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ちぐはぐな僕らの異世界冒険譚  作者: 橙矢雛都
第1章 篠宮 那都《賢者》
8/40

8.シルフリードと魔力回路混濁




なんにしてもこれでシルフリード様本人の許可は取れた。

それにうまくいけば、プラスαの結果が付いてくるかもしれない。まぁ、それはシルフリード様次第でもある。

シルフリード様は緊張した表情で僕を見ている。

2人きりのこの空間で、これから行うのはシルフリード様のステータス鑑定だ。それ以上でもそれ以下でもないけども、なんだか僕の方も緊張してきた。



「それでは、やりますね」

「…お願いします」

「(鑑定)」



向かい合って、シルフリード様をじっと見る。

声には出さずに心の中で、スキル名でもある『鑑定』を唱えた。

その直後に目の前に現れる鑑定結果。今更だけど、モニターみたいなんだよなぁ。



―――――――――――――

シルフリード・ル・トリーディル   Lv.18


《イーストペイド国 第一王子》

《   》


種族:人間

状態:魔力回路混濁

HP:1000/1000(固定)

MP:1000/1000(固定)


適性魔法属性:水属性 土属性 風属性 雷属性

スキル:製薬 探索魔法 精神強化《上》

    物理耐性

―――――――――――――



何らかの状態異常になっていると思っていたけど、どうやらその予想は当たっていたみたいだった。

数字だけを見ればけっして悪いことではない。でも、(固定)というのが気になるし、職業(ジョブ)の部分が空白っていうのも気になる。



「どうでしたか…?」



シルフリード様は不安そうな目で僕を見てくる。

そりゃそうだ。「ステータスを見る」と言った人間が、難しい顔して何もない空中を見つめていたらどうかしたのかと思うだろう。

けれど、これはどう説明したらいいのか。

症状を伝えるだけなら簡単だろう。伝える()()なら。



「シルフリード様は、魔力回路混濁という症状が出ています」

「魔力回路混濁…?」

「えーっと… 身体中を巡る魔力の通り道が、何らかの理由で混ざって、濁って、魔力が通りにくくなっているようです」



それらの影響が固定という表現や、魔力属性の把握に干渉してしまっているんだろう。

当たり前だが、魔力回路混濁という症状が僕にはよく分からない。さっきシルフリード様に言った説明で間違ってはないと思うけど。

それだけじゃない気がする。じゃなきゃ(固定)というのに説明が思いつかない。

どう説明したものかと考える。ふと、この僕にだけ見えているステータスが他の人にも見えたらな、と思った。



「シルフリード様、ちょっと別の質問なんですけど」

「はい、なんでしょう」

「ステータスとかって、通常自分で見ることはないんですか?」

「そうですね… 魔力の高い者か、もしくはスキルによる能力でしか見ることはありません。自分の、ましてや他人のなんて見ること出来ないですね」



まぁ、確かに。日常的に見ることがあったら、状態異常になっていると早く気づいただろう。

他人のステータスまで見ることのできる、《鑑定》のスキルを持っている僕が珍しいのだとシルフリード様は言った。

スキル、か… そういや自分のステータスで気になる部分が残ってたのを思い出す。

いくつか並んだスキル名の最後に etc とあった。なんなんだあれは。続きがあるとでも?

