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ちぐはぐな僕らの異世界冒険譚  作者: 橙矢雛都
第1章 篠宮 那都《賢者》
9/40

9.『状態変化』と心の疲弊




けどまぁ、人の性格についてどうこう言う気は僕にはない。

僕自身が難ある性格だとよく言われるから、自分と同じような人ってすぐ分かるのかも。

同族嫌悪? いや、違う。何に対しても嫌悪したことは誓ってない。

けれど何でだろう。向こうにいた時は他人に対して何とも思わなかったのに。



「ナツさん、でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい」

「ナツさんは、《賢者》であるとか…」

「まぁ、そうですね」

「わっ、私にっ… ま、魔法を教えてもらえませんか?」

「……は?」

「い、いきなりでしたよね。すみません…」



僕の独特な返しとほんの少し空いた間に、ルカリオ様は僕が不機嫌であると勘違いしたようだ。

元々気が弱いみたいで、緊張でたどたどしかったのがさらに萎縮してしまっている。

騎士、だよね? この人。騎士なのに魔法?

魔導師団というのもあって、騎士団もあるからその辺の役割というか、適材適所的なのがあるのかと思ってたけど。

まぁ、人が何をしようがその人の自由だ。ルカリオ様も理由があってそういう申し出をしてきたのかも。

…でも、何で僕?



「理由を、お聞かせいただいてもいいでしょうか?」

「はい、もちろんです。私は、先程申しました通り、第二騎士団に所属しています。主に剣術の訓練をしています。けれど、魔法と剣術を組み合わせて戦う者も、少数ですが存在します。戦闘に使用できるほどの適性と魔力持ちの人だけですが」

「失礼ですが、ルカリオ様には適性は…?」

「学生の時に判明したのは水属性です」

「水属性……」



ルカリオ様的に、水属性の魔法をどう戦闘に生かすかが問題なのだろう。

僕もあまり想像できない。《水》のみでどうやって…



「水のみ、って考えてるから駄目なのか…」



状況次第で水というのは何にでもなれる。

氷だったり、霧だったり。姿形だって、どうとだってできるはず。

そういう考え方でいけば、想像力の高さがものをいうだろう。だけど全ての属性を扱える僕では試すことはできない。

僕はルカリオ様に許可を得て、ステータスを鑑定させてもらった。

適性は水属性。これに間違いはなかった。

ならばと僕は重ねて説明をする。水の状態変化について。想像力でどうにかなるかもしれないこと。


まずは初歩の水球を出してもらった。

冷えれば凍る。温まれば蒸発して霧になる。ざっくりとした解釈と説明だったが、ルカリオ様は真剣に聞いていた。



「冷えれば凍る… 冷えれば凍る…」



ぶつぶつと呪文みたいに唱えながら、水球を連続して発動していくルカリオ様。

僕は出現した水球に、出現した順に触れていった。ただの水なのでなんの問題はない。


そう、ただの水。正直言って氷と呼ぶには遠い。

でも理解力と想像力、魔力の操作力はあるほうなのか、水の温度はだんだんと下がっていっているようだった。10分もすればキンキンに冷えた氷水くらいの冷たさになっていた。

