壊し屋と清掃員(2)
なんだか文章は短いのにやけにぐだぐだした話になりました(汗)清掃員ギリギリまで出て来ないし。 だから読み飛ばしても大丈夫だよ!
「よーし、だいぶガラクタは処分できたな」
あれからだいたい5時間くらい経過した。昼を廻っても休むことなく掃除していた三人(とくにゴミを運び出していたヒナ)は、もうへとへとになっていた。ヒナなどもう床に突っ伏して動きもしない。
「あー、疲れた―」
あれだけ山積みだったがらくた共はヒナの重往復により全て撤去出来た。
が、そのゴミがそっくりそのままもとの場所に戻されたことに変わりはない。明日頃になるとゴミ収集に来たおばちゃん達が目ん玉を飛び出すだろう。
「ったく、せっかくの有休が、まさかよそん家の大掃除で終わるとは……」
「ホントだよねー全く」
「俺はお前の“自分悪くないです“的な態度に感服するわ」
しかしカイは全く悪びれのない態度で、ヒナと共に床でへばっていた。そして、猫特有の柔らかい体をぐにゃぐにゃと曲げながら多分全ての人々がむかつくであろう態度で言った。
「つーか、もう掃除終わったんだからいい加減飯にしよーぜ。マヒルー、コンビニ行ってマグロの刺身とまたたびジュース買って来て」
「少なくとも、コンビニにまたたびジュースはない」
即ツッコミ。
というか、俺お客様の上に掃除を手伝って差し上げたのですが。頼む素振りを全く見せずにここまで図々しい態度を取られたのは初めてだ。
すると、カイはマヒルの言葉を聞いて勢いよく胴体だけを起き上げて叫んだ。
「何ぃ!?最近のコンビニは品揃えわりーなぁ、公共料金で運営しやがって……税金返せ!」
「たかが猫のために運営するコンビニなんかねぇよ!」
※全国のコンビニ労働者の方々ごめんなさい
「ていうか、勝手に終わるなよ。まだ匂い残ってんだから、水流さないと」
マヒルはどこにしまってあったのかあったのか、ホースを取り出して言った。瞬間、
ずっと床に突っ伏して死人のように沈黙を守っていたヒナは、マヒルの言葉を聞いて耳をぴくりと動かすと、ものすごい勢いで起き上がった。
「うわっ!どうしたヒナ?」
マヒルは面倒臭がるカイを促して、水道から緑のホースを繋いだ。そして蛇口を捻り、水を出したまさにその時だった。
ヒナはたった一瞬目を反らした隙に音もなく姿を消した――と思ったら、開いている玄関の戸から恐る恐る耳が出て来た。
「……ヒナ?」
「何故外へ出る!?」
声の揃わないツッコミが響く。
だが、そんなの聞くよしもなくヒナは珍しくびくびくと怯えるように体を震わせながら、こちらを恐る恐る覗いていた。その様は縮こまっている兎のようにも見える。頼りなさ気なヒナは、こちらを見るやかすれる声で呟いた。
「水……苦手、水、怖い」「は?」
マヒルとカイは目を点にして互い顔を見合わせた。ヒナは今にも泣きそうな顔で、だが涙がでない蒼い瞳でこちらをじっとりと見つめている。二人はそんなヒナを見てから改めて顔を見合わせた。
「……水が怖いってさ」
「いや、改めて俺に言われても」
ホースからはちょろちょろと水が出ている。ヒナはこんな頼りない勢いの水もダメらしい。それを見ると瞬時に玄関先から顔を引っ込めた。
「まぁ、猫は基本的水ダメだからね」
「そうなの!?」
「俺は大丈夫だけど」
「…………」
それは猫としてどうなのだろう。というか、実際カイは猫なのかなんなのか実態も謎だ。こんなのが主人公でホントにいいのだろうか。
