授業と仕送り
誤字の報告、本当にありがとうございました。
投稿前に確認してるつもりでも節穴から誤字が漏れてしまう様です。
今後も精進したいと思います。
第二演習場。校舎から少し離れた場所にそれはあった。
学校自体が広大だから、その演習場も何気に広く造られてるのよね。
実技試験で使われた第一演習場は、私が壊してしまったんだけど、サーディクの例のノートに【便利な土魔法】の項目があって、建築技術やゴーレム製造等が書いてあったので、それに習って直しておいた。弁償を求められる前に。
その第一演習場は2年生が使うとのことで、今第二演習場に皆を引き連れてやってきたとこだ。
ここも第一と同じ様に約25m四方の床に頑丈な石材を使っていて、その一辺に棒の先端に丸い形の木が四つ的として設置してあるのだ。
これから皆の予想通り、端からその的を攻撃してもらうのだけれど、何分皆は無詠唱魔法を始めたばかりなので、今日だけは攻撃魔法の技の名前だけは声に出して構わないことにした。
「今日だけは、ですか?」
今日自分の受け持つ授業が無かったとのことで、見学に来ていた教師が質問してきた。
「技名を言いながらだとイメージしやすいからです。例えば火魔法であの的を攻撃する際、矢の様な攻撃魔法なのか、槍で突いたような攻撃魔法なのか、そのイメージを技名を言うことで固定出来やすくなるんです。しかし私はそれを推奨しません」
「それは何故ですか?」
「敵にどれ位の威力の魔法であるか、又、声に出せば気付かれて警戒する時間を少しでも与えてしまうからです」
「ちょっと待って下さい。攻撃魔法のみ重視していませんか?」
「防御についても同じです。具体的にどんな結界魔法を張るか技名を言ってしまえば、それを破る魔法が使われた時に命を落とすこともありますから」
教師は一瞬口ごもったが、呆れた様にこう返してきた。
「失礼だがダークサイト家はそんなに野蛮なのでしょうか?こんなに平和な世の中で、そんな魔法ばかり教えるなんて。もっと便利で王都の為になるような魔法があるでしょ?ここの生徒を戦士にでもするおつもりか!?」
え?ちょっと待って。どういうこと?
図書館にあった詠唱魔法についての本には、確かに農業関係、生活魔法に関しての魔法陣がズラっと載せてあった。
サーディクのノートには、それを上回る効果が出る魔法の発動の仕方も書いてあったけど、そっち系を教えろってこと?
てっきり敵国が攻めて来た時に対抗する術として、無詠唱魔法を取り入れたいって考えだと思ってた。それは私の先走りだったってこと?
強くなりたいって皆言ってたから、的当てが上手く出来たらバトル形式に持って行こうと思ってたけど、 学校側が望んでいるのが王都を更に豊かにする為の魔法だけだとしたら平和ボケし過ぎてない?
「辺境出身のあなたには分からないかもしれませんが、Sクラスの生徒にはやんごとなき御方のご子息やご令嬢も居られるのですから、万が一授業中に怪我等されたらどう責任取るのですか?」
「ダレス先生、このSクラスの担任は私ですよ!?」
「マテア先生はこんな小娘に教えてもらうことが悔しくないんですか?大体今の王都は十分発展しています!今更戦争で使われた無詠唱魔法等必要無いんです。戦後詠唱魔法だけで我々は乗り切ってきたじゃないですか!それなのに、学長達は一介の教師の言葉等聞く耳を持たない。そんなに無詠唱魔法は素晴らしいものなのですか?」
辺境出身て……田舎のどこが悪い??
マテア先生が素直に授業を受けて下さってたから気付かなかったけど、確かにこんな考えの教師が居てもおかしくはないわね。
給料目当てで引き受けたけど考えた方がいいかな?
「ダレス先生、貴方の考えもこの王都民の1つだと思いますよ」
「アーサー殿下……」
「しかし、貴方は若干政情に疎いようだ」
アーサーのその言葉にロック、マイル、アイラちゃん、そして新人のマリーちゃんが頷く。
私がその教師が平和ボケし過ぎてると思ったのは、つい最近街中である物を見つけ、そこで現在のこの国の状況等を聞いたからだ。
それは決して安心してはならないものだった。
だからこそ攻撃魔法、防御魔法をメインに教えようと思っていたのだ。
アーサーの口振りや皆の様子だと、やはり私が聞いたことは間違いなかったと思える。
「今一度、学校長に確認してくることをお勧めします。何故我々が無詠唱魔法を学ばなければならないのかを」
「くっ……」
ダレス先生が去った後、アイラちゃんが私を心配したのか、「大丈夫ですか?」と、試験の時と同じ様に話し掛けてくれる。
アイラちゃん、癒しをありがとう。
「さっき聞かれたけど、私が教えるのは攻撃魔法と防御魔法中心になるわ。だから授業中に怪我をすることもあるかもしれない。その時は治癒魔法を掛けるけど、怪我した時の痛みは記憶に残る。それが怖い人や嫌な人は授業を受ける必要は無いわ」
「わたくしは何を言われようがレティちゃんに付いて行きますわ」
あ~アイラちゃん、ありがとう~
「勿論僕も国を守る者として受けるよ」
うおっ キラキラの笑顔が眩しい!