もしかしたら本当に出来てしまうかもしれない。このまま練習を重ねれば、それも可能なんじゃないかと思えてきた。

氷にすることが出来たらきっと霧にだって出来るだろう。

MPとの相談にはなるかもしれないけど、まぁ、そこは追々。


そしてついに。



「あっ……」

「えっ!? ど、どうされました?」

「……この水球、薄いですけど、表面に氷の膜が」

「…! できた…? まだまだだけど、でもちょっとできた!」



ルカリオ様は、自分でまだまだだと分かっているようだ。

けれども一歩前進、やればできるのだと自信をつけたルカリオ様は表情はとても明るくなっている。

今日はMPが心配なのでこれで終わるそうだが、練習は今後も続けるみたいだ。

その後の経過は僕も気になるので、何か進展があったら教えてほしいと言うと、満面の笑顔の二つ返事で了承してくれた。


…ルカリオ様のこの明るさも僕には眩しい。

悪い人ではないし、嫌いでもない。ただ、僕に免疫がないだけである。



「そういえば、ナツさんはどちらに行かれる予定だったのですか?」

「騎士団の、訓練場に行こうかと。試したい魔法もありますし、今なら魔導師団の師団長様もいるかもと、シルフリード様がおっしゃっていたので、色々話を聞きたくて…」

「あわわ… それを私が引き留めてしまっていたのですね…! すみませんすみません」



引き留められたことに関してはなんとも思ってないのだけど、ルカリオ様はそうじゃなかったのかぺこぺこと頭を下げだした。

なんかもう、その光景に慣れつつも一緒に行きましょうと提案する。

その間にいろんな話をした。

騎士団と魔導師団の違いとか、役割とか、あと仲の良さとか。

仲は()()()()悪くはないらしい。基本的にということは一部違う人もいるのだろうか。

ルカリオ様が所属する第二騎士団は大丈夫なようで、リック様を始め、みなが良好な関係だということで何故かホッとした。

こっちの世界の顔見知りの人たちだからかな?


以前の、元の世界での僕なら顔見知りってだけでそんな風に思ったりはしなかった。

元の世界とこの世界とで何が違うのか、僕は自分のことなのに分からなかった。環境が違うのは言わずもがなではあるけども。



「ナツさん? どうされました?」

「え…?」

「心ここにあらずみたいな顔してました。お悩みごとでも…?」

「悩み…なんでしょうか。この感情が、自分でも分からないんです。今の僕も、昨日までの僕も、同じ僕であるはずなのに。自分が自分じゃない気がしてしまって…」



帆高たちといた僕だって僕なんだ。

昨日の今日で人って変わったりするものなのかな。

だからといって昨日に戻りたいとか、そういったことはあまり思わない。戻ってそこに帆高たちがいるのなら話は別だが。


……そこでふと、僕は思ってしまった。

マーシュ様やウルガー様。シルフリード様たち、僕が出会ったこちらの世界の人たちはみな優しい人だった。

けれどもここは、僕がいた世界じゃない。

「僕」を形成していた世界じゃない。

どこか現実味がない時間。それでも突きつけられる現実。

無性に、あの3人に会いたくなった。



「友達に、会いたい、です…」



ぽろりと出た本音。

それを聞いたルカリオ様は少し困惑した顔をしていた。

それはそうだと、言ってしまった後で僕も思った。事情も分からない中で突然そんなこと言われても、どうしたらいいか、どう返すべきか分からないだろう。


本当に、帆高たちはこの世界にいるのだろうか。

魔法陣が4つあったといっても確証はないわけで。確認はしてくれると言っていたけど、最低でも1週間はかかるわけで。

昨日の今日でいろいろありすぎたせいか、1日がとても長く感じるようになっていた。



「とても大切な、ご友人なんですね」

「幼馴染でもあるんです。特に、帆高とは…」

「ホダカ、さん…?」

「一番、付き合いの長い… 兄弟みたいに、育ちました」

「羨ましい。気のおける友人や兄弟がいるというのはとても幸運なことです」

「僕自身は、一人っ子なんですけど… ルカリオ様は、ご兄弟は?」

「歳の離れた兄が2人。双子なんです。一回りほど離れていまして、頼ったり、甘えたりというのはほとんどなかったですね」



なんてことない、普通の会話が僕には心地よかった。ただ友達の話、兄弟の話をしただけだったのに。

さっき感じたもやもやが少しは晴れた気がした。



「もしよかったら、今度ゆっくりお話しませんか?」

「…え?」

「全部ではないですが、ナツさんのことは聞いています。きっと、知らず知らずの内に心が疲弊してるんじゃないかと思うんです。何も考えていなくていい瞬間を作りましょう。僕なら、いつでもお話相手になりますよ」

「………」

「お、お嫌でしたか…?」



そんなことを言われたのは、こっちに来て初めてだった。

何も考えていなくていい。本当に?

