授業開始です
担任のマテア先生が学園長へ報告し、給料を出せるかどうか、出せるとしたら幾らか等が決定するまで、私は皆の魔法のLvを確認することにした。
合格してから詠唱魔法に関してはある程度把握していた。
試験問題に詠唱魔法についての問題があり、答えを書けなかったので、入寮した日に学校の図書館に潜り込み、読めるだけ読んでみたのだ。
アイラちゃんの召喚魔法は試験の時見たことあったが、他の3人はまだ見てなかった。
それぞれ得意な魔法を見せて貰うつもりだけど、その前に魔力を計ることにする。
《小型魔力計》だ。これは物置部屋に置いてあった本に作り方が載っていたので、3歳の時に造った物だ。
我ながら物持ちがいいと思う。
丁度万年筆ぐらいの長さで、万年筆よりは少し太い物だが、30秒程持てば中央に数値が表示される。
簡単に言えば温度計のようなものだ。
「こんな物初めて見るよ……これはサーディクの遺品かなんかかい?」
アーサーだけでなく、他の皆も魔力計をまじまじと観察する。
この学校で魔力を計ることがないなと思ってたけど、魔力計自体がこの国には無いようだ。
私が造ったと言えば作り方を聞いてくるだろうか?
そういやこの世界に特許法等あるのだろうか?
あるならば特許取ってからの方がお金にはなる。
取り敢えず今は頭の中で保留にする。
それぞれの数値は以下の通り。
アイラちゃん 500
アーサー 630
ロック 615
マイル 680
「レティちゃんはどの位の魔力がありますの?」
「あ……えっと……」
言えない……。正直皆もっとあると思ってた。
「1000ぐらいだよ……」
実際昨日計ってみたら20万超えていたのだが、そんなこと言えない。
化け物扱いされたくない。
「レティちゃん、わたくしはどんな数値でもレティちゃんに対する思いは変わりませんわ」
「確かに1000ではないと思う」
「俺の予想では1万ぐらいはあると思うぜ」
「僕の予想ではもっとあると思うんだけど」
アイラちゃんに対しては心苦しいのけど、今言えば多分広まってしまう。広めない為にはどうするか、それは言わないことだ。
「それについては授業の終わりに説明するね。取り敢えず今は得意魔法見せて?」
それぞれ披露してもらうことにする。
ロックの場合、火魔法が得意であるらしい。
彼は詠唱を唱え、手の平の上で1m程の炎を出した。
次はマイルの番だ。
彼は風魔法が得意だとのことで、子供程度の重さならば浮かせて移動させることが出来るそうだ。
これは詠唱が長かった。
最後はアーサー。
彼は光魔法が得意であり、回復系魔法が得意らしいが、これは誰かを傷付けるわけにもいかず、どの程度のものか口頭で説明してもらった。
説明によると、切り傷を治すこと、体力を回復させることは出来るらしい。試験の時は疲れた教師に魔法を掛けたそうだ。
この時の詠唱も聞かせてもらったが、やはり効力のある魔法には長い詠唱が必要とのことだった。
そうしてる内にマテア先生が教室に戻り、無事給料が出るとのことになった。
口約束は怖いのでちゃんと証文にして貰って良かったと思う。
金額は教師に出してる給料の6割程度、事務仕事等をしない為、その程度しか出せないとのこと。
それと無事に無詠唱魔法を生徒が会得出来ればボーナスが貰えるらしい。
これを見て私の目が輝いたのは仕方ない。
「それでは今から無詠唱魔法の授業を始めます」
私は4人の生徒の顔を見ながら深呼吸する。
彼等は今まで詠唱魔法しかしてこなかった。
その詠唱魔法の概念から壊さなければならない。
「まず、詠唱魔法と無詠唱魔法の違いについて」
「詠唱魔法の場合、詠唱によって魔法陣が出現しますが、その詠唱によって威力が違うのは魔法陣に組み込まれている詠唱の長さが違うからというのは皆理解していることと思います」
「レティシア~今更丁寧な言葉使われても微妙だぞ~」
マテア先生以外の3人が頷く。
「う~ん、それでは…………これは、小、中、大の魔法全てを詠唱で決め付けているに過ぎないの。だから詠唱魔法を使う魔法士は火の魔法であれば、小の大きさの炎を出すにはこの詠唱、中の魔法を出すにはこの詠唱と、詠唱だけに頼ってしまい、使う魔力も制限されるのよ」
「それは使う魔力が決められているならば身体に危険が無いからでは?」
マテア先生が声を挟む。
因みに先生の魔力は750だった。
「確かにそうです。しかしそれでは無詠唱魔法は使えません」
流石に先生には丁寧に話すことにする。