なんだか非人間って変な奴ばかりだなぁ。
……と、マヒルは思った。
「失礼だな」
「心読んだ!?」
じっとりとこちらを睨んでくるカイに気づいて、慌てて我に還るマヒル。なんだか後味が悪い。
すると急にマヒルは話題を思い出して、はたりとあることに気づいた。
「なぁ、じゃあ風呂とかどーすんの?」
マヒルの何気ない質問に、カイはユラリと面倒くさそうに立ち上がって伸びながら答えた。
「それは大丈夫じゃない?現に昨日風呂入ってたし」「み、見たのか!?」
「見ねーよ」
こうゆう話の時だけやけに真面目顔なマヒル。何故なら20数年生きて来たマヒルにとって、後輩が女性と同居するにあたり、女性のそういう一面を見たとなれば先輩としてこれほど重大な事件はないからだ。そんなマヒルに、カイは酷く軽蔑の瞳を向けた。
「マヒルってホントむっつりだよね。こないだメイド喫茶行った時も鼻息荒かったし、メイドさんの足元ばっか見てたし、実は足派とかマイナーな趣味してるし」
「嘘回想すんな!この話初めて見てる人が信じるだろが!ってか俺足派じゃねーし!胸派だし!」
その後でマヒルは、自分の愚かな発言に後悔したのは言うまでもない。
「ったく、いくらやっても掃除終わらねーじゃねぇかよ」
なんとか気を取り直して、マヒルは再びホースを掴んだ。カイに任せるとまた面倒くさがりそうなので今度は自分で蛇口を捻りに行った。そんなマヒルにカイが言う。
「今さら気づいて、バカじゃねーの?」
「テメーはいつか俺が必ず拳で泣かす……!」
マヒルは目の前で余裕ぶっこいてる生意気な後輩を今にも殴りたいという欲望を必死に抑えた。
そんな心情など知るよしもないカイは、ふと玄関先を見た。
「とかいってる間にヒナがいない」
開けっ放しの玄関戸にはいつの間にかヒナの姿がなかった。ていうかいくら人が中にいるからって真昼間に玄関を全開する家があるだろうか。
「そんなに水が怖いのか……」
「ヒナにも怖いものあるんだ」
いろんな思い入れがある中、マヒルはふと何かを思い出したように視線を斜め上に動かしてから、カイに向き直った。
「つーか、お前も今日は仕事ねーのかよ」
「え?マヒルもじゃん」
「そっちじゃなくて壊し屋の!」
ていうか俺はちゃんと有休とってますから!
カイはマヒルのツッコミに、あー……と相槌を返して、思い出したのかわざとなのか、少し面倒くさそうにうなだれながら頭をかいた。
「んー……なんでかねぇ、最近依頼してくる人がいないんだよ」
思いがけない発言に、マヒルはぎょっと目を見開いてカイに食いかかった。
「なんで!?」
「俺が聞きたいよ」
カイは本当に参ったようにため息をついて、窓のヘリに寄りかかる。
「そのせいで俺も生活切り詰めてるから」
マヒルはそんなカイの態度に少し滅入るように俯いた。
そんな訳があったとは、マヒルも思っていなかった。カイは、口は生意気だが腕は立つ。仕事も、口の割にはちゃんとする。しかも俺よりだいぶ若いのに、一人暮らしの上ヒナまで養って……。
すると、カイはあ、と何かに気づいたような声を上げてぽつりと呟いた。
「……だからかも。ヒナがガラクタ持ってきたの」
その言葉に、
マヒルは一瞬何かにガーンと強く打たれて
体を硬直させた。
それが何故なのか理由は分かっていた。分かっていたからこそショックは大きかった。
だがいまさら、ヒナの気持ちが分かったとしてなんになる?