帆高たちを思い出さなくていいというわけではなく、ただほんの少し休憩をしようと言ってもらえた気がした。

僕はそれが嬉しかった。

無意識に、少し笑っていたみたいで、ルカリオ様はきょとんとしていた。



「…ありがとう、ございます」

「え? あ、いえ、どういたしまし、て?」

「ぜひ、話し相手になっていただけますか?」

「…喜んで」

「敬語は、外してください。僕、たぶん歳下ですし…」

「え? おいくつ……」

「17、です」

「えぇーー!?」



どうやら同じ歳か少し上に思われていたらしい。

聞いてみればルカリオ様は18歳とのこと。そんな変わらないし、そもそも僕は敬語とかタメ口とか気にしていない。

だから仲良くなれそうだと思ったルカリオ様には、徐々にでいいから敬語を外してもらえたらと思っている。


僕が歳下だったショックが抜けきらないのか、顔を真っ赤にし、両手で覆い、ぶつぶつと何かを呟いているルカリオ様。

いるなぁ、こういう人。とか思いながら、聞こえてきた訓練をする声の方に顔を向ける。


そこには今朝と変わらず第二騎士団の人たちがいた。奥にリック様がいるのも見える。

シェリラ様の事があったからか、訓練にものすごく身が入っているようだった。そりゃあ、国の要人を守るのもこの人たちの仕事なんだよね。

ふと、リック様の隣に見慣れない人がいるのに気がついた。

独特な雰囲気を放つその人。もしかして、あの人が魔導師団の師団長様なのかな?



「ナツさん、リック団長の隣にいるのはニフリート様。魔導師団の総師団長様です」

「総師団長?」

「魔導師団も騎士団のように、いくつか隊分けされていますから。それら全てを束ねる人を総師団長と呼んでいます」



なるほど、本当の意味でのトップの人というわけだ。

なら騎士団にもいるのだろうか。総長的な?

じっと見つめていたら気づかれて目が合った。吸い込まれそうな翡翠の瞳。なんだか不思議な感じがした。

隣にいるリック様に話しかけている。…あ、リック様も僕たちに気づいた。



「ナツ殿、訓練場をお使いになられますか?」

「あ、端の方でいいので…」

「広く使ってもらってもいいですよ。ナツ殿、紹介します。こちらは魔導師団の総師団長、ネフリティス・ニフリート様です」



ニフリート様は僕を見てニッコリと笑った。

若い。非常に若く見える。そして美形。

息をするのも忘れそうなほどの顔立ちの良さ。異世界の人って、基本的に見た目がいいのは読んでいたファンタジー小説と変わらないのかもしれない。


ニフリート様はなぜここにいるのだろうか。さっきの騒動を聞きつけてだろうか?

王妃と、王妃の温室が被害を受けたのだ。それなりの早さで情報が回っていてもおかしくはない。

すると、僕を見るニフリート様の目がスッと細められた。




ルカリオ・フェリーザ

第二騎士団所属。18歳。

侯爵家の三男。一回りほど歳の離れた双子の兄がいる。

騎士団に所属しているとは思えないほど気弱。けれどとても優しい性格なので、街の人たちからはわりと人気がある。

親にも兄たちにも甘えたり頼ったりしたことがない。なので甘え方を知らない。

気弱だが、剣の腕はまぁまぁある。那都に魔法を教えてもらうようになってからは、能力値が飛躍的に伸び、剣と魔法を組み合わせた戦い方で後に他国からも注目を集めるようになる。

シルフリード同様、友人が心配すぎて国を飛び出した那都についていった1人。

異世界に来た那都から初めて友達認定され、後にお互い敬語は外れ、呼び捨てで呼びあうようになる。




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