「俺は強くなりたい、マイルもアーサーも同じ気持ちだ。特に俺とマイルはアーサーとは友達でもあるが、護衛役も務めている。強いに越したことはない」
成程、最初から仲が良いと思ったら護衛も兼ねてるのか。
ロックの言葉にマイルとアーサーが頷き、アイラちゃんも「強くなりたい」と可愛い声で言った。
うん、燃えてるアイラちゃんも可愛いな。
「先ず、今日から詠唱を唱えるのは禁止。そして手の平を上にして。無詠唱魔法はイメージすることが大切なの。そのイメージも具体的でなければ意味が無い」
私は4人の様子を見ながら説明していく。
「例えば火であれば、焚き火の火や竈の火、蝋燭の火や火事の火、全く違うわ。それを頭でイメージするの。水でもそう。生活に使う水と流れる川の水、その川でも上流と下流では流れも速さも全く違う。さっきは得意な魔法を見せて貰ったけど、皆生活に使う魔法は詠唱で出してたんだよね?特に水は身近なものだし、その手の平に水を出してみて、ちゃんと手の平に収まる程度の水をイメージするのよ」
先生を含めた5人は目を閉じイメージする。
「駄目、目を開けて。皆は敵の前で目を閉じるの?」
その言葉に5人は慌てて目を開ける。
目を開けると言うことは色んな情報が目から入ってくると言うことだ。それ故に集中するのが難しくなる。
「難しいですわ……」
それから5分程してからだろうか、先生を省く4人は手の平に水を出すことに成功した。
マテア先生に関しては、詠唱魔法を使った年数が生徒より長いからだろうか、まだ生み出せていない。
私は自分の両手の平に即座に水を出現させる。
そしてその水を綺麗な珠の形で浮かせ、維持したまま微笑んだ。
「その笑顔、恐ろしいのだが……」
「マイル、減点1」
「え!?」
「はいはい、集中しないと手の平から水が溢れてるわよ?先ずはこの様に水を珠にして。それが出来たら維持すること」
一番乗りはアイラちゃんだった。少し歪な珠であったが浮かんでいる。しかしそんなアイラちゃんは喜ぶより段々顔色が悪くなっていった。
多分魔力切れ間近なのだろう。
私は水の珠を右手に移し、左手でアイラちゃんに魔力讓渡の魔法を放つ。
「??ま、魔力が回復してますわ」
「皆にも様子見て魔力供給するから頑張って」
それから全員の様子を見て魔力を供給し、その日の授業は終了した。
終了時にマテア先生がちょっぴりではあったが漸く水を手の平に出せて大喜びしていたのには少しホッコリした。変にプライドが高い人じゃなくて良かった。
魔力を供給していたとしても、集中すること自体が疲れることであった為、授業後は皆グッタリしていた。
そこで私は宿題を出すことにする。
マテア先生には出せた水を珠にすること、そして珠に出来た生徒達には家でも維持してみること。
「もう1つ……教えておくことがあるの」
「何でも言って欲しい。僕は強くなりたいんだ」
皆の決意は予想外に固い様だったので、私にとっては基本中の基本を教えることにする。
「魔力を枯渇させるぐらい魔法を使うと、持ってる魔力が少しずつ増えるの。個人差はあれど、確実に。才能に合わせて上限はあるけど。だけど魔力切れ起こすと暫くは起き上がれなくなる可能性がある。これを行うのならば必ずお家の方の了承を得て欲しい。私がこのことを話すのは、今日も皆感じたからかもしれないけど、詠唱魔法と違って、無詠唱魔法は自分で魔力を制御しないといけないから。制御が甘いとそれだけ余計に魔力を消費するの。でも魔力を上げつつ制御力も上げれば詠唱魔法よりも素早く効果的で威力の強い魔法が使えるようになる。もし皆の魔力が増えて私の魔力量に近くなったら数値を教えるね」
魔力切れを起こさない為、効果と魔力を決められた詠唱魔法をしてきた彼等にはこの方法は酷だとは思うが、私がこの学校に居るのは2年間だけだ。
その間に無詠唱魔法を教えて皆をレベルアップさせる為にはスパルタでいくしかない。
もしそれで誰かが詠唱魔法に戻ったとしても仕方ないとは思うけれど。
まぁ2年間では誰も私の魔力を超える子は居ないだろう。伊達に長年特訓はしていない。
「家族を説得致しますわ」
「俺も」
「私もだ」
「当然僕も」
「私には心配して反対してくれる妻もおりませんし………」
マテア先生に哀愁を感じたが、それは横に置いといて、無事に教師1日目が終わった。
次の日全員が出席していた。
もしかすると1人か2人ぐらいは起き上がれずに欠席するかもしれないと予想していたのだが。