「俺は目標を達成させる為にも無詠唱魔法が必要だからな。剣を振りながら詠唱唱えるなんて面倒だし」
確かに剣でやり合ってる最中に詠唱してたら隙が生まれるもんね。
「わ、私だって、入ったばかりだけど、レティシアさんがギャフンと言うぐらいの魔剣士になってみせるわよ!」
はい、ギャフン頂きました!ツンデレ系ドジっ娘もなかなかイイネ!
「私もレティシア嬢が目標であるのでな。勿論ついて行く所存だ」
マイル、相変わらず堅い、堅いよ。でもありがとう。
「私は無詠唱魔法を会得した暁にはお見合いの釣書に載せてアピールするんです!」
マテア先生…。
「皆の意思を再確認出来て良かった。早速だけど、今までイメージで手の平に出してきた魔力をあの的に当てて貰えるかな?」
順番に狙って貰うと、新人のマリーとマテア先生が若干届かないようで、10分程経つとその二人も的に当てられるようになった。
全員に魔力を補給して、体調を整えてもらう。
そして二人組になってもらい、二組ずつ床に上がってもらった。
最初はアイラちゃんとアーサー組だ。
「もしかして撃ち合いするのかい?」
「そう、これから魔力を撃ち合ってもらうわ」
『物理、魔法、完全結界』
―キィン キィン―
床を基に25m四方の立方体の結界を張り二人を閉じ込める。
天井と四方には薄らと大型の魔法陣が描かれている。
「「!?」」
驚いている二人と、その他の皆に詠唱魔法で発生する魔法陣と無詠唱魔法で発生する魔法陣の違いもついでに説明する。
無詠唱魔法の魔法陣は青い光で文様が描かれているが、試験で見たアイラちゃん含めた受験生の魔法陣は薄い黄色でこの国の言葉で詠唱が描かれており、図書館の本によれば、それは他国も同じように自国の言葉が描かれているらしい。
結界が施されると、その立方体の中に無数のバレーボール大の光の珠を出現させ、空気、摩擦抵抗0を付与する。
「アイラちゃん、アーサー。この珠を魔力で破壊して。ちゃんと集中してね」
珠を動かし始める。最初はゆっくり、そして徐々スピードを上げていく。
少しでも放出した魔力が当たれば消えるように作ってはいるけど、当たれば結構ショックも受けるようになっている。
「『ウォーターボール!』」
アーサーは避けつつ、何とか1つずつ珠を消していく。
アイラちゃんは家で練習していたのか、開始早々召喚獣の兎を召喚した。
試験では詠唱を唱えていたのに、今の召喚は無詠唱の青い魔法陣だった。
「『我が命ずる!あの珠を破壊せよ!』」
召喚獣に半分任せ、立方体結界の壁でバウンドしまくる光の珠の数々をアイラちゃん自身も水魔法でカッターを生み出し、ドンドン消していく。
途中、アイラちゃんもアーサーも幾度か光の珠のアタックを受けたけど、10分程で全部消し去った。
その後、ロック、マリー組は二人共剣をお供に光の珠に立ち向かった。
初めて組んだと言う割には良い連携だったと思う。
最後はマイルとマテア先生だ。
マイルは魔力の使い方が上手だ。
魔力量はマリー以外の他のメンバーと大して変わらないが、センスがある。
今も光の珠が結界に当たって跳ね返ってくる角度も読んで、その場所に風魔法で作った30cm程のハリケーンを設置しながら、水魔法で他の光の珠を攻撃している。
マテア先生は………最後の最後で「脹ら脛がーーー!」と叫んで足を抱えていたが、3分の1程光の珠を消した。
皆、終わった後は息を切らしている。
「それじゃあ……」
「お、終わりですか?」
と、マテア先生。
「いいえ、今度はもっと(ソフトボール大に)小さくしてスピード上げますよ?」
「「「「「「!?」」」」」」
私はニッコリと微笑んだ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
入学してから初めて日曜日早朝、レティシアは街中を探索していた。
王都には噂のアレがあるはずだ。
その存在の情報については前世から知っていた。
そう、異世界と言えば冒険者ギルドだ。
物語やゲームでもお馴染みのシステム。
地元は田舎なので無かったが王都なら、と言う期待を胸に街中を歩いた。
そして漸く建物を見つけ、レティシアはそのドアを開けた。
予想通りの冒険者達、そして予想よりも比較的綺麗な建物内部。
