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壊し屋と月うさぎ(1)

いろいろあって、説明文が超長い……かも。    小説って難しい!




「お前なんかとは絶交だ!」

「僕も、カイなんか知らない!」



 ……皆様、おはこんばんちは。お馴染みツッコミ男マヒルです。

 えー、一発目から何故か上部2名ほどが変なこと言っている上に、いつの間にか文章が一人称になっています。いや、心配しなくてもこれはすぐ戻る予定です。ええ、別に俺がいつも作者の投げやりな説明文に毎回つっこむのが嫌だから、“だったらいっそ俺が説明側に回ったるわボォケぇ!“とかいうんじゃありませんよ。決してそんな疚しいことは考えてませんとも。え?いつもやらしいこと考えてんじゃないかって?はははは、君ねぇ、前回のカイみたいにスリッパで叩かれたいですか?言っとくけどこれめちゃくちゃ痛いからね。本の角で打たれるより痛いからね?ゴキブリなんて即死だよ?嘘だと思うなら後でカイに聞いてみな。


 さて、そろそろ俺の説明も次で終わります。

ただ今このボロアパート、おなじみ203号室カイの部屋はひじょーに険悪な空気に包まれております。俺もイマイチ事情は分からないのですが、

それは俺がここへやって来る小1時間前に遡ります……。








――203号室


 じりじりと太陽が照り付ける雲ひとつない空の下。木に止まり延々と鳴き続ける蝉達の声。

もう皆さんお分かりでしょう。

“夏“到来です。


「……俺は死ぬ」


 居間のフローリングに突っ伏して、今にも死にそうなカイは言った。

部屋の中まで蜃気楼が浮かび上がるほど、この部屋は熱気に包まれている。カイはあまりに大量の汗をかきすぎて、フローリングの板の色は濃く変色していた。それほどまでにこの部屋はとにかく暑い。


 部屋には、ランニング姿のカイとキャミソールを着たヒナの二人と生温い風を送る扇風機しかないが、それでもここは猛暑の地と化している。


「俺はもうダメだ……ヒナ、せめてお前だけでも生き伸びて、この地を灼熱の地獄から救い出してくれ……」

「……そんな世界規模の責任背負いたくありません」


 カイの隣で横たわりながらヒナは淡々と言った。もはや暑くてどんなギャグも冷めてしまうようだ。

 それでもカイはノリ続ける。


「……最後に、お前にこれを託そう。これで生きのびてくれ……ガクっ」

「そんな萎びたバナナいらない。せめてアイスがいい。アイス」


 カイは何処から取り出したのか、皮が茶色くなりすぎたバナナを宙に掲げて腕を落とした。しかしヒナは見向きもしない。

 つれない態度のヒナに少しむっとしてから、カイはけだるい体を起こしてヒナに振り返った。


「お前なぁ……少しは乗れよ! めっちゃシラケるじゃん! なんでこの小説にいるの? とか言われるよしまいには!」

「……そんな気配りもう必要ないと思うよ」


確かに。

 何せここにはボケ要素を持った人物しかいない。もしここでヒナがノリ続けたら、それこそ何処までも行ってしまうだろう。

 だけどノリを取ったら、この話は今より極薄チョコレート並に薄くなるのでカイはやはり粘った。


「もういい! この小説のノリについてこれないヒナなんかに扇風機あげない!」


 そう言ってカイは扇風機にしがみついた。


「あっ! 何それズルイ!」


 こればかりはヒナも口出しせずにはいられなかったらしく、俯せになっていた体を勢いよく起き上げた。


 何せ、クーラーなど当たり前にない家賃4万円のこの部屋にとって涼しくなるアイテムと言えば、

1.壊れたうちわ

2.ぬるい水道水

3.キュウリとケチャップしか入ってない冷蔵庫

4.半径1m以内しか届かない中古二千円の扇風機


 1と2は問題外として……3のキュウリは今晩の夕食なので無理。

……とすると、この生温い風しか送らない扇風機しかない訳ですよ皆さん。


「カイ! それだけは僕許さない!」

「はーー!? これもともと俺のなの! 俺に使用権があるの!」

「カイのものは僕のもの! 僕のものは僕のもの!」「ジャ●アンかお前は!」


 二人は扇風機を互い掴み合って、子供のおもちゃの取り合いの如くぎりぎりと引っ張り合っている。

ちなみに扇風機は起動中。カイやヒナの力に反発するように首を回そうとしている。


「おいヒナさん、いい加減離してくれるかなぁ?僕本気デ怒ッチャウヨ?」

「あ! UFO!」

「そんな古典的な嘘にひっかかるかボケ!」


 やはり二人の力は緩むことなく、扇風機も負けじと首を回そうとしている。醜い闘争が繰り広げられている、なかなか情けない光景だ。 するとカイは、とうとうこの真夏の暑さに堪えられなくなったらしくぶちギレた。


