。


「おい!マヒルもなんか言ってよ!」

「スゲーなカイ、式はいつだ?」

「ツッコミを諦めんなーーーーーー!!」


 ルイはカイが這いつくばって逃げようとも、まるでタコの吸盤が張り付いているかの如くがっちりとカイを押さえ付けていた。


「……マヒル、男の子って怖いね」

「おい、ちょっと!」


 画面の端からカイが必死に助けを求めている。


「ああ、大丈夫だ……忘れよう。綺麗さっぱり」

「忘れんなよ!」


 そうして、マヒル達はその場をなかったことにして去って行った。


「ねぇ!何このオチ!俺認めないよ!?認めないからね!」

「カイ〜、しゅき☆」

「えー!ちょっと!終わんないで、タスケテーーーーーー!!」





END


こんなオチでゴメンなさいorz なんだかんだ言って結構長くなってしまった……。こんなに長くするつもりなかったのに(汗)  そしていつもいろんな意味でギリギリですいませんでした!

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