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壊し屋とレインコート(2)




「土地神様だってぇ!?」


 突然、というかまたもや窓からはい上がってきた謎のレインコート姿の子供は、レニという名の神様だった。いかにも偉そうな態度で窓の手前に腕を組み、子供特有の大きな目には生意気さが伺える。何処からどう見ても普通の子供……に見えるが

 あまりの非科学的な事実に、開いた口が塞がらないマヒルなのであった。


「そう驚くことでもないでしょ。猫やら吸血鬼やら出て来る小説だもん。神様くらいいたっておかしくないよ」

「なんだか俺が異物みたいじゃんかそうしたら」


 確かに。今のところちゃんとした人間って俺だけじゃね?

 そう思うと、ホントにこの街はおかしいだろ。どこからどう見ても普通のビジネス街に、なんで猫やら殺し屋やらメイドやら暗殺者やらがいるのだろうか。完全に世界観を無視しているとしか思えない。


「マヒル、世の中目を反らした方がいい現実ってものもあるんだよ」

「なんか諭された! っていうかいいのかそんな理由で!」


……まぁ、もし、仮に、ひょっとして、万が一、この少年が神様だとする。だがそれを信じるにはいろいろと質問がある。


「なぁ神様」

「なんだハゲ」

「開口一発目から何たる口の聞き方!」

「神様は偉そうだから神様だ」


 なんだか軽くあしらわれた気がして非常に納得いかないのですがと言おうとしたが、マヒルは喉元でそれを飲み込みなんとか抑えた。そんなマヒルに、カイは呆れるような物言いで口を挟んだ。


「マヒル、この街がこんななのも、この世界に俺みたいな擬族がいるのも、みんなレニみたいな神様がいるからなんだよ」

「え、そ……そうなの?」


 拍子抜けするマヒルにカイが痛く頭を抑えながら口を開こうとした――すぐ後、レニが横から代わりに口を開いた。


「神は、街があるから有るんじゃない。“神“がいるから街が出来上がる。」


 そうしてゆっくりと部屋を徘徊しながら、カイ達の前に回った。そしてふとマヒルの前に立ち止まり、レインコートの下から細い腕を出すと、マヒルのちょうど左胸に指を突き付けた。


「だから、この街にいるお前らを生かすも殺すも、全部我オレの自由って訳だ」


 一瞬、

見上げた目つきの奥に怪しい光が灯った気がした。その時だけ、子供の大きな瞳は蛇よりも鋭くなったのだ。確かなことだった。

 それに気づいたマヒルは、ほんの一瞬まるで心臓を捕まれたようなそんな緊迫感に苛まれ、こめかみに汗を滲ませた。


「……ま、オレもこの街あっての神だから……そんな事しないけどね」


 そう言ってレニはふいと背を向け、マヒルから離れた。マヒルは未だに上がった心拍数を抑えられないようだ。胸を抑えて深く息を吐いている。

 するとそんなマヒルの顔を覗きこむようにして、カイが横からひょっこりと現れた。そして確認するように不敵に笑んで見せる。


「な?」

「……じゃあ、本当に」


神様――?


 やっと納得したマヒルの抜けた表情を見て、レニは振り返り踏ん反り返るように腕組みをしながら深く息を着いた。


「そーゆーことだ。だからさっさとオレを敬いたまえ、讃えろ、跪け!」

「数行で天より高く増頂しやがった!」

「てゆーか、小・中学生に読めるのか?この漢字」


 とりあえず、非常ーに納得いかないが、どうやら本物(?)の神様らしいこの少年。しかし、なんでその神とやらとカイが知り合いなんだ?しかもかなり親密な。まぁそれはさておき、


「しっかしなぁ……そんな子供みたいなナリしてんのに、神様って言われてもなんか拍子抜けだな」


 マヒルの言うことは最もだ。改めてレニの姿を見れば、大きな瞳に少し赤みを挿したピンクの頬。身長はカイの肩にも達していない。明らかに8〜10位の子供にしか見えない。普通神様と言ったら、60〜位の老人で、長い髭を生やしたつるっパゲと相場が決まってるんじゃないのか?


「全く、ホントに人間というのはどこまでも愚かな考えをするものだな」


 マヒルの言葉に呆れるようにため息をついて、レニはまるで蔑むようにマヒルを見た。


「人を見た目だけで決めるその態度……この街を見守り約300年近くなるが、変わり行く世界の中、どうも人間の価値観というものは変わることがないな」


……どうやら子供なのは見た目だけのようだ。

 しかし言っていることは最もで口を出せないが、この少年の態度、言葉、何もかもがムカつくものがあり、今にも殴り飛ばしたいのですがと言わんばかりにマヒルは後ろに回した拳に力を込めていた。


「……じゃあ、そのナリにもなんか理由があるのかよ?」

「もちろんだ、オレが何故、年の割にこの姿でいるか……そんなの決まっている」



――この方が、女性読者にウケるから!