「あーーーー! もう! 何お前、うっぜーーーーーーーーーーーーーーーーー!! にもほどがある! いいから離せって言ってんのわかんないの!? お母さん怒るよ!?」

「ヤダーーーーーー! これヒナのなのーー!」


 しまいには、なんだかお母さんと子供みたいなノリになる二人。どうやら相当“きてる“らしい。汗は相変わらずダラダラ流れてくるし、部屋はサウナ状態だし、扇風機は首回したくて必死だし。


「ずるい、ずるい!! カイばっかりずるい!」

「痛い! いたたたたたたたた!! 耳引っ張んな! もげる! もげちゃう!」


 ヒナがとうとう手を出し始めて間もなく、




 事件は起こった。




 バキっと、嫌な音が響いて、あれほどうるさかった部屋はしん……と静まり還った。


 二人は、互い扇風機を引っ張るのに必死で気付かなかった。この中古二千円の扇風機が、悲鳴を上げていたことに。それにさらに拍車立てて、カイとヒナが上に乗っちゃったために、扇風機は首からぽっきりと折れ、本体と二つに分かれてしまった。

 かろうじて導線で繋がってはいるが、もはや見えている時点で終わりに近い。


 二人はとにかくどうしようもなく青ざめた。全く動こうとしない扇風機をただ眺めて、ひたすら絶望感に浸った。そして、次に何をするかなんて決まっている。この二人の驚くほど自己中心的な性格から同時に思うこと。

 この灼熱のサハラ砂漠並な部屋で、唯一のオアシスが無くなってしまった。

“こいつ(隣の奴)“のせいで!




 その後、一気に燃え上がった怒りは闘争心に変わり、その先は……言うまでもない。

 そこへちょうど、コンビニで買って来たアイス片手にマヒルがやって来たという寸法だ。

 そして今に至る。




「うわっ! くだらねぇ!」


 今思い出して見れば実にくだらない理由になりそうだが、でも誰より頑固者達であるこの二人が、今こうして互いそっぽを向いているのは事実であって……。それは現在も続いている。 せっかくこのクソ暑い最中、アイスを持ってわざわざやって来た俺の立場はどうなるのだろう……と、長い静寂が包む猛暑の部屋でマヒルは思った。


 誰も一言も話さないこの場は、壊れた扇風機を横に、カイとヒナが少し距離を置いて座り、その前にマヒルがあぐらをかいている。


 マヒルは二人を目だけで交互に見た。どちらもぶすっとしていて、どう見ても機嫌よくは見えない。その分誰もがこの場の悪い空気の中口を開くのを拒んでいるようにも思える。

マヒルは深くため息をついた。


「おい、カイ、ヒナ」


 そんな中、初めに口を開いたのはマヒルだった。


「何があったか知らないけどな、喧嘩両成敗って言うように、互いが怒る理由がなければ喧嘩になるわけないだろ?きちんと話し合わないと、いつまでもこんな嫌な空気のままだぞ」