(これが冒険者ギルド……)
レティシアは早速受付に行き、職員の男性に登録の仕方を聞いた。
異世界物では大抵可愛い女の子の受付嬢なのだが、この冒険者ギルドの受付は男性がやっていて、女性は奥で作業をしているようだ。
「登録は12歳からだけど、本当にお嬢ちゃんが登録するのかい?」
「はい、冒険者になりたいんです」
子供が登録するのは珍しくない。
薬草採取等の簡単なクエストがあるので、貧民層の子供や、冒険者希望の子供が登録しに来たりするのだ。
しかし「12歳です」と言う目の前の女の子は目を見張る様な美少女で、服装は動きやすそうなパンツスタイルではあるが、清潔な物だし武器を持っているようにも見えなかった。
「登録は出来るよ。でも簡単な薬草採取と言っても王都の外に出ることになる。外には魔物も居るから手ぶらじゃ危ないよ?」
「大丈夫です」
ニッコリと微笑む美少女に後は何も言えず、受付職員はレティシアの登録を済ませランクの説明をしていく。
クエストは左にあるボードに貼ってあること、ランクはSからGまで有り、Gランクスタートで1つ上のランクのクエストまでは受けれることを聞いたレティシアは、カードと王都、及び王都周辺の地図を受け取ると、受付職員に御礼を言い、早速ボードにクエストを確認しに行った。
ボード周りでは他の冒険者が色んな話をしており、中には隣の帝国に戦を構える動きがあると言うきな臭い話や、最近魔物が増える傾向にあるという情報も耳に入ってきた。
レティシアは情報に聞き耳を立てながら、GとFのクエストの中から薬草採取を選んだ。
先ずは小手調べだ。
クエストは熱冷ましに調合される『ヒンヤリ草』五本一束で銀貨一枚。
因みに銅貨一枚が日本円でおよそ100円、銀貨一枚でおよそ千円、金貨一枚でおよそ1万円、大金貨でおよそ10万円だ。その上に白金貨なるものもあるが、レティシアは見たことがない。
レティシアはクエストの羊皮紙を持って受付に行き、そのままギルドを出て行った。
夕方
レティシアが無事にギルドに現れたことに、受付職員はホッとする。
ヒンヤリ草は王都西側の草原に生息している草だが、最近見掛けなくなっていた。なので五本だけでも重宝されるのだ。
レティシアはニッコリと微笑むとヒンヤリ草の束を受付に出した。
職員は(ほう、アイテムボックス持ちか…)と思ったが、彼女はどんどん出していくにつれ、アイテムボックスの許容量に驚く。
「え?これ全部ヒンヤリ草??」
それは一束と言うより一塊で、数えてみれば50束もあった。
「それと、クエスト受付してない魔物の買い取りもお願い出来ますか?薬草採取してる時にエンカウントしちゃって……」
「ああ、あそこにはスライムやホーンラビットなんかも出るからね。流石にスライムは買い取り出来ないけど」
「あ、スライムじゃないです」
「じゃあ、そこの机に出して貰えるかな?」
レティシアは言われた通り机に出した。
「え?」
その机は横巾1.5m、縦60cm程の広さがあるが、レティシアが出した魔物は机の上に乗り切らず身体がダラリと垂れ下がり、結局床にボトリと落ちた。
「「「「「ワイバーン!?」」」」」
職員どころか、周りの冒険者もレティシアとワイバーンを交互に見てしまう。
「これ、君が倒したの?」
「はい」
ヒンヤリ草がある草原にワイバーンが出たと言うのは王都では初めてのことであり、そのワイバーンは1匹でもBランクの冒険者が手こずる相手である。
何せ空を飛んでいるので、切り付けるのも難しく、魔法士でもワイバーンを撃ち落とせる者は居なかった。
「ギ、ギルドマスター呼んでくれ!」
その後、レティシアは2階の部屋でギルドマスターから根掘り葉掘り質問されたものの、地元ではワイバーンはたまに見掛け、捕まえれば貴重な肉になったことも説明し、現在魔法学校にも行ってることを伝えると、唸りながも納得し、次回も同じレベルの魔物を捕らえた場合は、ギルドマスター権限でCランクに上げることも約束してくれた。
草原に現れたことについては、他にも現れないか警戒することになったらしい。
そしてレティシアはヒンヤリ草代金貨5枚とワイバーン代大金貨30枚ゲットしたのだ。
GETした分は全額仕送りします。