7.疑問と思案
周りに被害が出ない方法。
僕が思いつく方法はいくつかはある。ただ、それがちゃんと実現可能かどうかは試してみないと分からない。
幸い、僕は適性魔法属性∞なので、属性には困らない。複数の属性で、まずは僕が試せるだけ試して、それぞれの属性を持つ人にやり方を教え、イメージを共有出来ればいけるんじゃないかと思う。
まぁ、口では簡単に言えるけど実際どうなるか。
見ず知らずの、ぽっと出の僕の言うことを信じてくれる人がどのくらいいるのか。
「やりようは、あります。試してみないことには何とも言えないですけど…」
「魔法の試し打ちをする場所は用意しよう。ナツ殿、その案をまとめておいてもらえないか?」
「分かりました」
「ウルガーから聞いたが、先程までは騎士団の訓練場を使用していたらしいな。今日このあと早速やるというなら、とりあえずそこを使ってもらうとしよう。許可は伝えておく」
シェリラ様の回復をしたり、大きな氷魔法と風魔法を使ったけど実はそんなに疲れていない。
そういや僕のスキル欄に《魔力回復速度》というのがあったな。あれってたぶん、字面通り、回復するのが早いですよーってことだと思うんだけど…
どの魔法がどのくらい魔力を使って、どのくらいの速度で回復するか検証前なのでまだ分からない。だからこの件は一旦置いておく。
「父上、ナツさんのお手伝いをしてもいいですか?」
「そうだな… 元々講師をつける予定ではあったし、歴史や最低限のマナー程度ならシルフリードでも問題ないな。シルフリード、ナツ殿のサポート、しっかりやるんだぞ」
「はい!」
んん? なんか流れでよく分からないことが起きたぞ。講師って?
魔法以外で、色々と教えてもらえることがあるならそれはそれで好都合ではあるのだけども。
でも、今から知らない人を付けられるより、シルフリード様の方がマシなのかもしれない。彼もあまり知らない人ではあるけども、シルフリード様に対しては抵抗感も警戒心もほぼほぼなかった。
プライバシーの侵害になるのでステータスは見ていないけど、きっと優秀なんだと思う。
マーシュ様もシェリラ様も優秀なようだから、もしかしたら遺伝かもしれない。それはそれで辛いところがあるな。
「これからよろしくお願いします。ナツさん」
「……よろしく、お願いします」
「敬語はよろしいですよ。年齢、あまり変わらないですよね?」
「僕は、17です」
「ほら、やっぱり! 私は15歳です。ナツさんの方がお兄さんですね」
人懐っこい笑顔で、光輝いている。あう、眩しい…
積極的とはこの事か。ぐいぐい来るなぁ、この方。僕の周りにはあまりいなかったタイプだ。
だけど、不思議と心地が良い。眩しいけれど、嫌な気分にはならない。
「シルフリード様は、魔法に興味があるんですか?」
「敬語はいいのに… えと、どうしてそう思ったんですか?」
質問に質問で返された。けど、どうしてそう思った、か……
シルフリード様って、ほんのちょっとでも魔法が絡む話題が出ると表情が変わるんだよな。
なんていうか、わくわく顔。好きなのかな?
マーシュ様が僕より歳下であろう、シルフリード様を講師に任命したのもそんな息子の性格をよく知っていたからこそなのかもしれない。
歴史やマナーはともかく、魔法に関しては僕はおそらくずば抜けているから。自分で言うのもなんだけど。
「好きなことを考えてる時って、楽しくなりますよね」
僕も、そうだから。
ゲームや小説が好き。帆高たちと一緒にいることが好き。学ぶのが好き。
それらに夢中になっている時、楽しそうだと帆高によく言われる。うっすら笑っていることもあるって言われたこともある。
言われてから、みんなの様子も見るようになった。帆高の好きなもの。隼斗の好きなもの。瑠璃の好きなもの。
あの3人の考えてることなら、よく分かる。
人をよく観察するようになったからか、多少のことなら初対面でもすぐ分かるようになった。
「すごいなぁ」
「?」
「そうです、僕は魔法が好きです。座学でも、実技でも魔法に関することは全部好きです。魔法を利用して何かを作るのも好き。だからというわけでもありませんが、母上の製薬にも興味を持ったのです」
「魔法を使って作るから…?」
「はい。製薬は、スキルが無くても製作には問題はないです。あるのとないのとでは質に違いが出る程度ですけどね。水属性か、土属性の適性があれば問題なく作れます」
そういえば、シェリラ様は水と土、両方の適性があったなぁと思い出す。
それに製薬のスキル持ち。薬師にはもってこいだったということか。その他のスキルも薬草栽培に適していたし。
そこでふと、気になった。適性やスキルは遺伝するのかと。
僕はシルフリード様をじっと見る。鑑定はしていない。ただ見てるだけ。
前にも思ったけど、プライバシーの侵害だ。シェリラ様の時ような緊急時を除き、他人のステータスは見ないと決めた。個人情報は大事。
まぁ、頼まれたら別だけど。
「ナツさん? どうされました?」
「あ、いや、シェリラ様を手伝ってたってことは、シルフリード様にも水と土の属性があるんですか?」
「……ある、とは思うんですけどね」
僕の質問に歯切れの悪い解答が返ってきた。
表情も少し困り顔だ。おそらくは、とかたぶん、とか確実にあるとは言い切れない理由はなんだろうか。
王子という立場だから教育的には問題ないはず。学ぶべきものはこれでもかってくらい学んでいるとは思うし、あと理由としてあげられるものは…?
