壊し屋と白い猫(1)
記念すべき第一話。なのにタイトルの白い猫はまだでてこない……。
「あー……ヒマだなあ……」
工事現場の鉄パイプに腰をつき、ボロくてサイズの合わない靴を履いた足をぶらつかせながら言う。
「何がヒマだ!人に仕事押し付けといて……なら働け!」
角材を肩に乗せて必死こいて仕事している青年
――を気にすることなく、鉄パイプに乗っている少年は悠々と缶ジュースを飲みながら、
「いや、俺には今、ジュースを飲みながら休むという仕事があるんで」「そんなのが仕事だったら日本はニートだらけだ!つーか上司に向かっていい根性だなてめぇ」
「はっはっは、褒めても何もでないよ?」
「褒めてねぇよ!このクサレ猫が!」
さて、遅れましたが自己紹介です。
このなかなか生意気な、工事員なのに堂々と休んでる少年は“カイ“。黒い猫さんで、ボロいシューズと緑のジャケットを腰に巻いているのが特徴です。そして先程からカイに怒っているのはカイの仕事場の上司(一応)で“マヒル“特徴はありません。どこにでもいそうなフツーの成人男性です。
「俺の紹介それだけかよ!?」
「誰にしゃべってんの。マヒル」
で、この二人は何を隠す必要もない、工事現場で働く会社員。
そして今日も元気にサボタージュ中。
「働けーーーーーーーーーーーー!!!!」
「うわぁ、びっくり」
「なんで上司である俺が必死こいてこの炎天下の中、見たくもない汗だくなオッサン共と働いてんのに、お前は悠々と冷たいジュース飲んでくつろいでんだよ!」
「何をいまさら……そんなの決まってんじゃん」
「俺だから」
「うわー!いるよいるよ年下の癖にめちゃくちゃ生意気なやつ!うっぜーーーー!!」
「怒ってばっかじゃシワ増えるよ」
「哀れんだ目でみんな!余計なお世話じゃ!」
…と、いつものようにこんなやり取りをしている二人だが、
カイは実はマヒルの言う通り格下なのだ。ちなみに本業は……。
「ん?」
ふと、晴天の空からの日差しを遮る影に気づいて、マヒルは視線を上にパーンさせた。
刹那、そのまま影の主は、マヒルがその姿を目にとめる前に急降下して見事、マヒルの頭に衝突した。
「痛ぁぁぁ―!」
「おっと、仕事だ」
――そう、
カイの仕事はこれだ。
「どれだよ!」
マヒルはいまだに自分目掛けて突っ込んで来たカラスの嘴を額に突き刺したままでいる。
「よく見ろよ。このカラス、口に手紙くわえてるだろ」
「今その嘴が俺の額に刺さってるんですけどねぇ」
額にヒットしたカラスはカイによりマヒルから引っこ抜かれる。
「さて、えーっと、なになに...三丁目の路地にあるガレキ処分...俺は粗大ゴミ掃除屋じゃねっつの」
カイはマヒルの返り血に汚れた手紙を読む。
もちろん、カイは粗大ゴミ掃除屋などではない。
壊し屋
人は彼をそう呼ぶ。
まぁ自称だが。
「自称かよ!?」
「なぁ、さっきから誰としゃべってんの?」
壊し屋は、まぁ簡単に頼まれたモノはなんでも
“壊す“仕事。
「はぁー……よりによってガレキ処分かよー」
「そういうのが仕事だろ、壊し屋って」
「…………」
ふと、カイは一瞬、遠くを見るような目で何かを思った……気がした。
「ん?どした?」
「いや……」
そうして、何気なく首筋をさすって、何となくダラけて見せた。
――と、思ったらすぐに、カイは鉄パイプを蹴り上げ、横に立てかけてあった少し歯の欠けているツルハシを掴むと、ひょいと身軽に地面に足をついた。
「じゃ、俺行くから、所長にはうまいこと言っといて☆」
カイは目配せをしてマヒルに手をひらひらと振った。
「あーはいはい……って、えーっ!俺怒られ役決定!?」
まだ仕事始まって1ミクロも働いてないというのにも関わらず、揚げ句の果て上司に仕事押し付けてバックレるだと!?
カイめ〜帰って来たら覚悟しろよ……!!
……と言おうとした時にはもうカイの姿はなかった。