 瞬間、その場にいた全員は同じ方向に体を傾けてものの見事にずっこけた。


「よりによって何でそんな理由なんだお前! 今テメェは全国の壊し屋読者様の期待を一瞬で裏切ったんだぞ!」

「何を言ってる。男たるもの気持ちはいつでも女子に向いているのが新の“漢“というものだろ」

素面シラフでんなこと言う小学生体型がいるか!」


 どこからつっこめばいいのやら、マヒルは相手が神だと言えども容赦なく激しいツッコミを入れる。

 しかし、相手もさすが神と言ったところか、そんなツッコミものともせずに、見事スルーすると、その場にどっかりとあぐらをかいて座り込んだ。


「それよりも! せっかくオレが来たのだ。茶の一つも出さないのか」

「何処まで偉そうなんだよお前は!」

「マヒル、相手は子供だから。一応体型は」


 カイの慰めに、なんとかマヒルは今にも殴りかかる勢いの込み上げる怒りを抑えこみ、一つ舌打ちをしてから台所に向かおうとした。


「あー……はいはい、じゃあ缶ジュースでも」

「たわけ!」

「むたっ!」


 刹那、台所へ向かおうとして体を半回転させたマヒルの側頭部に、レニの渾身の蹴りがヒットして、マヒルはフローリングの床へダイブした。


「神様にそんなハイカラな物供える気か!? 茶と言ったらほうじ茶か緑茶! 菓子といえば饅頭か羊羹と決まっておろうが!」

「小学生のナリして中身まんまじじいじゃねーか! そんなんで女性にウケる気かあんたは!」

「何を言う! 神も所詮人間が考えた空想に過ぎん、淫らな考えをしていてもおかしくないだろう!」

「ちょーー!? なんかこんな事言ってますよカイさん!」

「まぁ神様だから」

「今の暴言の数々をその一言で済ます気か!?」




――で


「ところで……あんまり街に降りて来ないレニが、今日は何しにきたん?」


 なんとか一同は床に腰をついて、残り少ない貴重な水を沸かしたお湯で煎れたお茶をのんびりと飲んで話を続けていた。

 ちなみに中身は夏定番の麦茶である。


「ふむ……確かに、最近はオレも少し不安定でな、街に降りて来るのもやっとやっとなんだが……」


 そう言いながら、レニは湯呑み茶碗に口を付ける。


「何、七年ぶりに街の様子が見たくなってな」


 お茶を一口含み、和やかな笑みを浮かべた。そこだけはなんとなく神様らしい老人の面影が見られる。


「そんな……ご老体なのに無理しなくても」


 と、マヒルがお茶を飲もうとした瞬間、レニは何処から取り出したのか、長い箸をマヒルの両目に突き刺した。


「のぉ! 目!」

「年寄り扱いするなボケが、体はお前なんかより遥かに若い」


 レニは、横で痛みに悶え転がるマヒルを見ようともせず、まるで何事もなかったかのように静かにお茶をすすった。


「ま、やはりこの街は相変わらず騒がしいな。年寄りのオレには少し難儀なものがある」


 さっきと言っていることが逆な上にお前が作った街だろと言わんばかりの目で転がっていたマヒルはレニを呆れて見る。……が、口に出すとまた酷い目に合うので喉の前で抑えた。


「少年も元気そうで安心したよ」

「それはどーも」

「元気過ぎて困るんスけど」


 マヒルは憎しみを込めてカイのほっぺを突いた。

カイはやはり迷惑そうに一度マヒルを睨んだが、あえて何も言わなかった。

 そこへレニが、カイの肩をぽんと叩いて悟るように言った。


「まぁ、お前も男だが、世の中には血迷った奴もいるからな。例えばどこぞの陰険な20代前半の彼女イナイ歴=年齢で、やけにマッチョ体質な小うるさい蚊みたいな奴には十分に気をつけろよ」

「そんな当てこすらなくても今の一言で十分わかったから素直に名前出せよ」


 しかも今の何処かで聞いたことがある……というツッコミにはあえて目をつむりましょう皆さん。気にしたら負けですよ。


「オイ、もう少し静かにしろお前。全く最近の若者は無駄に声がでかくてウザイし、ホントウザイ!」

「うぉぉぉぉぉ! 同じことを二回も言われた! つーか幼児体型に言われたかねぇ!」


 瞬間、また右から左へレニのビンタがマヒルの頬に炸裂して、マヒルの左頬に赤くくっきりと跡を残した。


「年寄りは敬わんか!」

「どっちなんだよ! ていうかもう終わりかよ! 何この最後!」


ページが足りませんから。


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