表示しきれないほどあるというのか。だとしたら僕ってほんとなんなのだろう。



「ん… 感覚、共有……」



自分のステータスを開いて etc の文字をじっと見ていたら続きが表示された。見るのはクリック機能なのか。

追加で表示されたスキルの中に《感覚共有》というのがあった。

どういうスキルなんだろう。もっと詳しく知りたくてクリックするべく文字をじっと見た。



――――――

【スキル・感覚共有】

自分の五感全ての感覚を他者と共有できる

その逆も有り


発動条件:相手に触れていること

――――――



これはちょうどいいスキルかもしれない。

僕だけにしか見えていないステータスを、シルフリード様にも見てもらうことができる。…かも。

代償が必要とかがあるわけではなさそうだから、試してみる価値はある。

僕はシルフリード様の手をとった。シルフリード様の肩がびくっと跳ねる。驚かせてしまっただろうか。



「あああ、あの…?」

「すみません、いきなり。シルフリード様にもステータスを見てもらいたいと、思いますので」

「私、にも…?」



うん、そりゃあどういうことだと思うよね。

僕は、僕の予想が当たると信じて実行する。万が一、シルフリード様に何かあってはいけないので集中だ。

集中して、シルフリード様の手を握る手にほんの少し力を込める。

―――【感覚共有】―――

そう心の中で唱える。

そしてもう一度、シルフリード様のステータスを鑑定し、表示されたものに目をやった。



「シルフリード様、見え、ますか?」

「え…… こ、これは…!」

「おそらく、僕が見えているものと同じものが見えていると思いますが、これが、シルフリード様の現在のステータスです」

「これが、私の…」



初めて見るものに興奮している幼子の、キラキラした瞳をしている。

上から下まで、表示されている全てを何度も見返している。

僕はその間ずっと黙っていた。誰にだってその興奮に浸りたい瞬間というのがあるからだ。

一通り見終えたのか、シルフリード様は僕の方を見た。



「あの、固定って…」

「魔力回路混濁の症状の1つだと思います。それ以上、成長することがないという意味だと思うんですけど…」



スキルの詳細を見れたなら、症状の詳細も見られるはず。

そう思った僕は症状の部分をじっと見た。思った通り、反応してくれた。

携帯の検索機能みたいで楽だなぁ。わざわざ調べにいく必要がないので今すぐ行動に移せそうだ。


――――――

《魔力回路混濁》

身体中を巡る魔力の通り道に塊ができて、魔力が流れにくくなり、循環を阻害している。

HP、MPが上昇、急成長するが、固定されて一定数値以上になることはなく、それ以上の成長が見込めなくなる。

急成長した後の固定される数値は個人によって違う。


治すには、その者の持つ魔力属性と同じ属性の魔力を一気に、同時に、同量を他者から流し込んでもらう必要があり、持つ属性が多ければ多いほど困難になる。

――――――



「これは… 必ずしも悪い症状、というわけではなさそうですね」

「数字だけ見れば、むしろ優秀な方だと捉えてもいいかもしれません。ただ、それは騎士とか魔導師を目指しているわけではない人のみに当てはまること、かと…」

「確かに… 前衛や戦闘に出る人たちにとって、それ以上の成長が見込めないというのは…」



ただ普通の、戦闘職や研究職以外の、あまり魔力を必要としない職を目指す人たちならば、あまり気になることのないものなのかもしれない。

その場合はなんとかしよう、治療しようなどと考える人が多くない可能性もある。

シルフリード様はなんとかしたいと言っていた。戦闘する意志があるのかどうかはひとまずおいといて。

治す方法が記されているのは幸いだったが、ざっくりしていて逆にどうしたらいいのか分からない。調べようにも人に聞くとか、誰に聞けばいいのか。



「シルフリード様、過去にも、そして今もこの症状の人がいるんですよね?」

「本当に魔力回路混濁かどうかは分かりませんが、私と同じような感覚に陥っている人には何人か心当たりが」

「治ったという話を聞いたことは?」

「いえ、私は聞いたことありません」

「知ってそうな人はいますか?」

「おそらく、誰も知らないと言っていいかと。魔導師団の師団長様や、その他研究職の人には一通り相談して、思うような答えは得られなかったので…」



つまり、現状では解決策はないに等しいということだろうか。

