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壊し屋と白い猫(4)

ついに“壊し屋と白い猫“編クライマックス〜!そんなたいしたことじゃないけど、どうぞ最後までご覧下さい。




――夜



ネオンで飾られた繁華街とは全く無縁の、

全てが闇に染まる三丁目の路地。

そこには、微かに動きを見せる不気味な影達と、一人じっと沈黙を守って中央の木箱に座っている男。

周りにはそいつら以外に人の影はない。

ただ、漆黒の空に浮かぶ鮮血の月だけが、彼らを見下ろしていた。



ふと、

男は何かに気づいたように顔を上げた。

傷のついた鋭い目が、待ちわびていたであろうその者を捉らえる。


「……来たか」



砂ジャリを踏み締めて現れたのは、

フードをすっぽりと被って顔は見えないが、明らかに白い猫だった。

暗い路地の入口手に静かに立っている姿は華奢ながら堂々としている。



「一人でのこのこご苦労なこったな」


ヒナは何も答えない。


「そういえば、名乗るのは初めてだったな。俺の名はビリー。冥土の土産に持ってってくれや」


ビリーと名乗る赤い犬の頭が立ち上がると、周りにいた者達も一斉に武器を構えた。

しかし、ビリーはすっと手を挙げて、他の者達に手出しできないようにする。


ヒナの方も、腰についているホルスターに手を掛けると、銃を構えてビリーを狙った。

二人の間に静かな殺気が立ち込める。



「今日こそ、その首貰い受ける!」


トンファーを構えたビリーが先に、ヒナ目掛けて真っ正面から突っ込んだ。

ヒナは一歩後ろへ下がりながらビリーを確実に狙って発砲する。


しかし、全てその

トンファーで防いだビリーはヒナの後ろへ周りこんだ。ヒナは一瞬反応が遅れて、ビリーの振りかぶったトンファーをフードに掠める。

しかし手を緩めようとはしない。ビリーは両手のトンファーを器用に使ってヒナを攻めて行った。

ヒナは銃を剣がわりに対向するが、力の差では敵う敵でない。


「どうした!その程度か!?」

「…………」


しかし、ヒナの目に気負いはない。ただ真っ直ぐに、目の前の“敵“を睨んでいる。


「……その目だ」


ビリーはヒナと鍔ぜり合いながら言う。


「どんなことがあっても動揺せず、ただ前だけを……つねに前だけを見ている。……殺し慣れてる目だな。そこも俺がお前に目をつけた一つでもある。」


ビリーは一瞬力を弱めると、こちらへ倒れて来たヒナを勢いよく突き飛ばした。


「……それでこそ、やり甲斐があるってもんだ」



ヒナは、まだビリーを睨んでいる。

――が、不意にまた、

・・・

あの時と同じように空を仰いだ。



「……ん?」


ビリーはその行動に、怪訝な表情を浮かべてから、

同じく空を見た。




空に浮かんでいるハズの月が――――


見えない。



「わーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


その場にいたほとんどは、昼間に起きた衝動と同じリアクションで、降りしきるガレキから全速力で逃げた。砂煙が巻い上がって、

その場にはまた暗黙の空間が広がった。

そして、

あの時と同じく、ガレキのてっぺんには、

赤い月を背に、ゆらりと黒い影が現れた。


「だっ……誰だ!」



顔さえ逆光で見えなかったが、ヘルメットを被った黒い少年は、静かに犬達を見下ろしていた。



「……黒猫?」


一同は突如現れた者に視線を集める。


「はっ!誰だか知らねぇがな!この俺に刃向かうってんなら手加減しねーぜ!」



ビリーが狙いをカイに定めると、

後ろにいたヒナは空になった手を少し動かした。



「死ね!」






肉の切れる音が、

その場をまた静まらせた。


宙に血しぶきが舞って、

暗い路地に鮮血の血が垂れ落ちる。



「…………」


しばしの沈黙の後


「……バカな」


低く掠れた声が響いた。


ビリーの口から一筋の血が流れる。

そして後ろに立つその者を睨んだ。



「何故だ……!」


ビリーの背中には、ヒナの握るツルハシが刺さる。そこからヒナの手につたい、血が地面に滴り落ちた。


「敵を騙すならまず見方からって言うだろ」

「……お前、白猫じゃないな」


鋭いビリーの瞳に動揺することなく、“ヒナ“は片方の手でフードに手を掛けた。