考えに考えて、ある1つの可能性が浮かんだ。でもこれは、本人に聞いてみないことには…
「いくつか、質問します」
「はい、答えられる範囲なら」
「まず、この国に教育機関はあるんですか?」
「そうですね。イーストペイドは貴族とか平民とか関係なく学ぶことができます。まぁ、学費の関係上、来られない人もいますけど。自分の学びたい科目を選んで授業を受けるやり方です。でも、全生徒1年目の時の必須科目が魔法。多かれ少なかれ、全員が魔力を持ってますから」
「その内容は?」
「自分の中の魔力の流れを感じることから始めます。その時に感じた特徴から、自分の適性属性を判断します。例えば、火属性だった場合、熱く燃えさかるようだとか、赤い色が見えるとか、火に関する事柄が感覚として現れるのです」
「…シルフリード様、は?」
「それが、未だによく分からなくて… もう卒業する年なのに…」
この様子だと、水属性の特徴も、土属性の特徴も感じられてはいるようだけど、何かがおかしいようだった。
その何かが分からず、解決法も見つからずで10歳の入学から今までずるずるとやってきたのだとか。
理由が分からずじまいの5年は相当辛い。
魔法が使えないわけではない。何かがおかしいだけ。
「……他に、何に気づきましたか?」
「えっと… そういえば、学院に入学する前は普通でした。予習、とでも言いましょうか。家庭教師からや、母上から教えてもらってたので魔法操作は上手いって言われてた方でした」
「やっぱり…」
「ナツさん?」
「シルフリード様、一度、ステータス鑑定をさせてもらえませんか?」
「ステータス鑑定ですか? で、でもあれは魔導師団の師団長クラスの人じゃないと鑑定は使えな……… あ、ナツさんは賢者だから…!」
どうやら鑑定のスキルは後天的にも取得可能らしい。
もちろん最初から持ってたって人もいるにはいるが、その人を探すよりかは魔法を極めて、スキル取得を目指した方が早いのだそう。
これで、シルフリード様が了承すれば鑑定が行える。たぶん、僕が予想した通りの鑑定結果が出ることだろう。
けれどシルフリード様が拒否すれば当然、行えない。そうなったらなったで仕方がない。
シルフリード様は少し考えているようだ。
僕はこれ以上、口出しすることもないので返事があるまでじっと待つ。
「ナツさん。その結果は、教えてもらえるんでしょうか?」
「それは、シルフリード様のことなので、もちろん」
「ステータスに、原因究明の糸口が?」
「僕の予想が正しければですが」
「………」
信じられない、といったように黙りこむシルフリード様。
よほどこの問題に悩まされてきたようで、解決したい気持ちはあるようだけど、決めきれない気持ちもあるみたいだ。
僕としては、僕に対しての負担はあまりないだろうし、才能ある者が1人でも多くいるのは助かるのだ。
例の問題対策として、僕がいろいろ案を出すのはいいけど、それを僕以外で試せる人材が必要だ。
土属性を持っているはずのシルフリード様がその実験に加わってくれるのなら、これほど心強いことはない。
「…お願いします。僕も、父上の、国の役に立ちたい。母上を守れる方法を身につけたい!
それに、他にもこの症状が出ている人がいる。僕が治れば、その人たちにも希望が生まれる…!」
途中から敬語が外れ、一人称も『私』から『僕』になっていた。こっちが地なのだろうか。
その様子からどれくらい悩んでたのかが分かる。けれど立場上、その感情を表に出すことは出来なかったのかもしれない。
気丈に振る舞わなければならない中で膨れ上がっていく不安。自分のことは後回しにして重なっていく我慢。
やっぱりシルフリード様は、帆高と同じような性格だ。
ほんの少しの補足。
イーストペイドでは、10歳で学校へと入学し15歳で成人と共に卒業する。
学生でも冒険者として登録できたり、奨学金制度もあるので、あまり裕福ではない家でも子供を通わすことができる。
卒業後の進路補佐もしっかりしている。
大体は騎士や魔導師、家業を継ぐことが多い。
冒険者としてそのまま活動する人も。