「家族に話したらMP回復のポーションを用意してくれたんだ」
「あ、わたくしの所もお父様が……」
「俺も用意してくれて、何度でも試せって言ってくれた」
「私も母上が大層乗り気でな。直ぐに用意して貰った」
「私も予備が家にあったので、まぁ、飲ませてくれる人は居ませんから頑張って自力で飲みましたが」
先生は兎も角、そういや皆お金持ちだったわ…。
う、羨ましくなんてないんだからーーー
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「アーサー、今日はどうだった?無詠唱魔法は習えたのか?」
顎髭を蓄えた男は、いつもの玉座に座って謁見している時とは違って眼差しが柔らかい。
彼は美少女と見間違える程、自分の妻に似て美しく賢い息子を心から大事に思っている。
勿論第一王子であるアーサーの兄であるジークフリードも大事なのだが、そっちの息子は昔の彼に似てガサツなのだ。
しかしジークフリードはガサツであっても剣の腕は確かであり、何より民のことを思う(度々城を抜け出して城下に行ってるらしい)正義感溢れる息子だ。次期国王に相応しいのは長男であるだろうと誰もが思っているし、父である彼もそう決めている。
そんな中、このアーサーは自分も強くなって国王になった兄を守り、バックアップしたいと言ってくれた。
この言葉に少々ブラコン気味であるジークフリードは感激し、その日はアーサーから離れなかった。アーサーは多少困惑気味であったが。
隣の帝国では誰が次期国王になるか、継承権を巡って争いが起きていると聞くが、彼は本当に良い息子達を持ったと心から思った。
「はい、今まで習っていた魔法への概念があっさりと崩されました」
物騒な言葉だが、アーサーは笑顔だ。
「噂通りサーディク・ダークサイトの子孫である彼女は凄いです。今日は魔力量を計る器具を持っていました」
「魔力を計る器具だと?」
「はい、その場ではサーディクの遺品かと尋ねましたが、それにしては新しい物に感じました。僕の予想ではその器具、《魔力計》を造ったのは彼女ではないかと思っています。そして今日の授業で分かったことがあります」
「ふむ?」
「僕達生徒、そして担任の先生の魔力を平均しても600越える程ですが、彼女は少なくとも1万以上」
「1万だと!?」
「彼女は僕達の数値を見て一瞬顔が強張りました。そして自分は1000ぐらいだと言ったのです。しかしその後の授業で僕達が魔力切れを起こしそうになった時、彼女は何度も魔力を供給してくれました」
アーサーの目に嘘は無い。
サーディク・ダークサイトについて代々国王に伝えられている言葉がある。
『サーディク・ダークサイトの子孫、及び血縁者には慎重にあたるべし。万が一、サーディク程の魔力を持った子孫が王都に現れても、その者の意見を尊重すべし。もしこれが破られれば国は滅ぶだろう』
この言葉はまだ息子達に伝えていない。
しかしこの言葉は国王に代々呪いの様に受け継がれている。
果たしてその子孫がサーディク程の魔力を持っているのかは現時点では分からない。
アーサーによれば、もし生徒達がその子孫の魔力量に近付いたなら数値を公開するとのことだった。
「アーサー、魔力計だが、慎重に交渉して貰えないだろうか?」
「時期を見て話してみようとは思っています。どうやら彼女は実家に仕送りしたいようなので、その辺を考えて交渉すればいけるかもしれません」
「アーサー、決して無理強いしてはならぬぞ」
「心得ております。それと父上、その器具を見て思ったことがあるのですが」
「何だ?」
「ダークサイト家はお金が無いと彼女は言っていました。しかし魔力計のような器具が造れるなら、領地でも他に見たこともない物が造られているのではないかと思うのです。それを流通させてないのではと。出来ればダークサイトの領地へ誰がを行かせて確認させては頂けませんでしょうか?」
「・・・・・」
「父上?」
「それはならぬ。もし訪ねるにしてもその彼女と領主の許可を貰わねばならぬ。その理由についてはいずれジークフリードとお前に伝えようとは思っている」
アーサーは暫く黙り込むと、話を切り替えて今日の宿題について話し出した。
宿題の内容についても更に驚き、意外にアーサーが楽しそうなので、王宮で所持しているMPポーションを用意することにした。
(近い内にこの国がサーディク・ダークサイトにしたことの真実も話さねばならぬな)