 やけに真面目なマヒルの物言い。初っ端からシリアスだとみんなついて来ないのに。

 しかし、いざ二人の顔色を伺って見ると……。

やはりふて顔、無反応。

 おいおい、こいつらとうとう返事も無しかよ!年下と思って手加減してたらこの様。全く、最近の子供は大人の説教を平気でスルーしやがる。

 ここで手を挙げることは確かに簡単なことだ。しかしそれではこいつらも口を開かない。そこで俺は作戦Bに入ることにした。


 マヒルは持ってきていた袋を開けて、ある物を取り出した。


「アイスいる人ーー」

「「いる!」」


 ハッピーアイスクリーム☆二人は驚くほど息ピッタリ合わせると同時に、身を乗り出してアイスに掴みかかってきた。まさ目論み通り、と言った感じだ。

 しかし、さらにそれが二人の闘争心を燃やすものだと知らずに、マヒルは気づいた時には顔を青ざめていた。

 二人が同時に手にしたもの。それは白いパッケージに身を包み、ひやりとした冷気の漂うカップ。

――を同時に掴んでいた。 今この状況でこれは、とにかくまずいことだけは分かっていた。

……分かっていたつもりだった。


「あ、あら嫌だ。奥さん、ちょっとその手を離して下さる? 人の扇風機を壊してしまうろくでなしさんはね」

「な、なんだよ……僕だけのせいじゃないでしょ」


 二人はまたもぎりぎりとアイスを無言の力で引っ張り合う。


「大体、カイ甘いのあんまり好きじゃないじゃん」

「今日は気分なんだよ。ま、どこかの白い耳したトロ目の誰かさんにはわかんないと思うけど」

「黒いくせに」

「黙れ白まんじゅう」

「黒マリモ」



 プチ、

 何かが二人の中で同時に切れる音がした。と同時に、ゴゥっと二人の背後に怒りの炎が形と化して、なんかよく分からないシャドウが現れた。


「じょおぉとうじゃごらぉ!! もう二度とつらぁ拝ませないようにしたるわ! 来いやぁぁぁぁぁ!!」「……後悔させてやる」

「ええい! 嫁姑戦争か! お前ら!」





――で


「ったく、ホントいい加減にしろお前ら!」


 結局、マヒルのガッツの効いたげんこつを受けた二人は、並んで正座させられることになった。


「この暑さだ、イライラするのは分かるけどな! こんなくだらねーことでもめるなんてバカなことすんな!」


 瞬間、二人はマヒルの言葉を聞いて同時に耳をぴくりと動かし、かなりの速さでマヒルに食いついた。


「どうでもいいだとぉ!?」

「てめぇ! この扇風機が俺達にとってどれだけ大事で必要不可欠か分かって物言ってんのか、ああ!?」「この灼熱地獄の中、僕達の茹で上がった体を唯一その生暖かい風で助け出してくれる天使の送り物なんだぞ!」

「命の次の次の次に大事なんだよ、分かったかこらぁ!!」

「ヒィ! なんで俺が怒られなきゃいけないの!? ってか命の次の次の次ってそんなに必要不可欠じゃねーじゃねぇか!」


 この暑さのせいか、いつもより怒りがヒートアップしている二人。相変わらず汗は絶えず溢れ出してくるため、暑苦しさは倍増している。


「もういい! こうなったらマヒルの金で超冷えるクーラー買って来ようぜ。ヒナ」

「さんせーい」


 カイはコンビニの袋にいれっぱなしになっていたマヒルの財布を手に立ち上がった。


「うおーーい! 待て待て! なんで俺被害者になってんの!? ねぇちょっと!」


 二人はマヒルの止める声を聞こうともせず、玄関へ向かおうとする。だがマヒルも負けちゃいない。何せその財布の中には今月の生活費がたんまりと入っているのだから。

 マヒルは勢いよく体をUターンさせると、今まさに玄関を開けようとドアノブに手をかけるカイ達に突っ込んだ。


「あ」


 その拍子にドアが外へ開かれる。

……と同時に、三人は一斉に下を見下ろした。


 多分、ここにいる誰もが予測していなかっただろう。まさか、玄関を開けた目の前に見知らぬ少年が倒れていようなんて。

 何故、どうしてこの炎天下の中、Yシャツにベスト姿の少年が人様ん家の真ん前で倒れている?三人は今成そうとしている目的を忘れかけて理解に苦しんだ。


 とりあえずいつものように、こういうパターンは変に手を出すとろくなことがないので、三人は静かに扉を閉めて記憶を封印した。




「見捨てんなーーー!!」「うわぁぁぁぁ! 入ってきやがった!!」


 一瞬にして先程まで倒れていた少年は移動し、窓を勢いよく開けて現れた。


「ていうかさっきまで玄関前に倒れてなかったっけ」「そこらへんはツッコんだら負けだよ」


 すると突如現れた少年は、なんだか頭をふらふらさせて掠れる声で言った。


「頼む……水」


 そう言い終える前に、少年は窓のヘリからバランスを崩して倒れこみ、フローリングに頭をぶつけてそのまま動かなくなった。


《オマケ》       カイにQ&A!     Q:「マヒルのスリッパで叩くのって本当に痛いんですか?」        カイ:「ああ、アレ真面目に痛いよ。うん、俺今まで三回くらい打たれてるケドねぇ……。ホント、マヒルってば手加減無しなんだからさー、ま、俺は平気なんだけどねーあっはっはっはっはっ!」

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