俺は酷く罪悪感に苛まれた。
「べつにマヒルが気にすることじゃないよ」
するとカイは、まるでマヒルの考えを読んだような口ぶりで語りかけてきた。マヒルは本当に申し訳ない気分で俯く。
「まぁ、もし俺がこのアパート出なきゃいけなくなったら、マヒルのとこに行くから」
「速攻責任転嫁ーー!」
さっきまでの“カイにしては優しげな発言モード“が遥か彼方へ飛んでった。
「今ならヒナと、俺が昨日割って失敗した割り箸がついてきます」
「割り箸なんかいるかぁ!!しかも何気に左がでかい!」
「余談だけどさー、割り箸って割って右がでかいと思ってて、左がでかいと思われてんだよね」
「関係ねぇよ!つーかお前の割った使い捨ての割り箸なんかもとよりいらん!」
マヒルのはたき返すような言いように納得行かないカイは、子供らしさを演出しながらふて腐れるように口を尖らせて言った。
「えーじゃあヒナはいるんだ」
「いらな……!くはないけど……」
マヒルの声のトーンが語尾に向かうにつれて小さくなって行く。と同時にどうしようもないいたたまれなさがマヒルを襲って、徐々に顔を赤くし始めた。
「マヒルのエッチ!」
「もうええっちゅーんじゃーー!」
マヒルは目から血の涙を流しながら怒りまかせに、またスリッパでカイの頭をはたいた。
「あーもう!お前のせいで掃除終わらねー!」
「だよねー、掃除屋さんでもいればいいのに」
自分の頭一つ分あるくらいのたんこぶを乗っけながら淡々と言う。
だよねー……とかいまさら他人ごとに言うカイをマジで殴りたい5秒前。
だがマヒルは大人の余裕であえて口裏を合わせた。
「いたらいいなあ」
「呼んでみようか」
そうだよ、始めからそうゆうの呼んでくれれば、俺もわざわざ登場しようとか思ってこんな臭い部屋に掃除に来なくてもよかったんだよ。もう少し早く気づいてくんないかなー、このアホは。
「なんか今の回想にひじょーに殴りたい部分がいくつもあったのですが」
「また心読んだ!?」
おいおい、マジかよ。俺だって説明文にツッコミ入れる能力(?)は持ってるけど……。まさかカイに超能力とか未来予知能力とか、はたまた宇宙人とかそんなオチじゃねーよなぁ。
「……マヒルが何か考えてる時って微妙に声に出てんだよ」
「マジで!?」
マヒルは柄になく本気で驚く。
やばい、じゃあ今まで俺が考えてることは筒抜け……ってか俺が妄想してたあんなことやこんなことがこいつにばれてたってことか!?
「へー、そんなこと考えてたんだマヒル」
「しまったーーーーー!」
カイの軽蔑の瞳がマヒルの心臓を突き刺す。
取り返しの付かないことをしてしまって情けない俺。今度からなるべく物事を考えないようにしようと、マヒルは誓った。
……小さい決意だった。
「つーか、早く呼べよ。あんまりぐだぐだやってると、そろそろ読者様たちが飽きて帰り始めるぞ」
「ちぇー、わーったよ」
すると、カイはてこてこと窓に向かって歩いて行った。何をするのだろう……とマヒルはカイの行く様を見送っていたが、カイは次に窓のヘリに足をつくと、力いっぱい息を吸い込んだ。
「そーじやさーん!」
「誰がそんな典型的なことやれっつったーー!」
今度は竹箒でカイの頭をものの見事スパーンと叩く。カイの叫び声はご町内を巡って小さく反響した。
「もう!いちいち叩かないでよ!俺のチャームポインツである耳が変形したらどーすんだよ!殺すぞハゲ!」
「あげくのはて逆ギレかよ!あーもーマジ訳分かんねーし、ハゲてねーし!」
というか、俺がツッコまないとこの小説勢いだけのバカ話になるじゃねーか!
……いまさらだけど。
「だって俺てっきりタウンページとかから検索して調べるかと思ったのにーー!」
「アホか!そんな面白くないこと誰がするか!」
「窓から叫ぶことがおもしろいことか!!?」
もうなんだか突っ込むのもアホらしくなってきた。マヒルは竹箒をもとの位置に丁寧にしまうと、深くため息をついて再度呆れた。
「もしかしたら来てくれるかも知れないじゃん」
「もしかしなくても、くるはずない」
と、思ったその時
「はーーーーい、呼びました――?」
「来た―――――――――――――――!?」