それどころか魔力回路混濁という、症状名すら認知されていないのかもしれない。

そうなると文献など、記録としてはほぼ残っていないだろう。

例の問題の件も考えなくてはいけないけど、どうにかしてあげたいと思う。



「あの、ナツさん……」

「どうしました?」

「…手を離していただけると……」

「あ、すみません」



シルフリード様にステータスを見せてそのまま長考していたから、そう言われるまで気づかなかった。

僕はぱっと手を離す。

不快な思いをさせてしまっただろうか。そう思ったのだけど、顔は赤いが嫌がっている素振りはみられなかった。どうやら杞憂だったみたいだ。

シルフリード様をじっと見ていたら1つ思いついた。

その症状にかかる条件というか、もっといろいろなパターンを見てみたい。

乱雑な言い方をするなら、サンプルがもっと欲しい。

集められないだろうか。



「…シルフリード様。分かる限りでいいので、その症状がある人に声をかけてもらえますか? その人たちに説明を(おこな)い、了承を得た上で鑑定をしたいと思います」

「分かりました。すぐに手配しますね」



そう言ってシルフリード様は今いる部屋から出ていった。…と思ったらすぐ戻ってきて扉から顔だけ出した。

挙動や距離感がなんかもう、友人。不自然でも違和感でもないから別にいいんだけど、それに慣れてしまっている僕もどうなんだか。



「あ、もし魔法の件に関して何かしたいということだったら、父上が言っていたように、騎士団の訓練場をお使いくださいね。リックさんもいますし、たぶん今だったら師団長様もいらっしゃいますから」

「師団長様…?」

「はい、現在の魔導師団の師団長様です。誰なのかは見ればすぐに分かるかと」



なんかその人が特徴的だとでもいうような言い方。

見た目が? 実力が? または両方だったりして。

マーシュ様が言ったように、案を出すのは別にかまわない。僕の案、というか元の世界での案というか。どちらでもいいけど、こちらの世界の人の考え方も聞いてみたかったから。

もしかしたらいるかも、ということらしいから会えることを願おう。ついでに言うと話しやすそうな人がいい。



『…! ……!…!』

「ん?」

『…!? …!……!!』



シルフリード様が本当に行かれてから、なんか僕の脳内に響いた声。

何て言っているのかは分からない。でも、なんか助けを求めているような様子の声な気がする。



「キミは、誰…?」



声に出して聞いてみても返事はない。

届いていた声も聞こえなくなった。

人、ではないように思う。じゃあ何かと言われても分からないのだけど。

気のせいかとも思ったけど、気のせいではないみたいだ。脳内に響いていた余韻がまだ残っている。

また聞こえるかもしれないと思い、とりあえずはおいておこう。

そう思いながら僕も部屋を出る。向かうは騎士団の訓練場だ。



「あ、あの…!」

「…?」



近づいてきたところで呼び止められた。

振り向くとそこには騎士さんが1人。まだずいぶん若い。

僕やシルフリード様とそう大して変わらない年齢かも。でも服装から騎士であることは確かだから、成人はされているはず。

そんな彼に話しかけられた理由が分からない。

緊張しているのか、話しかけてきた彼もそれ以上は話そうとしなかった。

僕は別に待つのは嫌いじゃないので、そのまま話し出してくれるまで待ってみる。時間もないようであったりする。



「えっと、ぼ、僕っ……いや、俺…じゃなくて、えぇと…」

「……」

「私はっ! 第二騎士団所属のルカリオ・フェリーザといいます!」

「はぁ…」

「貴方に、き、聞きたいことがっ……」



まず名乗ってきたことからきちんとした人だとは思うのだけど、どうやら緊張しい人のようだ。

第二騎士団ということはリック様から何か聞いているのだろうか? それとも今朝の様子を見ていたのだろうか。

なんにしても、聞きたいことがあるということなので僕は聞く体勢になる。

でもルカリオ様はこれが地なのか。向こうの世界でも彼のような人は僕の周りにいなかったから、どう対応するのが正解なのか分からない。

できれば普通にしていてくれたら楽なんだけどな。




ちょっとした補足。

魔力回路混濁の「塊」というのは「血栓」のようなものだと思ってください。

血栓ほどガッチリはしてないけど大体同じ。

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