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壊し屋と月うさぎ(2)

「何が月うさぎなの?」 とか思ってるそこのあなた!……男(+女)は細かいことを気にしちゃ負けだぜ……。




―という訳で


 突如、窓からやって来た。いや、窓から落ちてきた少年は、やってきて早々この暑さにぶっ倒れてしまった。

 マヒル達はとりあえずほって置くこともできないので、ただいま扇風機が壊れて動かないクソ暑い部屋にご招待することにした。



「ふう、何とか落ち着いたな」


 すっかり暑さに伸びてしまっている少年。

 こうして再度見てみると顔立ちの綺麗な少年だ。この猛暑だと言うのに長袖のYシャツを腕まくりし、紺色のベストを着て腰に長いベルトが垂れている。しかし一番目につくのは、頭に合わない大きめのキャスケットだ。そこから細い金髪が見えているところ、寝癖でも酷いのだろうか。


「何なの、この人」


 ヒナが少年の顔を覗いて訝しげに言った。

 無理もない。

 この灼熱の太陽が照り付ける下、街中で、いかにもそこらへんの学生らしい服を着て、肌がここまで白いとなると明らかにこの街の者でないことが分かる。

 しかもこのご時世に住宅のアパートで行き倒れたというのだから、こんなに非現実的なことはないだろう。


「…………」


 ふとマヒルは、先程からやけに静かなカイを不思議に思って横目で見た。なにやら深刻な表情でじっと少年のことを見つめている。もしかして、この少年に何か覚えがあるのだろうか?ぎょっとしながらもマヒルは、恐る恐るとカイの顔を覗きこんだ。


「ど、どうした? カイ」


 マヒルの問い掛けにカイが口を開く。


「……いや、こいつどこに捨てて来ようかなとか思って」


 瞬間、マヒルはまるでボールが跳ねるように古典的に部屋中を飛び回ってからずっこけた。


「なんだよ、相変わらず落ち着きがない奴だなぁ」

「おいおいおい! お前開口早々そりゃーねぇだろ! 素姓知る前に何処分することから考えてんの!」

「やっぱり簀巻きにしてエベレストからマリアナ海溝まで落とすのがベストだよね」

「そんなこと聞いてねぇよ! あーもう、なんでお前そんな攻撃的なの!? 優しさの“や“の字も見当たらねーよ!」


 そんなマヒルにカイは懲りることもなく反論した。


「だってさー、こんな何処の誰ともわかんない奴、何やらかすか分かんないじゃん……って、俺の中の神様が言うんだもん」

「何処の荒神だそれ! お前まず信じる者から間違ってるって! 目を覚ませよ!」


 大体、もし本当に危ない奴だったら炎天下の中行き倒れなどしない。……とマヒルだけでなく読者も思うだろう。


「それに……これ以上ウチに無駄な居候ガ増エチャ困ルシ」

「うおーー! 語尾に行くにつれて感情が薄くなっていく! やめて!これ以上嫁姑戦争起こさないで!」


 カイの怒りが静かに篭った一言を聞き逃すことなく、ヒナもそんなカイを鋭く睨んだ。

 だが、これ以上無駄な被害を出さぬためにも、マヒルは今にもこの場で再びバトルを繰り広げそうな二人を、なんとか抑えることに成功した。

 そして本題に戻す。


「ところで……水がどうとか言ってなかったっけ」


 ヒナの何気ない一言に、そういえば……とマヒルは再度横たわっている少年を見た。


「こんな炎天下の中、水もろくに飲めなかったのか……そりゃ倒れるわなー」


 マヒルが腕組みをして納得し頷く。――横で、カイは何か思いついた顔をしていきなり勢いよく立ち上がった。


「よし! 水か!」


 何故かものすごくやる気満々なのがやけに怪しい。 カイが理由もなくやる気を出すなんて、何かたくらんでる時しかありえない。それか誰かを落とし入れるかはめるとき。経験者、マヒルはそう悟った。

 少し……いや、ひじょーに嫌な予感がしながらも、マヒルは実に楽しそうに台所へ向かうカイを見送った。




「ほい、水」


 来た、今度は何持ってきたんだ?

……と思ったが、台所から帰ってきたカイが持っていた物は、透明な水のたっぷりと入った普通のミネラルウォーターだった。


「あれ普通だ」


 マヒルは半ば驚きながらもカイから水の入ったペットボトルを受け取る。

どっからどう見ても何の変哲もないミネラルウォーターだ……が、


「……まさか水道水じゃないだろうな」

「まーさかー!」


 カイは失礼な!と言うかのように胸を張って言った。


「ちゃんと便所からついで……」


スパーン!