「その通り、は・ず・れ〜」



黒い髪と耳が露になる。

ヒナとなっていたカイは、いたずらをした子供のように舌を出した。他の者達はガレキの向こうからその惨状を見て動揺した様子だ。


「何っ……!?」

「じゃあこいつは……」


そうして、ガレキの上に立つ“もう一人のカイ“を見る。

すると、その者は被っていたヘルメットを外して、月明かりに光る白い髪を露にした。


こちらが本物の“白猫“だ。



「ハっ……俺としたことが……油断して……」


ビリーは余裕……

ではないようだ。言葉の途中で口からどす黒い血を吐き出す。


「親分!」

「おっと、動くな。傷口広がるよ」


カイはしっかりとビリーを抑えて動かないようにする。


「ぐっ……」

「一応、あんたも人間じゃないだろ?これくらいじゃ死なないと思うけど……」



すると、

カイはほんの一瞬、

その言葉に殺気を込めた。


「今の俺なら……あんたのこと、殺せるよ」


それは、

本当に何気なかったかもしれない。

だが、

それは確かに、ビリーだけでなく、

ガレキの上に立つヒナの小さな胸をも強く打つものだった。



「…………」


「……お前、何もんだ」


カイはツルハシをビリーの体から抜いて、

また肩に担いだ。


「……ただの工事員、それだけ」









「カイ」



朝が来た。


長い夜が明けて、

赤い犬達は闇に還った。

衣装を交換したままの二人は、朝焼けを堪能していた。


「ん?何?」


ヒナは、少し躊躇いながら言う。


「ありがと」


その言葉に、カイは大きく目を開いてから、ふっと笑って見せた。


「……いや?」


そうして、カイはスカートがどうだの、俺って結構女装似合うだの言いながら帰ろうとした。


だが、ヒナの耳には入らなかった。

あの時、一瞬見せたカイの鋭い殺気。

それは、今まで殺し屋として生きて来た自分にはない。

本当に恐ろしい……。

いや、むしろ―――




「……カイ、答えて」

「?」

「……君は、本当に何者なの?」


その問いに、

カイはほんの一瞬、驚いたような表情を見せた。

しかしすぐに戻して、しばらくヒナと見つめ合ってから、今度は遠くを見た。






「……さあ」

「?」

「俺が何者なのかなんて……考えたこともない」


その面影は、どこか悲しい色をしていた。

……気がした。


「それこそ、神様にでも聞いてみないとわからないよ」



カイはふいと朝日の方向を見た。

ほんの少し間を開けて、




「だって、俺この体の持ち主じゃないしな」





「……え……」



まるで時が止まったように、ヒナは思考を停止させた。


「待って!……カイ、どうゆ……」

「あーっ……疲れた」


カイは、言葉を遮るように大あくびをかました。

そしてくるりと振り返ると、ヒナに向かって手を差し延べた。


「帰ろうぜ」











その言葉に、

何を思ったのだろう。


今まで、

一人だった。


少女は幼すぎた。


それ故、



彼女は

心を閉ざしたのだろう。




「カイー!ヒナー!」


すると、向こうから、

聞き覚えのある声が聞こえて、カイは降り返った。


「マヒル」

「うおっ!お前らなんつー格好してんの!?」

「うるっさいなー、こっちはいろいろあったんだよ」


「なー、ヒナ……」



そう言いながら、

カイはヒナを見た。









それは初めて、

生まれて初めて見せた、

“感情“

というものなのだろう。


彼女が理解するには幼すぎた。



ただ、両目からあふれ出るその感情を、

少女は堪えることができなかった。



「えっ…ええっ?」

「お……おい!何泣かせてんだよカイ!」

「しっ……知らねぇよ!急に泣き出して……」








きっとこれは、

少女が生まれて初めて知った、


温かさなのだろう。

恐ろしいほど寒かった、

あの孤独からの。





――僕はそう信じたい。




END


ほぉずき林檎、発投稿作品“壊し屋“一発目から行変えするのを忘れました。もう立ち直れません。恥ずかしい〜!でもまだまだ林檎は頑張ります。これからも続く限りよろしくお願いします!

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