 と、カイが言葉を言い終える前に頭にペットボトルによる見事な一発が入る。もはやボケさせる有余もマヒルにはない。


「ちょっと! いくらなんでも下品過ぎるだろそのネタ! もし飯食いながら見てる人いたらどーするつもりなんだお前! それなら水道水の方がよかったよ!」

「何言ってる! この金に余裕のない家から500mlの水を頂けるだけでもありがたいと思え!」

「一応この人病人なの! そこんとこ分かってらっしゃる!?」


 マヒルはツッコミの勢いでペットボトルを片手で握り潰す。しかしカイはそんなマヒルに怯むこともなくさらに逆ギレした。


「あー! もう! だったらいっそこいつの口に灯油のタンク突っ込んだるわーー!」

「こ……」

「殺す気かーーーーー!」


 瞬間、マヒルの言葉を遮ってさっきまで気絶してフローリングに倒れていた少年が、ツッコミと共に跳ね起きた。


「うお!俺のツッコミ取りやがった……じゃなくて!やっと起きた!」

「よーし、俺の計算通りだ!」


 胸を張って辱めもなくカイは言い切った。もはやツッコむのもあほらしい。

 それはさておき、再度目覚めた少年に目を移す。


 目覚めた少年の目は、白い肌に映える少し吊り上がった、だが少し幼さの残った大きな赤い瞳で、ちらちらとせわしなく辺りを伺っている。


「……ここは?」

「おいおい、人様ん家の真ん前に倒れといてそりゃねぇだろ」


 カイの言葉に、少年は怪訝そうな顔で振り返った。


「……む?」

「君、さっきこの部屋の前で行き倒れてたんだよ」


 そこへ、カイの代わりにマヒルが割って説明してくる。少年はしばらくぼんやり辺りを見渡していたが、ふいに顔をしかめて頭を押さえると、少し苦しそうな顔をして言った。


「……そうか、暑さと怠さで朦朧とはしていたが……まさか僕としたことが行き倒れるとは……」


 確かに。

 普通、こんな街中で倒れるようなことはしない。しかもこの真夏の空の下、水の一滴飲む余裕も金もなかったというのだ。

 だが、それなら何故そこまでして街中をさ迷う必要があったのだろう?


「なぁ、あんたこの街に住んでる人じゃないだろ?」「……そうだが」


 さっきからやけにしゃべり方が他人行儀で大人びいた少年だ。やはり裕福な家庭で育った坊ちゃんと言ったところだろう。でなければ街中で倒れるようなことはしないと思う。旅慣れてないのだろうか。


「なんでぶっ倒れるまで、この街中歩いてたんだ?」「それは……」


 マヒルの問いに、少年は少し言いづらそうに俯いてからふと顔を上げた。そして、マヒルのすぐ横にちょこんと座っているヒナを目に留める。

 途端、その赤い瞳は飛び出るほど大きく開かれ、その色は紛れもない殺意へと変わった。少年は瞬時に後ろへ飛んでマヒル達から距離をとると、腰に垂れ下がるベルトの内から、小型のバタフライナイフを数本手に装着させた。


「ヒィ!」


 マヒルは驚きと焦りと恐怖とで口から変な悲鳴を上げると、近くにいたカイにしがみついた。

 そんなマヒルを見ることもなく、目を鋭くさせてヒナを睨む少年は恐ろしく低い声をもらす。


「……ついに、見つけた!」


 ヒナはただ少年を静かに見据えている。


「昔年の怨み、今こそ晴らしてやる!」


 叫ぶや、少年は床を勢いよく蹴り、ナイフを構えながら一直線にヒナへ向かった。

 しかしヒナは逃げる素振りも見せずにただ向かってくる少年を睨んでいる。横にいたカイも何も思ってないような落ち着いた顔でその様を見守っていた。


 少年が咆哮を上げながらヒナに襲いかかろうとしたその刹那!


「やめろーーーー!!!」「ぶっ!」


 意外な結末!なんと、あろうことか少年を止めたのはマヒル

……によるおぼん攻撃だった。

 少年はいきなり頭に振り下ろされた衝撃と痛みでナイフを床に落とし、その場でごろごろとのたうち回る。


「お゛お゛お゛お゛!!」「おお……、マヒルの武器がスリッパからおぼんに進化した」


 ていうかどんだけ人様の頭叩く気だ。




「なっ……いきなり何をする!!」

「そのセリフそのままお返しします! いきなり人様ん家でナイフなんか取り出して何してますか!ちゃんと事情を話しなさい!」


 マヒルの叩き返すような物言いに、少年もうっと息詰まった。


「……一利あるな」


 いや、ものっそその通りだと思われます。







――で、



 とりあえずカイ達三人……と少年は、相変わらず暑い部屋の中座って話をつけることにした。

 始めは、少年の方も興奮気味で話もできない状態だったが、マヒルが持ってきたアイスを食べると、それはもう先程までの怒りがなかったかのようにおさまり、文字通り頭をなんとか冷やしてくれた。


「……今すぐ殺したいとこだが、仕方ない……僕はリノ、ナイフ屋だ」


……訂正しよう。

 言葉の裏にどうやらまだ怒りが隠れているようだ。これは、ちょっとしたことで頭の線がぷっつり切れる傾向がある。気をつけなければならない。

 そう心に刻むと、カイ達の方も続いて自己紹介した。


「俺はカイ」


 しかしカイはヒナの紹介をする素振りも見せない。やはり行動のひとつひとつにまだヒナに対する怒りがあるようだ。全く往生際の悪いというか、まるで子供である。……まあ子供だが。

 ヒナもヒナで、そんなカイの態度に少しむっとしてから、怒りを抑えて続けた。


「……ヒナ」


 ヒナが言ったすぐ後に、カイが自分の右横を指して言った。


「で、そっちがアヒル」

「マ・ヒ・ル!! おいこら喧嘩売ってんのかてめぇ! 今絶対言わなかったら気付かない人いたと思うほどナチュラルだったぞ!」


 しかし、リノはやはり全くそんなボケに反応することなく見事スルーして、また赤い目を鋭くしながらヒナを食い殺すように見つめた。ヒナは相変わらず抜けてるのか、やる気ないのか分からない目でキョトンとしている。

 そしてリノと言う少年は静かだが、相変わらず他人行儀なしゃべり方で言った。


「そうか、ヒナというのか、お前は」

「うん」


 緊張感のない日常会話のような返事を返して頷く。そんなヒナの態度が余裕の表情にでも見えたのだろうか。リノは頭に1、2本青筋を立てながらヒナを睨んだ。

 一方マヒルは、場が悪いような顔で交互に二人を見てから、腕を組みリノに尋ねた。


「で、君はヒナとどうゆう関係なんだ?」

「何お前、お父さん?」


 カイの空気を読まない一言にマヒルはパンチ一発でかたをつける。で、もう何もかもめんどくさくなった感じでやけくそに言った。


「訂正します! ヒナになんの用なんですか!?」


 ……そんな怒んなくたっていいじゃん。と、カイは頭ひとつ分はあるたんこぶを乗せながらぶちぶちと呟いた。

 するとリノはマヒルの問いに少しだけ間を置いて、再度ヒナに向き直り目を鋭く光らせてから、勢いよく腕を振って人差し指を突き付けて言った。


「僕は……そう、ヒナ! お前を殺しにきた!」

「はーーーー!?」


 大体予想はしていたが、それでもムンクの叫び並のリアクションをとってしまうマヒルはお約束の人物。前回のタキに続いて、まさかの殺人予告!?しかも次はヒナ。最悪だ。

 それに対し、カイはリノの発言に非常に嬉しそうな笑みを浮かべて問い正した。


「おやおや、また何で」

「カイ……お前なんか楽しんでないか?」


 正解。

 忘れてる方もいそうですが、カイとヒナはただいまも喧嘩を続行中。静かな嫁姑戦争は直のこと続いています。

 しかし今はそんなこと言っていられない。リノは今にもヒナを刺すつもりでナイフを構えている。

――が、ヒナはそれでもマイペースな態度で首を傾げながら小動物のような態度で尋ねた。


「えっとー……僕にはあまり覚えがないんですけど、なんで僕を殺すんですか?」

「そっ……そうだよ! 子供が簡単に人を殺すなんて言っちゃいけません!」


 なんだかさっきからお母さん口調のマヒルだが、それに負けることなく、リノの方は反攻期の子供の如くさらに怒りを倍増させて叫んだ。


「黙れ!」


 その一喝で、熱気の篭ったサウナ状態の部屋はしん……と静まり還る。


「……忘れたとは言わせない! この十年間、僕はずっとお前のことだけを怨み続けてきたんだ!」


 リノの怒りは声となって部屋中にびりびりと響き渡る。それでも、やはりヒナはどうも身に覚えがないらしく、どうすればいいか分からない顔で困っている様子だ。

他の誰もが同じように動揺する中、


「人違いじゃないの?」


 意外にも、

そう口に出したのは他でもないカイであった。

 その驚くべき発言にマヒルだけでなくヒナも振り返る。そんな類い稀ない空気にカイは怪訝そうに顔を上げた。


「何? 俺変なこと言った?」

「い、いや……」


 いや、言いましたとも。今カイはヒナと喧嘩してるんじゃなかったの?どうしてそんな庇うようなこと言うんだ?


「人違いなんかあるものか!」


 何か言おうとしたマヒルを割って、リノがものすごい形相で突っ掛かって来た。そして皆の注目を集めた後、荒げていた息を調えてリノはやっと静かになった。


「……忘れることもない、十年前、僕は」






殺し屋に

家族を殺されたんだ――


えー、作者はただいまテスト期間中です☆     という訳で来週が終わるまで(?)        続き読んでる響きいないと思うけどお待ちくださ〜い

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